第74話 男子の“夢”
保管域から出たオレは、ホワイト大佐に聞いた。
「今回のネクスターナルへの警戒ですが、
最終的な落としどころは、どのあたりなんです?
完全に撃退したいのか、追い返すだけなのか、それとも、可能なら鹵獲して検証したいのか……」
「鹵獲して検証?
もし本当にそんなことが出来るなら、是非ともだよ!
今まで、というかここ100年近く、彼らとの対話はない状態なんだ。
現在のネクスターナルの姿、実状は伺い知りようもない。
攻撃、防御、痛み分けの繰り返しでね、一進一退を続けている。
我々連邦側が完全に地球を離れてから半世紀ほどが経つ。
地下コロニーに住んでいた住民たちが、軌道上のコロニーに移り住んでからの話だ」
「撃退するにしても、鹵獲するにしても、これからオレが立てたプランで行く場合は、こちら側の人員や機器が大きな損害を受けることはないでしょう。
仮に成功しなかったとしても、死者はでません」
「それは大いに結構」
オレは、これを言いたいがために、この話に乗ってみたと言っても過言ではない。
「……その、実はお願いがあります。
あのラウンドバトラーに、乗せていただけませんか?」
「バトラーに?」
「ええ、あの機動兵器に」
断られることは勿論予想している。
大切な戦術兵器、機密の塊でもあるだろう。
同郷であり協力者の申し出とはいえ、限界があることも容易に理解できる。
ただ、こんなチャンスは恐らくもうあるまい。
ロボットアニメで育った世代、何世代目にあたるのかはわからないが、オレの親の世代から、当たり前のようにあった搭乗型ロボット。
それに乗って大空を翔る、誰がその夢を拒めようか。
「出来れば、シュミレーションからお願いしたいんです。
シュミレーションマシンがあれば、それを一時お借りして、数分後返却します。
それだけで結構ですので」
「……数分後、でいいのか?」
「ええ」
「それが条件というわけだね」
「条件というわけではありませんが…… これはあの時代、20XX年に生きた地球人の、日本で生まれた普通の男子の“夢”なんですよ。
エイミーさんのバトラーを見た時、まさか生きているうちにこれが見られるとは思ってもいませんでした」
ホワイト大佐は一瞬、しばらく考えていたがすぐに口を開いた。
「……わかった。
ただあのラウンドバトラーは、連邦の技術の結晶でもある。
人間がヒトらしさを失わずに、ネクスターナルと戦うために必要なほとんど全てが結実したものだといっても過言ではない。
搭乗が許されているのは、教育を受けた軍籍者のみだ。
だが今回は事情が事情。
私からもいいかな?
もしネクスターナルを船体ごと鹵獲できたら、君にあのマシンを一機提供しよう。
ただし、兵装には制限をつけさせてもらう。
それでいいかな?」
オレは心の中で、大きくガッツポーズをとった。
ネフィラが笑っているのが想像できる。
「ありがとうございます…… 本当にありがとうございます」
日本人として、普通にお辞儀をした。
ホワイト大佐はそれを、何か懐かしいものでもみるかのように見ていた。
オレはこのプランを進める上での確認を願い出た。
シュミレーションルームに案内され、そこでネクスターナルの予想される船体サイズ、構造、攻撃した場合に有効な打撃が与えられそうな部位を確認。
メインスクリーンには、様々な情報が一目でわかるように表示されている。
全て英語なので本当に助かった。
「この船の速度ですが…… どれほどのものなんですか?」
「ヒトが認識できるレベルではないよ」
「ない?」
「光速移行と超次元ジャンプで移動するので、こちら側は予測して対処するしかない。
もちろん連邦側も同様に移動するので、君の時代の艦隊戦の撃ち合いのような光景は想像しない方がいい」
遠距離より敵を認識した時点でロックオン、量子魚雷で破壊。
もし敵を破壊出来ない場合は、至近距離まで寄って確認し、位相差シールドを解いてさらに攻撃。
オレは、敵が第一撃で撃破できなかった場合の攻撃予想を聞いた。
第一撃を放って不発だった事例がほとんどないので確証はないが、オレの言った通りになるだろうと言われた。
やってみるしかないか。
今回の力の入れようは、自分でも驚くほどだ。
あまり肩に力が入ってもいけないが、これは無理というものだろう。
久しぶりに興奮している、どうしようもないほどに。
“ミーコ、今大丈夫かい?”
“おにいちゃん! 全然大丈夫だよ、そっちはどう?”
“元気にやってるよ…… ちょっとしたら引き上げるから、準備しておいてくれ”
“うん! みんなにも言っておくね!”
オレは保管域に入り、デスクに紙を広げてプランを書いた。
ネフィラは軽く笑みを浮かべ、オレの話を頷きながら聞いていてくれている。
彼女は、話終えるや否やオレの肩に両手を乗せて、耳元に囁いた。
「わたしも乗せてね…… ここに入れれば、思いっきり翔け回れるでしょ。
わたし今とっても幸せなの、死んでからこんなにドキドキするなんて、想像できる?」
そう言ったネフィラの笑顔は、最高に美しかった。
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