第67話 コミュニケーター
「戻る…… というと、エイミーさんの元の居場所、宇宙船とか?」
オレは直接的にエイミーに聞いた。
「そう、この惑星の軌道上に第七次元航行群が周回してるわ」
「このコミュニケーターは、その宇宙船ともコンタクト可能なんですよね?」
「ええもちろん」
オレは借りていたコミュニケーターを外して見てみた。
500円玉ほどの大きさ、着けているのを忘れてしまうほどのもので、重量感は全くない。
「条件というわけではないんですが、この星を離れる場合、仲間たちと連絡手段を確保しておかなければいけません。
このコミュニケーター、コピーさせてもらっていいですか?」
「それはいいんだけど、これはレプリケートできないと思うわ。
複雑な機械類や構造物は、今装備している簡易タイプではレプリケートするのに限界があるのよ。
手持ちは一洸に渡している分だけなの」
「では複製する分には問題ないと。
ちょっと試したいことがありますので、待っててください」
オレは保管域に入ったが、そこにネフィラが待っていた。
「あなたなら、そうすると思ったわ♪」
ネフィラは嬉しそうに、力任せに抱き着いてきた。
彼女はこの状況を楽しみ、その思いが押し付けられた胸板から十分に伝わってくる。
「見せて」
ネフィラはコミュニケーターを手に取ると、いつものように手から光の帯を出しながら一振りする。
コミュニケーターは、一つだけ増えた。
彼女はさらに一振りすると、又増える。
ポップコーンのようにならないのは、それなりの対象物だということだろうか。
「幾つくらいいるのかしら?
うふふ、これは私の。
これでいつでもあなたと話ができるわね、わたしうるさいかもよ♪」
ネフィラは早速自分の胸に着けていた。
便利な部分もさることながら、一切の隠し事が不可能になったわけだ。
別に隠すことなどないが、ちょっとだけ複雑な気分。
「とりあえず、ミーコ、アンナ、レイラ、そしてバラムさんとベリアルさんの分でお願いします」
「りょーかい」
ネフィラはなぜこんなに喜んでいるんだろう。
それほどこの状況が、携帯電話を手にしたことが嬉しいんだろうか。
寂しかったのかもしれない、オレが思う以上に。
そうだろうな。
オレは保管域を出ると、エイミーに複製されたコミュニケーターを見せた。
エイミーは、当然のごとく驚いた顔のまま固まってしまった。
「……一洸、あなた、本当にファンタジーの人なのね。
どうやったの? まさか、本当は魔法使いなの?」
「魔法使いではないんですけど、少しくらいは使える程度です」
「……」
エイミーは、無言のままコミュニケーターを手に取って見ている。
元ある完動品と変わらぬことを確認したのだろう。
「これ着けてみて、多分大丈夫だと思う」
エイミーの言う通り、魔法複製したコミュニケーターを胸に着け、エイミーとの会話に成功する。
「これは複数の相手との会話でも問題ないんですよね?
その場合、相手の識別はどうするんです?」
エイミーはぎょっとして、何故そんなことも知らないのか、的な顔をした。
「普通に相手を思い浮かべるだけよ。
これが精神波長を読み取って、その相手に繋げてくれるの。
事前認識のない相手の場合は、画像とかイメージでもいいのよ。
声だけじゃなくて、視覚情報も送れるわ、オプション次第では大容量のデータも可能ね。
拒否設定したい場合は、強く×のイメージを重ねれば出来るの。
あなたの時代のコミュニケーターって、どんなものか知らないから、上手く説明できなくてごめんなさい」
「……いえ、よくわかりました。
確かにオレの時代のものとは違いすぎますね」
オレは少し怯えた。
とんでもないものを解き放ってしまったかのような、軽い後悔……
ミーコに渡したら、オレの自由はなくなる。
拒否設定などしようものなら、恐ろしく面倒な事態になることは必至だ。
無意識のうちに、深く深呼吸してしまった。
オプション次第と言っていたな。
いいことを聞いた。
機会をみて確認してみよう。
オレはエイミーに会議室で待つように言い、バラムとベリアルのもとに行った。
二人は何かの件で言い争っているようだ。
オレが行くと、剣呑な雰囲気がピタリと止んだ。
「お待たせしました。
協力者であるエイミー氏のもとで問題が発生し、その件に協力して対処することにしました。
この問題解決が、今回の化け物の対処に役立つと判断したからです。
そこで、魔界とプルートニアの件は、追って対処することにします」
バラムとベリアルは、先を争って何か言おうとしたが、必死に自重しているのがわかった。
「……一洸様、まずこの度の事態鎮静化に対してのご尽力、言葉がございません」
ベリアルが跪いて礼を言った。
次元窓攻撃を見ていた彼としては、無理もないのだろうな。
「いえ、成行き上ああなってしまっただけです。
被害を受けた警備隊の人たちや家族の方には、十分な配慮をお願いします」
「承知いたしました」
オレはバラムに向いて言った。
「この件が落ち着いたら、魔界の問題にあたりますのでご心配なく」
バラムはベリアルと同じく跪いた。
オレはコミュニケーターを二つだして、彼らに渡した。
「……一洸様、これは?」
「魔通石と同じように機能します。
エイミー氏からの供与品ですが、魔通石より性能はいいはず。
恐らく、どのような状況や場所からでも会話することが可能です。
使い方は魔通石と同じですが、都合が悪い時や会話したくない相手は、頭の中で×を重ねると拒否できるみたいです」
オレの胸についているのと同じように、二人は胸に装着させた。
「試させていただきます」
バラムはそう言うと、素早く隣の部屋に移動した。
この人、かわいいな。
角がなければだが。
“一洸様、私の声がとどいておりますか?”
早速オレに向けて話しかけてきた。
「ええ届いてます、はっきり聞こえますよ」
バラムの、何とも言えない安心感のようなものまで伝わってきた。
目の前にいながらも、コミュニケーターからの通信は、恐ろしいほどの臨場感を伝えてくる。
魔通石との違いが、彼女にはよくわかるのだろう。
「一洸様、わたくしもご同行いたします」
ベリアルがそう言ってきた。
予想通りだ。
戻ってきたバラムが、強行に押し入ってきた。
「一洸様、此度の件も含め、あなた様の身を守るのが筆頭魔神将である私の命です、是非私をご同行させてください!」
彼女の勢いは、一歩も引く気がないのがよくわかった。
オレは用意していたセリフを二人に告げた。
「お二人それぞれは、魔界とプルートニアを管理する仕事があります。
オレの命よりも、二人に何かあっては困ります。
魔界、プルートニアの魔族の方々の命運はお二人にかかっているといっても過言ではありません。
私はいつでもお二人と意思疎通ができるようになりましたので、緊急の場合は転移して戻ります、それまでそれぞれの持ち場を守ってください。
必ず無事で戻りますから」
「……一洸様」
バラムとベリアルは、少々大袈裟に見えるほどに跪いた。
さて、次はミーコたちだ。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白い、続きが読みたい!」と思われた方は、
ブックマーク追加、↓評価を頂ければ幸いです。
引き続きお読みいただきますよう、
よろしくお願いいたします!




