第72話 新たなる導き手
ベリアルは、つい数日前より激変したこの国の現況を思い返していた。
侵略者は鋼のゴーレムに搭乗し、魔導弾のようなものを射出して爆裂させ、空を音よりも早く飛び、その剣は高熱の光を帯びたもので、オリハルコンの剣でも断斬されてしまった。
報告で聞く限り、プルートニアの国境警備隊の手に負える敵ではない。
おそらくは自分の知っている科学文明のビジョンを遥に超えた何か、としか言いようがなかった。
鋼の巨人、その目的はなんなのか。
この世界の土地が欲しいのか、それとも植民したいのか?
あるいはもっと別の何かか。
それがわからなければ対策のしようもない。
ベリアルは、鋼の巨人が表れる前のことを思い出す。
魔元帥マルコシアスの魔力が底を尽きかけ、その命の火を消そうとしていた……
マルコシアスが、移譲の儀を行うかもしれないとの話が流れている。
自分の持ち場は、地上のここだ。
魔族であっても生き物、必ず寿命は尽きる。
人間のそれとは違うが、いつかは潰える命、自然の摂理には逆らえない。
だが、一体誰に魔元帥の席を譲るというのか。
バラムか。
いや、あの女には荷が重すぎる。
必ず造反が起き、収拾がつかなくなるのは必定。
もう何度も繰り返されてきた、魔族の歴史であり、何を今さらである。
では誰が魔元帥の後を継ぐのか。
移譲の儀、それは最も自分に近い力をもった強者と戦い、雌雄を決して自分の席を譲る儀式。
“マルコシアス様、あなたは私を選んではくれなかったのですね”
その後、聞かされたのは、新造ダンジョンに転移陣を展開して魔界の入り口にある中移層に転移させ、そこで移譲の儀が行われた。
最初、勇者は死んだと聞かされた。
だがどういうことだ、現れたのは人間の若者。
識眼で見ても、彼から溢れる魔力は、どう考えても魔元帥のそれには遠く及ばない。
だが、あの若者は異世界からの転移者で、召喚者権能、“保管域”を有しているという。
その昔、封印の儀によって、今は地上にいない大魔法バルバルス様が有していた権能、“異跳界”に、勝るとも劣らない究極の空間魔法。
あの若者は、保管域に鋼の巨人を入れて、その武器を放って化け物を消滅させた。
そんな事は見たことも聞いたこともないし、もちろん試した事実もない。
「お前は見ていなかったんだよな、バラム」
ベリアルは、会議室で物憂げに景色を見ているバラムにそう言った。
「……私は、一洸殿の指示に従っただけだ。
あの方の出自は確かに人間。
ただし、その秘めたる力は、我らの思惑を超えている」
バラムは、一洸が化け物を殲滅する様子を見れなかったのが、未だに悔やまれてならない、そんな顔をしている。
「俺も今まで様々な戦いをやってきたし、見ても来たが、あんなものは初めて見た。
お前は、あの保管域の権能を、その力を知っていたのか?」
「……いや、詳しくは知りえていない。
何せ、勇者クラスの権能保持者など、歴史書の中にしかいないのだからな。
ただマルコシアス様は、あの一洸様をいたく買っていたようだ。
実際、次元間転移を目の前であっさりやってしまった。
影を身辺警護に着かせていたが…… とても信じられない報告内容だった」
「信じられないとは?」
「……あの保管域の中では、歳をとらないそうだ。
保管庫に入れたものは、確かに腐蝕はしない。
この場合は、制限のない無限の保管庫に持ち主が入るイメージだ。
通常、空間魔法を持つものは、その中に入るなどという使い方はしない。
だがあの一洸殿は、闇魔法を駆使して中に入り、時間さえ制御しているという。
バルバルス様ですら、そんなことは出来なかった」
「時間、制御……」
ベリアルは、新しい魔元帥の途方もない力を聞かせれ、あの光の攻撃とオーバーラップさせることにより、ただ自分が適わぬ力を前に落胆するしかないことを自覚していた。
あの新魔元帥は、新しい力を持った存在を自分の保管域に入れて、そのまま攻撃手段として用い続け、全てを支配するのだろうか……
そんな魔王は今まで存在しなかった。
いや、今、そしてこれからそうなるというのか。
「……バラムよ、お前はこれからどうするのだ?
バルバルス様がこのまま戻られぬ以上、魔界の存続は、あの一洸殿の匙加減一つで決まるのだぞ」
「私にどうしろというのだ!
あの方は、マルコシアス様が選ばれた新しい導き手なのだ、私はマルコシアス様から最も信を得ていた……
私はマルコシアス様に、マルコシアス様……
……」
バラムは涙を流していた。
この女魔神将の抱えるストレス、プレッシャー、今までよくやってきたものだ。
ベリアルは、敵対し、剣呑な関係でありながらも、バラムの力量は認めていた。
歴戦の強者が跋扈する魔神将の中にあり、前魔元帥マルコシアス様から最も信頼され、近くにいることを許された唯一の存在。
“一洸殿…… 私は、この魔神将ベリアルは、あなた様の力を見極めさせていただきます。
それは、この世界の魔族として生まれたもののあるべき姿であり、運命でもあるのですから”
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