第64話 ネクロニウム
「一洸、ここから出るには…… どうするの?」
「今出します」
エイミーは、バトラーから降りてキョロキョロしているのだろう、様子が伝わってくる。
オレはこの場所に鋲を打って保管域に入り、エイミーの不安を打ち消した。
ネフィラは荷物の陰からこちらを伺い、小さく手を振っている。
オレは笑いそうになるのを堪え、エイミーを外界にだした。
「バトラーは…… 輸送手段がないので、取り敢えずここに置いておきますね」
「……ええ、お願い。
それはともかく、私ちょっと仕事があるの、あなたも手伝ってくれる?」
オレとエイミーは、熱核爆弾の墜ちた爆心地まで移動した。
大地はまだ大量の熱を保持しており、火山の火口のような煙を立たせている。
エイミーは、焼けた大地に手を向けて、スキャナーのようにかざしながら歩いている。
何か見つけたようだ。
彼女は、焼けた大地の一部を手に取って、検分している。
「それは、何ですか?」
「……ネクロニウム、私がこの星に降り立った理由の一つ。
本当は話しちゃいけないんだけど。
あなたのおかげで、任務の一つが片付いたんだから、話しておくわ」
「ネクロニウム?」
初めて聞く名称だ。
ネクロ…… ネクロノミ…… まさか、これもそうなのか。
「ネクロニウムって、ネクロノミコンと何か関係があるんですか?」
「ネクロノミコン? 初めて聞くわ、どういうものなの?」
同じ系統のものである可能性はあるが、未知なだけなのかもしれない。
これについても、果たしてどこまで話していいものか。
ネフィラに説明してもらった方がいい気もする。
「……それもそうだけど一洸、私あなたに聞きたいことがあり過ぎて、ちょっと整理がつかないの」
「ええ、そうでしょうね、オレもそうです」
◇ ◇ ◇
「一洸殿はどこだ」
基地に戻ったベリアルは、護衛についていた衛兵に尋ねたが、捕虜とともに巨人のもとへ行き、自分を先に行かせたと報告してきた。
衛兵は一洸が自分の身を案じて命令し、もしものことがあれば自分の命を差し出すとまで言った。
そこへバラムがやってくる。
「ベリアル、魔元帥殿は、一洸様は無事なのか!」
彼女の剣幕は相当なものだった。
ベリアルはバラムを睨みつけながら、衛兵に捜索の指示を出していた。
「バラム、お前がついていながら、まるで他人事のような言い草だな」
「ベリアル! お前の管轄で起きた事件だ、魔元帥殿の安全は、序列を言うまでもなく最優先だ、わからぬとは言わせんぞ!」
「魔元帥閣下の首に縄でもつけておけとでも言うか。
貴様、筆頭魔神将を返上すべき時がきたようだな」
バラムが戦闘スタイルを取ろうとして、周囲の衛兵が避難するように散った。
この二人が争い、巻き添えを食って生きていられるものはこの基地にはいない。
いや、この地上にも恐らくは。
膨大な魔素の流動が始まった。
大気が変動し、空間が歪み始める。
◇ ◇ ◇
オレは、騒ぎの前に打っておいた鋲に引き出してもらい、基地に戻った。
途端、尋常ではない魔素の流れを感じる。
基地にいる魔族達が避難していた。
なにが始まったんだ、またアメーバの化け物の再来?
いや、違うな。
衛兵がオレとエイミーのもとに走ってきた。
「……ま、魔元帥閣下、大変です! ベリアル様とバラム様が!」
「やめてください! 二人とも落ち着いて!」
オレは、指令室で怒気を溢れさせながら対峙するバラムとベリアルに向かって叫んだ。
途端、空間を歪ませていた禍々しい魔素の流動が一瞬にして霧散する。
「一洸様!」
バラムが声を上げ、恐ろしい形相から一変して安堵の顔に変わった。
その顔は、やはり悪い顔をしていない時のネフィラに少し似ている。
この人、絶対損してるわ。
オレは素直にそう思った。
「魔元帥閣下…… よくご無事で」
ベリアルは、心底申し訳なさそうに跪く。
「身勝手をしてロボットを動かしたのはオレなんですから、どうか落ち着いてください。
この通り無事ですので、心配無用です」
そういうオレを見つめるバラムとベリアル。
その隣にいるエイミーの姿が気になっているようだ。
説明しなければならないだろうな。
それと同時に、あの赤褐色のアメーバの化け物のことも詳しく聞かねばならない。
「聞きたいことがあります」
オレは言った。
「ええ、ご説明します、今この地上が抱える問題も含めて」
ベリアルは静かにそう言った。
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