第80話 約束の対価
「というわけで、あの鹵獲戦艦は自分の意思で統合意識との並列リンクを切り、一洸の保管域に留まることを希望しています」
エイミーの報告を聞くホワイト大佐の表情は複雑であった。
その本音を読み取ることの難しさは今始まったことではないが、彼女にとっての“おじさん”は、今目の前にはいない。
ホワイト大佐の目的は、敵ネクスターナルの脅威の排除、可能なら現状の技術レベルの把握とその対策で、彼らとの意思疎通ではなかったはず。
だが敵は当初の目的を越えて、一洸の管理下のもと、連邦に協力するとまで言ってきている。
今回の鹵獲作戦では、とにかく自分の役割は果たすことが出来、“おじさん”の顔に泥を塗ることもなく、損害も出なかった。
それだけでも良しとしよう、エイミーはそう思うよう自分に言い聞かせていた。
「……それで、君は話をしたのかな、“戦艦”とは?」
「いえ、直接には。
あの空間の中で紹介された、三人の亜人の女の子と魔導士一人は、名付けられた“アール”と、果敢にコミュニケーションしているようです」
「話しづらかったかい?
敵の戦術管制AIだ、無理もないが……
エイミーなら積極的に接触すると思ったけどな」
エイミーは、一瞬“おじさん”に戻ったホワイト大佐に心を開こうとしたが、自分の心に帳を降ろす何か、がそうさせないようだ。
その心の襞の正体が何なのか、久しぶりに生じた内心の葛藤の闇に、小さなため息をつくのだった。
「当面、このまま現状維持だな。
一洸には、我々の検証作業に協力してもらおう。
鹵獲戦艦の統合体とのリンクが復活すれば、奴は統合意思のもとに活動しなければならなくなる。
保管域にいる限りその心配はないのなら、そのまま検証作業を実施する。
一洸の処遇だが、私の権限で軍属としての地位を与え、以後は連邦の協力者となってもらうしかないな」
「そうですか。
今回の任務において、一洸は随分と熱心に働いてくれました。
魔法を駆使したこの戦術は、私にとっても随分勉強になった部分があります」
「そうだろうな。
実は…… 彼とある約束をしたんだ」
「約束?」
「ああ、彼があのラウンドバトラーに乗りたいんだそうだ。
どうやら彼の時代の人間にとって、人型戦術兵器への搭乗は一つのドリームだったらしい。
私も昔の映像やコンテンツを見る限りにおいては、無理もないと思ったがね」
エイミーは、一洸がバトラーを見る時の目を思い出した。
そういうことだったのか。
疑念の心を持つまでに、自分に協力的だと思ったその理由がこれでわかった。
「ですがまさか…… 彼に搭乗を許すのですか?」
「約束だからな。
ネクスターナル戦艦をほぼ無傷で鹵獲してきた対価だ、むしろ安いくらいだろう」
エイミーは、自分の中に湧きあがる複雑な思いに動揺しかかった。
彼がバトラーに……
あれを駆るのが、どれほど難しいかわかっているのだろうか。
AIは支援とサポートはするが、あくまで動作をするのは人間、操縦者である。
たとえ神経接続をした上で操縦したとしても、システムとの親和性は天性のもの、訓練ではたどりつけない天賦の才が要る。
それが彼女のバトラーに対する想い、敬意でもあった。
シュミレーターで手足のように慣れるまでの時間を思い出し、“出来るものならやってみろ”と言いたくなる自分を抑えた。
「彼がシュミレーターの貸し出しを希望してる。
それが終わったら、兵装を外したバトラーを一機提供する。
その機体の監視と管理を君に頼みたい」
エイミーは、軽く息を吐いて心を落ち着かせていた。
お手並み拝見としようか。
「了解しました」
◇ ◇ ◇
“……一洸、お前は本当に凄いな。
これを全部保管していたのか、私が人間として活動していたころの映像が、夢にまで見たものが……
なんてことだ、まったく……”
アールはただただ興奮して、オレの提供したフォルダのコンテンツを見ている。
このAIが人間の身体を棄て、チップになったのはオレが転移した年から十数年後くらいらしい。
あの時代を、オレとアールは同時に生きていたと言うことになる。
オレはオレで、電力を供給してくれたおかげで、引っ越し時の家電品が全て復活した。
冷蔵庫は必要なかったが、飲み物類を冷やしておけるのは助かる。
ネフィラは、ファイルのリストを見てもただタイトルがあるだけで、内容はわからないだろう。
だが一つ一つ洩らさず見ていくつもりらしく、その目の輝きは尋常ではなかった。
ミーコたちは、そんなネフィラの後ろから興味深そうに眼を動かしている。
「……なんか、懐かしいな。
おにいちゃんの部屋、あたしの部屋」
映像に出てくるマンションの部屋を見て、ミーコが呟いた。
このPCも彼女たち用に一人ずつコピーしてもらうか。
“なあアール、さっきまでおいてあったあの人型ロボット、あれどう思う?”
この、オレと同じ時代を生きたAIなら、あのバトラーを無視することはできないだろう。
“ああ、あれね。
そりゃ、興味深いさ。
一洸がどう思ってるのかもわかるよ”
オレはアールに見えるように、ニヤリと口元に笑みをうかべた。
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