第81話 眩き存在
そこは、あらゆる数値の薄い世界。
神の怒りに触れた存在が投げ込まれる、決して日常に関わることの許されない、永遠の罪科を持つ存在の隠棲処。
この空間にいる存在の一つ。
大の字になって、ただ時間が過ぎるのを待つしかない運命にある、時の牢獄の捕囚者。
その存在に対して、何かが力を行使している。
神か。
いや、神はもう決してこの捕らわれた存在に関わることはない。
ではなにか。
“俺の眠りを妨げるゴミは誰だ、誰であろうと俺はお前に対して、あらゆる感謝を述べて服従するぞ”
その捕囚者は、口には出さないがそう思った。
力は時を増すごとに強くなっていく。
お? 俺をここから出そうというのか?
この相剋域は、神さえ制御しきれないというのに……
神に等しき存在が、この俺を呼ぶのか。
本当に?
本当にやってくれるのか?
神以外にこの俺に気をかけてくれる者がいる、どの世界の、どんなクズ野郎でも俺はお前に従う、隷属する、服従する、そうだ、おれはお前の奴隷だ。
早くここから出してくれ、俺の気が変わらないうちに。
◇ ◇ ◇
アルデローン帝国の西域にある、騎士団所属の秘密施設の地下大空洞で、召喚の儀を行っていた大魔導士ルード。
彼の弟子たちを含め、この場にいる7人は、通常では感じられることのない空間の歪みと、強大な磁場の変動を感じていた。
「ルード様、何か変です。
この磁場というか、空間の歪みはあまりにも異常です、想定を超えた危険なものが出てくる可能性があります、すぐに中止を!」
弟子のひとりが叫ぶようにルードに提言した。
魔導士ルード、この世界に4人いる魔導士と呼ばれる、魔術を極めし者の一人。
いや、正確にはすでに3人になってしまった内の一人である。
「だめだ!
何のために、お前たち全てを立ち会わせていると思ってる。
たとえエンシェントドラゴンが出てこようが、我々が抑え込むのだ!
強大であればあるほど、むしろ有難い、お前たちの力にかかっている!」
その禍々しき空間の歪みは、周囲の者たちの本質的な恐怖を呼び起こした。
痛み、寒気、吐き気、そして意味不明の不快感……
これらを伴って現れるものとは、決して自分たち人間にとって、好ましき存在ではないだろう。
ここにいる彼ら全てが、起こりうる未来に恐怖した。
逃げ出そうとする魔導士の弟子たち。
だが、ルードが張った結界は内側に作用し、外に出ようとすることを許さない。
「魔導士さまぁー、も、もうっ…… もう限界です!」
弟子たちの叫びが広大な空洞に響くが、ルードは聞く耳を持たない。
やらなければならない、より強力な存在を、この世界に呼び出さなければならない。
たとえそれが人間にとって害悪の極みとなろうとも、国と街を消し去る邪悪の源と戦えるもの、この地上にはいない、狂悪の権化を召喚しなければ、人類の未来はないのだ。
それは空間を引き裂いて現れた。
空間そのものの叫び声、響きわたる絶叫。
痛みのあまりに絶叫を上げる、通常空間の断末魔の声が、大空洞に響き渡った。
「……な、なんだ、なんなんだ」
ルードは声にならない声を上げた。
まるで卵状の膜を引き裂くように空間が断裂、そこからでてきたのは……
眩いばかりの白銀の羽根をたたえた、まさに天使。
「おおおおおっ、なんと、なんという神々しさ……」
ルードは、その姿を、あまりにも眩いその天上の存在の姿を正視することができなかった。
弟子たちは、目を覆うばかりでうずくまり、あるものは手を合わせて石のように固まっている。
成功だ、大召喚術は成功だ! この世界は救われる……
神よ、なんと言えばよいのか、神よ……
「……なんだ、ここは」
その眩いばかりの神々しい存在は、唐突に不快な声でそう言った。
地鳴りが始まる。
召喚術は成功した。
しかし、大地の地鳴りが続き、さらに力を増しているようだ。
「召喚者様、わたしは魔導士ルード、あなたを召喚したものです」
「あ? ああ、俺を呼んだのはお前か……
お前人間なのか?
人間が俺を、あの相剋域から出したのか。
お前すげぇーな、大したもんだぜ」
「え?」
あまりの下卑た返答ぶりに、ルードは怯えに近い感情を持たざるを得なかった。
神の使徒、それに等しき輝きを持つ存在の口調とは、とても思えなかったからだ。
地鳴りが、威勢を増している。
立っていられない程のそれは、召喚術の空間の歪みの比ではなくなってきた。
「……召喚者様、この、この地鳴りはなんでしょうか?」
「は? 俺が知るわけねぇーだろ、今飛ばされたばっかなんだし。
ま、ありがとよ、感謝はしてるぜ。
早速だが、俺は何で人間に呼ばれんだ?」
「はい、実はですね」
ルードがその先の説明をすることは、永遠に叶わなかった。
地底から突如突き出た、赤褐色の刃。
突き刺すというより、肉体ごと千切れとんだルードは、一瞬にしてその原型を爆散させ、人ではなくなってしまった。
周囲にいた弟子たちは、泡を吹いて失禁し、あるものは気絶し、あるものは動くことすら出来ずにいた。
その刃は、横薙ぎに、その場にいる人間たちを分漸し、肉の破片となした。
「まったく…… 他でやれやクソども。
ははぁーん、なるほどな。
これのために俺を呼んだのか。
それにしてもなんだてめぇは、気持ち悪ぃーな」
眩き者は、噴き上げるように涌き出てくる赤褐色のアメーバを腕の一薙ぎで消滅させる。
消滅させた端から、新たなものが出現する。
「……くだらねぇ。
こんなことのために俺を呼びやがった。
下等生物どもめ」
その天使の羽根を持った眩いゴロツキは、大空洞を粉々に破壊して飛び去って行った。
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