第75話 影
オレはシュミレーションルームにいた。
エイミーとオレは、敵ネクスターナルの斥候機から、現在の航行群までの位置を示す概略投影を確認している。
極大から至近へ、4Dスクリーンに空間が階層的に表示。
見事としかいいようがないシュミレーションで、そのビジョンは現実の未来予想を遥に超えている。
斥候までの距離は、とてつもなく離れていた。
◇ ◇ ◇
ミーコたちは、次元窓からオレがシュミレーションルームに投影されている様子を見ている。
投影された映像、航行群から離れた位置で、敵のポイントが動く。
その途中、自分を示す青いポイントから少し離れた場所に、偽装機の薄く青いポイントが敵に近づく。
敵が攻撃するが、青いポイントを通過する……
「……おにいちゃん、あの知らない女の人と仲良さそうにしてるけど、話している内容がよくわからないよ」
「一洸さん、これから倒す敵の動きを、予見して動かしているみたい」
「……あの、ここ、一洸さんも私たちも、空の上なんだよね」
次元窓から様子を伺うミーコ、アンナ、レイラの三人、その後ろからネフィラが自身満々で声をかける。
「あなたたちなら大丈夫よ、一洸さんは今回の仕事を絶対に成功させたいと思ってるの!
みんな気を引き締めていきましょうね」
ネフィラはいつもの笑みを浮かべている。
“これが上手くいったら、ちょっとだけ我がまましてみようかしら。
それくらいいいわよね、わたし、絶対ヘマはしないから。
うふふふふ、楽しみ”
ネフィラは声をださずに呟いたつもりだったようだ。
“ネフィラさん、何か言いました?”
オレは、微かに聞こえたネフィラの声を確認するように応答する。
“……うん、なんでもないわ、気をつけてね”
ネフィラはそっと胸をなでおろしている。
“この、コミュニケーターっていったかしら…… 性能凄過ぎよね、気をつけよっと”
◇ ◇ ◇
オレはエイミーの乗ったバトラーを収納した。
“……わたし、こんな戦闘は本当に初めてなんだけど、
あなたは慣れてるみたいね。
とっても初陣とは思えない落ち着きぶりなんだけど、どうして?”
エイミーは、後から入ってきたオレにコミュニケーターで話してきた。
“……それはどうも。
初陣も初陣、宇宙空間にでたのもついさっきだったので、何もかも初めて尽くしですよ。
エイミーさんこそ、堂に入ってますね”
戦闘のブリーフィングでは、堂々としていたが、心なしかそわそわしているような印象を受けた。
聞いていなかったが、ネクスターナルに直接攻撃をかけるのは、初めてなのではないか……
これはあくまで、オレの勘だ。
この作戦のポイントは、敵が位相差シールドを解除した瞬間。
保管域の中から魔法による偽装投影を行い、そのテストをやった時は連邦側のセンサーには反応しなかった。
ただ、そこにはまるで実体があるかのような質量感が存在している。
「……これが、魔法の力なのか」
センサーを見ながら、全く反応のない様子を見たホワイト大佐の顔が印象的だった。
その期を逃したら、この作戦は失敗。
ま、失敗しても死ぬことはない、誰も。
今オレとエイミーが乗っているのは、遮蔽された宇宙艇だ。
彼女の愛機はすでに保管域に収納されている。
もっとも見つかりにくい限界まで小さい小型艇で充分だということは理解してもらえたが、やはりバトラーを一瞬で収納した時は、大佐やデッキのスタッフは皆口を開けたまましばらく言葉がなかった。
「……一洸君、この異次元空間に入れられる限界はどのくらいなんだ?」
「おそらく、それはないと思います。試したわけではありませんが」
「……ひょっとして、まさか」
「そうです、もしも可能ならここにそのまま入れて持ってきますよ」
「……」
斥候が偽装して監視していると予想されるポイントとの中間空域までやってきた。
オレとエイミーは、保管域に入り、予め入れておいた4Dモニターで、全体の位置関係を把握する。
「エイミーさん、それでは」
エイミーは頷くと、愛機に搭乗し、砲撃準備に入る。
彼女が消えたのを確認しておれはコミュニケーターに話しかけた。
“ネフィラさん、お願いします”
“がんばるわ!”
4Dモニターにラウンドバトラーの“影”が表れた。
それはまるで実物のようにスラスターから白い噴射光をだしてゆっくりと移動を始める。
かかってくれ。
オレは祈るようにつぶやく。
眩い巨大な閃光が“影”を通過した。
かかった。
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