第65話 レプリケーター
「……一洸様、その捕虜は?」
バラムが、オレの隣で堂々と立ち振る舞っているエイミーを指して言った。
「あ、彼女は協力者です。
化け物に対処する際、オレの権能とともに、彼女の持つ巨人の力と合わせて殲滅しました」
ベリアルの驚愕する顔が解かり易かった。
「すると、あの光源はやはり一洸様が……」
見ていたんだろうな、その通りです。
「ええ、オレの権能をベースに、彼女に攻撃してもらいました」
バラムはただ口を開けて唖然としていた。
彼女は見ていなかっただろうが、保管域に攻撃手段を入れ込んで戦うなど、恐らくは想像すらしていなかったのだろう、そんな顔だ。
「ですので、このエイミー・ロイドさんは、私たちの脅威を取り除いてくれた協力者です、客人として丁重な扱いをお願いします」
バラムとベリアルは、オレがそう言うと見事同時に恭順して頭を下げた。
魔元帥って、そんなに凄いのか。
まあいい。
ベリアルは、バラムとオレ、エイミーを会議室のような大きな部屋に通すと、そこで話し始めた。
「一年ほど少し前からですが、人間、魔族、魔物の別なく惨殺される事件が起き始めました。
当初は種族の別はありませんでしたが、その比重は魔族に偏っているのが、後に明らかになってきました。
言葉にしようもないほど残虐な殺され方をされ、亡骸はほとんど形をとどめていず、いったいどんな相手だったのかさえ手掛かりはつかめなかったのです。
ある者は鍵爪のような傷で、またある者は、半分溶解したような姿で、またあるものは原型さえ留めないほど肉体が散乱した状態で……」
魔法なのだろう、まるで3次元投影のような半透明の画像が虚空に映出され、スライドが切り替わるように次々に現れていった。
その内容は凄惨を極めた。
スプラッターに耐性のない人では、見続けるのは無理だろう。
たとえそれが人間でなかったとしても。
軍人であるエイミーですら、眉間に皺を寄せている。
「このプルートニアは、魔族種の国家です。
他の国にも魔族は住んでいますが、統一された共同体としては最も大きなものです。
この国では、数か月前より街ごと消失する事例が発生し始めました。
ある日突然、跡形もなく街ごと消えてしまい、後には何も残りません……」
カミオの言っていた消失事件とは、このことか。
人間の主権下にある都市や街でも発生しているんだろう、確かにただ事ではないな。
「アカテリアという都市国家がありました、そこは魔族と人間とが共存する数少ない場所です。
少し前ですが、そこも都市ごと完全に消滅しました。
都市の象徴として、直ぐ近くに休火山がありましたが、その火山は現在噴火しております。
噴火のサイクルが数百年前倒しにされたのが不可解でしたが」
休火山の噴火サイクルが前倒し……
何かが地下に影響したか、あるいは下から出てきて、その拍子なのか。
わからない。
エイミーは、ベリアルの話を黙って聞いていた。
彼女のことは見知って短いが、言葉にできない思いを秘めたような印象を受ける。
何か知っているな。
先ほどの話では、任務と言っていた。
連邦軍、地球の未来組織に属する軍人は、この世界に密命を帯びて任務に服していたということか。
この場も含めて、あまりエイミーを矢面に出すべきではないな。
今後のこともあるし、彼女がどこまで協力してくれるかもわからない、その義務があるのかさえ疑わしい。
数百年前の同郷者だというだけなんだし。
まず情報収集だ。
ベリアルの説明の後、オレは彼女から事情を聞くため二人にすることをベリアルとバラムに伝えた。
何か言いたげだったが、彼らはすぐにその場を引いてくれた。
オレはエイミーと、やっと二人きりになれた。
もう何から聞いていいか、彼女がうずうずしているのが伝わってくる。
そもそもこの人はいくつくらいなんだ?
おそらくは、オレとそうかわらないくらいか、少し下くらいだろうか。
いずれにしろ、あまりうかつな聞き方はできないな、気をつけておこう。
「ね、一洸、あなたって、ここでの立場が凄いみたいだけど、一体何者扱いなの?
さっき衛兵から魔元帥って呼ばれてたけど、元帥なの?」
そうきたか。
オレは単刀直入に言うことにした。
「ええ、魔元帥にされましたね、魔王の次くらいだと思いますが」
「……
他人事みたいに言うところ、嫌いじゃないわ。
でもそれじゃあ説明にならないわね。
どうしてそうなったの?」
さて、どこから話すか。
オレは、飛行機墜落事故からの顛末、保管域の性能をエイミーに話した。
今後のことを考えても、別段問題になりようもないからだ。
ただし、ネフィラや保管域教室、そこでの魔法修練については伏せておくことにする。
おいおい話すことになるかもしれないが、今はまだいいと思えた。
「……なるほど。
元帥になって、まだ日が浅いのね。
それも驚きだけどあなたの話、まるでファンタジーそのものね、想像力のない人じゃ追いつかないかも。
その、さっき入った“保管域”、トンデモなさ過ぎて言葉がないわ……」
「そうでしょうね、オレも言葉を失いました」
エイミーは、少し考えているようだったが、意を決したように言ってきた。
「ね、さっきのお菓子、チョコケーキだけど……
一つだけだしてみてくれない?」
やはり、そうくるよね。
オレは保管域に手をいれると、箱ごとだしてエイミーに渡す。
エイミーは、箱を開けるでもなく、手元の小さな機械から出る光にかざした。
超音波のような、低い振動音が感じられる。
一瞬の間をおいて、エイミーは何もない空間に機械をかざすと、そこに別のチョコケーキが箱ごと出現した。
コピーしたのか。
「……これは、コピー機なんですか?」
「5Dプリンター、レプリケーターとも言うわ」
レプリケーター、SF映画定番のそれを今まさに目の前で見せられた。
ネフィラの複製魔法でコピーされたチョコケーキが、未来科学の産物によりさらに複製される。
食べられるとは思うが、どうなんだろう。
エイミーは、箱を開けるとチョコケーキの袋をオレに渡して、自分は開けて美味しそうに食べ始めた。
「どう、味は変わらないでしょ?」
オレはチョコケーキを口に入れながら、その差異を語ろうとしたが、元々のそれと全く変わらない。
「まんまですね…… レプリケーター、まさか生きてるうちに見れるとは思ってませんでしたよ」
エイミーは笑いながら、チョコケーキを頬張っていた。
こうして見ている分には普通の女の子なんだが、戦闘時には軍人になるんだよな。
「さてエイミーさん、まずどこから聞きましょうか」
オレは頬張っているエイミーに質問を始めた。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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