第66話 地球の復活
「その前に」
エイミーは念押しするように言った。
「私は軍人なの。
この惑星には任務でやってきてるわ、よって軍規に触れることや、機密に関することは基本的に言えないのよ。
触れない範囲で喋るけど、気を悪くしないでね」
「ええ、言える範囲で結構です」
オレは食べながらでいいので、そのまま話を続けるべく彼女に促した。
「この世界…… というか、この惑星にやってきた理由からお願いできますか」
エイミーは次の袋を開けようとしていた手を止めた。
そこからくるとは思っていなかったのかもしれない。
「…… 私の世界、あなたの未来にあたる地球はね、もう在りし日の姿ではないのよ」
エイミーの顔は、それまでの明るさから一気に翳りを持ったそれへと変化した。
「丁度あなたの時代より少し後くらいかな、人工知能が人間の仕事をするようになった。
ほとんどの作業をAIを組み込んだロボットが処理するようになって、人類の生活は飛躍的に変化したわ。
社会構造から経済、人の意識まで大きな変革が続いたの。
それまでの人間の価値観も大変貌を遂げた。
効率よく労働して対価を得、それを生活の糧にして、時間を紡いでいく人生から、自意識を広げる活動へと移り変わっていったの」
エイミーが大きく深呼吸するのがわかった。
この人もオレと同じ、何かの節目には深呼吸なんだな。
これから聞かされることは、そういうことなんだろう。
オレは静かに身構えた。
「世界には200以上の国があって、それぞれに幸福の探求を続けていた。
でも、効率よく社会を発展させようとするグループと、旧来の人間の価値観を維持して、それを発展させようとしたグループに分かれたの、国家の枠組みを越えてね。
合理化優先のグループは、人間の形態に固執する必要はない、精神の体感機関に過ぎない身体は、もう必要としないだろうという考えを広げていった。
そうして世界は真っ二つに分かれたのよ。
合理化優先グループは、精神を量子AIと同一化して、機械に組み込むことに成功、それが世界中にあっという間に広がってしまった」
エイミーはここまで話すと、次のチョコケーキを開ける。
おれは保管域からペットボトルのお茶と紙コップをだして、彼女に出した。
エイミーは驚いていたが、ためらいもなくお茶を飲み干す。
緑茶を受け入れる文化がまだ残っていたことに、オレは少しだけ安堵した。
「今、一洸の目の前にいる私は、もちろん本来の価値観重視派よ」
「ええ、心配はしてません」
エイミーはお茶のお替りを飲み干すと、姿勢を正した。
「戦争があったわ、とても大きな、地球を壊してしまうほどの」
それを言った時の彼女の顔は、美しく整った造形に見事なまでの翳りを演出させている。
「本来の価値観を重視するグループ、つまり連邦側は、住めなくなった地球を離れて、巨大な船団をいくつも組んで新しい大地を求めて旅立ったの」
ありがちな話だ。
つまりは、身体を機械に換えた新人類と旧人類の戦争で地球は荒廃、新しい大地を求めてこの星へか。
「連邦は、この星に移住しようだなんて考えてないわ。
私たちの求めているのは、ネクロニウム、つまり巨大なエネルギー源であり、次元転移ドライブを動作させるエネルギー源となるものなの」
ネクロニウム、そうなのか。
次元転移ドライブ?
「……次元転移、つまり元の宇宙の過去と未来の繋がりではない、と」
「そう、あなたが私の世界の“線”の直接の過去ではなく、別の“線”の過去と繋がって今こうして話している、と理解するのが妥当かもしれないわ」
「世界線…… か」
オレも彼女も少しの間、言葉を発しなかった。
現実を咀嚼する時間をオレにくれたことに、彼女の気遣いの片鱗を見た気がした。
「私たち連邦が欲しているのは、エネルギー源であるネクロニウムよ。
戦ったあのアメーバ、あれからその反応がでているの」
ネクロニウムの破片を集めていたのは、まさに任務だったわけか。
だが、あのアメーバの目的はなんなのだろう。
ベリアルの話では、魔族に偏ってその被害が出ているようだ。
化け物の食べ物が魔族……
「……超次元エネルギーであるネクロニウムは、物理法則に反して生命を復活させることが可能なもの、生命の源と言われてるわ。
地球の復活、それが一番の目的よ。
そのためには大量のネクロニウムが必要なの。
これは私の目的でもあるんだけど」
ネクロニウム、生命の源。
ネクロノミコン、死者復活、永遠の命を紡ぐ秘術。
繋がったな。
ただ、あの化け物がその組成を持つ存在だとすると……
栄養素が魔族?
エイミーの身体からシグナルが小さく鳴った。
彼女は軍人の表情に戻ると、通信を始める。
喋っているのではなく、バイザーに映る情報に対して、網膜の動きか何かで応対しているようだ。
なんという技術だろう。
精神に直接タップして通信しないところから、人間らしさを残したいという意思が連邦の技術には感じられた。
「一洸、わたし戻らなくちゃいけないの。
ね、あなたもきてくれる?
あなたのその力、必要なの」
オレは頷いていた。
不思議なことに、自分の意思より先に身体が反応している。
こんなことは初めてだった。
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