第76話 戦艦鹵獲
敵斥候、影に砲撃後に距離を詰めてくる。
オレは4Dモニターを見ながら、次元窓展開可能な辺りまで近づくのを待つ。
モニター経由で視認できるレベルまでの距離。
これが宇宙空間で使用するこの権能の限界らしい。
コミュニケーターからのエイミーの緊張が伝わってくる。
再び閃光が影を貫いた。
貫くというより、単に光が通過しただけにすぎないのだが。
ネフィラの作った影は、量子魚雷の直撃をものともせず、相変わらずそこに存在している。
まだ奴の姿は視認可能な距離までにはない。
一体どんな船体なのだろうか、航行群のような筒状なのか、それとも円盤なのか。
これはまるで釣りだな。
オレは素直にそう思った。
“一洸、敵はスキャンしてるわ”
モニターで影を見ると変化はないが、下部にある数値のカウンターが激しく変動している。
それは突然やってきた。
ブウゥンという空間の振動音とともにジャンプしてきた。
全長370メートルと表示されている。
モニター上では点にしか見えないが、4Dスクリーンに映し出されたそれは、圧倒的な威容であった。
巨大なドリル状の巻貝のような先鋭的なフォルム、船体後部にはスラスターの噴出口だろうか、光が瞬く部分がある。
“……始まるわよ”
エイミーが伝えてきた。
敵戦艦は、ラウンドバトラーの“影”を前に、まるで蛇が小さなカエルを捕食するかのように、食べる気満々な様相だ。
モニターから、ある部分の数値がスゥーっと低下する。
知らされていた部分だ、シールドを切ったな。
エイミーはレーザーを撃った。
量子ドットの眩い光が、シールド発生部位と予想される部分を直撃する。
次元窓のあった空間に向けて量子魚雷が発射された。
当たるはずもないので、そのまま通過してしまう。
敵斥候戦艦は恐らくなすすべもないのだろう、このまま逃げるか?
スラスターの光度が急激に増した。
オレは次元窓を開け、間髪を入れずにエイミーはスラスターに向けてレーザーを発射。
直撃をしたのにダメージはないようだ。
“一洸、あれは位相差シールドじゃないわ…… なにかの対攻撃シールドを張ってる”
このまま光速移行、もしくは次元ジャンプか。
そうはさせない。
お前を狩り取る対価は、オレの夢なんだ。
“ブラザーズ、収束レーザー氷石獄!
あの貝殻の光る尻に向かって撃てー!!”
オレはそう叫ぶと、三人娘たちの次元窓を一斉に広げた。
眩い光の束に導かれた、ダイヤモンドのように固い氷と、ダイヤに比肩するほどの硬度を持った鏃の密集した束が、敵斥候戦艦の後部、スラスター噴出口に襲いかかる。
宇宙空間で盛大に撃ちだされたそれを見るのは勿論初めて、効果の有無も検証していない。
ただ、単発での地上の破壊力は想像を絶したものだった。
収合発射した場合、ここでどうなるか。
それはすぐにわかった。
ネクスターナルの戦艦は、吹き飛ばされたスラスターから、まるで傷口から血をしたたらせるように光の帯を引きながら、そのまま停泊している。
“……一洸、あなた、何をしたの?
対艦兵器も持ってたの?
戦艦のシールドを破壊できるなんて、どうやったらそんなこと……”
エイミーの驚愕がそのまま伝わってくる。
ミーコたちに繋いだ。
きゃあきゃあと跳ね回って歓声を上げる三人娘の声が入ってくる。
“みんなよくやってくれました、ありがとう、本当にうれしいよ”
オレは心からの喜びをミーコたちに伝えた。
“ネフィラさん、おつかれさまでした”
ネフィラは一呼吸おいてから返信してきた。
“よかったわね本当に…… わたし、自分の事みたいに嬉しいわ。
あとでご褒美ちょうだいね♪”
オレは一瞬戸惑ったが、努めて平静を装う。
ご褒美……
まぁいい。
とにかく、久しぶりの嬉しいひと時だ。
思えばこの世界にやってきて、それほど喜ばしいこともなかっただけに、本当に久しぶりの興奮、歓喜、達成感だった。
さて。
“エイミーさん、おつかれさま。
あとで色々説明をするから、またその時に。
もちろん、怪我はないですよね?”
“大丈夫よ……
あの、あの女の子たちが撃ったのよね。
あれは魔法なのよね?”
“そうです、三人が別々に使う魔法の掛け合わせですけどね。
もしもの保険として、スタンバっててもらいました。
でもよかった、これで斥候はもう動けないでしょうし”
“……そうね、取り敢えず勝ったわね”
エイミーは釈然としないのだろう、その思いもコミュニケーターはそのまま伝えてくる。
400メートル近いドリル状の貝殻のようなシャープな船体のネクスターナル戦艦。
優雅さと美しさでは、連邦のそれよりも魅力的だ。
人を棄てた“意識”のチップが支配するマシン生命体。
当然人間は乗っていないだろう。
話はできるのだろうか。
現状では位相差シールドは展開できないし、スラスターも破損して航行不能、もちろん次元ジャンプもできないだろう。
このまま鹵獲してもいいが、保管域の中で自爆でもされたらやはり事だな。
オレは予め決めておいた動きを進めることにした。
“エイミーさん、では予定通りお願いします”
“ええ、今始めてるわ”
エイミーのバトラーを統制しているAIとセンサーが、敵戦艦のスキャンをして稼働可能な兵装の確認と解除をしている。
位相差シールドを解かれた対象は、センサーによって走査可能で、余程の先進技術でない限りは秘匿不可能だと知らされている。
“大丈夫みたいよ、自爆シーケンスもリモートで解除したわ。
シールドもロックしたので、もう裸同然よ”
オレは、ゆっくりと宇宙艇にコマンドしてから敵戦艦に接近した。
我ながらこれほど大胆になれるとは思っていなかったが、自分でも気づかない程、あのラウンドバトラーへの欲求は強いらしい。
ただ鹵獲するという目標に向かって、オレは突き進んでいる。
オレは静かに敵戦艦に接合した。
プラグスーツ越しにではあるが、それに触れる。
その瞬間、ネクスターナル戦艦は空間から消えた。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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