第77話 生きている
宇宙艇の中に鋲を打って保管域に入ると、跳ね回っているミーコたちに抱き着かれた。
タックルされたようになったので、オレはその場に座り込んでしまう。
見上げると、いつもの荷物置き場からは少し離れたところになるだろう、巨大なネクスターナル戦艦が静かに横たわり、港に停泊しているタンカーのようにも見える。
受けた戦傷はそれほど痛々しいものでもないようだ。
大破していたらと思うと、この戦艦のことを心から心配している自分に気づいた。
オレは、保管域に鹵獲したあとの予定を実行する。
「レイラ、それじゃ頼む」
レイラは待ってましたとばかりに頷き、離れた戦艦へ大きく掌を向けると、その艦底部分に魔法の光を当てた。
みるみるうちに、底部は石の台座状のもので固められ、戦艦は完全動作不能の状態に陥っていく。
何せこの体積である、しばらくレイラは魔法を浴びせ続けた。
ミーコとアンナは、まるで銃を向けるが如く、掌を戦艦に向けて、いつでも暴威を射出できるようにしている。
この子たちも大分場慣れしてきたな、何も言わずともこうしてやってくれる。
エイミーがバトラーから降りてきた。
「一洸、一応起動制御を解除しているだけで、この艦の量子魚雷は発射可能なのよ、気をつけておいてね」
三人娘は掌を戦艦に向けながら、オレとエイミーのやりとりにくぎ付けになっている。
「……一洸、あの、この子たちは魔法でこの船を抑えてるのよね?」
オレはレイラの艦低固定作業が終わったのを確認すると、みんなを手招きして呼び寄せた。
「紹介しますね、こちらからミーコ、アンナ、レイラ、みんな冒険者パーティ“ブラザース”のメンバーで、最後の一撃の立役者たちです。
こちらはエイミー・ロイド少尉、今回の戦艦退治の仕事の依頼人で、連邦軍の軍人さんです」
オレは三人にエイミーを紹介。
互いに微妙な間があったが、オレは気にしなかった。
ネコミミやウサミミを突っ込まれるかと思ったが、その辺りは既に慣れているのだろう、敢えて聞かれることもない。
「「「エイミーさん、はじめまして」」」
「……みなさんの魔法、本当にすごいのね、戦艦を行動不能にするなんて言葉がないわ」
ミーコはエイミーに何か聞きたそうな様子だが、我慢しているのが伺えた。
女性同士の微妙な立場を察する気遣いは、オレに求められても無理な話だが、三人娘たちからはなんとなく堅い印象を受ける。
彼女が、闘技会の仮面の剣士だということは伏せておいた。
ミーコのネコミミが、いつもと違いピクピクしていたのが印象的だ。
荷物の影からネフィラが顔をのぞかせて、まるで隠れたネコのようにこちらを見ている。
オレは大きく手を振り、ネフィラを手招きした。
「……わたし、出てきてよかったのかしら?」
ネフィラはそう言いながらも、優雅にエイミーに挨拶する。
「エイミーさん、こちらはあのバトラーの“影”を演出してくれた、魔導士のネフィラさんです」
「魔導士…… 魔法使いの人なんですか?」
エイミーのネフィラへの食いつきは、予想外だった。
“魔法使い”
その言葉は、時代を越えてオレの世界の常識下にあっては、言葉にできないほど魅力的なものなんだろう。
闘技会までの偵察で、この世界が剣と魔法の世界だと知っていたはずだが、魔導士ともなると話が違うようだ。
まさかこのエイミーまで……。
「魔導士…… 魔法使いって、宇宙空間でも魔法が使えたって本当に驚きです。
センサーにも反応しないのに、この戦艦を欺けるなんて、信じられません」
ネフィラはにっこり笑うと、手を一振りして、まるで風に舞う木の葉のように、宙に舞い上がった。
唖然とするエイミーの顔は見ものだ。
三人娘たちは拍手してネフィラ先生を持ち上げている。
このまま放置してもいいが、悪乗りしそうだな。
そう思っていた時、エイミーのセンサーが何かに反応したようだ。
彼女の見ているものは、網膜に映された情報の確認。
エイミーは、横たわるネクスターナル戦艦を見て言った。
「一洸、この船、私たちを見てるわ」
「え?」
「戦闘行動はとれないけど…… 目はもちろん生きてるの。
センサーで、私たちの行動や会話をスキャンしてるみたいね」
オレは戦艦を見上げた。
もしこれに乗って宇宙を旅することになったら、それはそれで楽しいことなのか……
それまで持っていた常識も見識も、価値観さえガラリと変わるだろうな。
光速移行、超次元ジャンプ、いわゆるワープみたいなものだろう。
自由に銀河を旅して、危険が迫ったらシールドで守られて、もし攻撃されたら魚雷で反撃。
悪くないかもしれない。
保管域に入っている限り、時間経過がないのだから、問題があるとすれば……
退屈するかもな。
こんなことを考えられるとは、今はそれだけ余裕があるってことか。
微かに音がした。
音楽が鳴っている。
クラシックのようだ、高い音域が続いている。
レイラのスマホのイヤフォンから音が漏れ出ていた。
「……あ、あの、私操作してないのに、どうしてですか?」
レイラがオレに縋るように聞いてきた。
エイミーもオレも、三人娘も、ネフィラまで戦艦を見上げている。
その巨大な船は何も言わなかったが、確かに生きているようだ。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白い、続きが読みたい!」と思われた方は、
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つで
評価をお願いします、大変励みになります!
ブックマークも頂けると本当にうれしいです。
↓ ↓ ↓
引き続きお読みいただきますよう、
よろしくお願いいたします!




