第63話 墜ちてきた太陽
「…… バトラーに搭乗してください。
その後、ある空間にバトラーごと転移させます。
空間に裂け目が出来ますので、そこから化け物に砲撃してみてください」
エイミーは、黙って頷いてくれた。
何を言われても驚かない、そんな彼女の覚悟を感じてしまう。
彼女は、懐から小さなコイン大のものをオレに渡した。
「コミュニケーターよ、胸にあてればくっつくわ。
あなたの時代のとは原理が違うけど、余程のことがない限り意思の疎通はできるはず」
「……借ります」
オレはコミュニケーターを胸に着けて、アイテムボックスに彼女が搭乗したまま機体ごと収納、出現ポイントをイメージして次元窓を何もない空間に出現させた。
マグネットではないだろうが、それはただあてるだけでピタリと着いた。
ネフィラにはこの展開を見せているので、収納したバトラーには干渉せずにいてくれているようだ。
オレは化け物の距離感を掴みながら、適切な次元窓を出現させる。
“なるほどそうか! これなら移動能力がなくてもいける!”
オレが“撃て”と言わなくてもエイミーは、いきなり攻撃を始めた。
興奮しているエイミーの様子が、コミュニケーターを通じて恐ろしいほどリアルに伝わってくる。
これは次元窓を開けた状態だと通信可能、魔通石とどっちが高性能か、あとで検証してみよう。
コピー出来ればいいが。
次元窓の出現ポイントは、予想がつかないよう配慮した。
読まれてしまえば無意味なのは言うまでもない。
様々な虚空から発射されるビームは、対処の追い付かない化け物の巨大な体躯を委縮させ続け、再生と復活の時間を与えない。
あの化け物、もちろん完璧ではないようだな。
再生する時間を与えさえしなければ、攻略はできるだろう。
もし、このサイズ以上の化け物であった場合は、別の手段も必要だろうが、少なくともこの大きさまでは可能なようだ。
エイミーの次元窓攻撃は容赦がなく、化け物の再生と復活を許さない。
反応炉と言っていたな。
まてよ。
そうか、未来科学の産物である“反応炉”なるもののエネルギーも、保管域は補填してしまうということか。
予めチャージしている分で充分だったのか、補填の作用なのかはわからないが、保管域からの未来科学兵器攻撃は問題ないようだ。
エイミーは興奮を抑えずに言ってくる。
「あの時、あなたこれで戦ってたのね、なるほどそれじゃあ勝てないわけだわ」
「全能力闘技会…… オレもエイミーさんと同じですよ。
この世界での戦闘レベルというか、その辺りを知る必要があった。
自分の持つ戦う力がどの程度通用するのかも」
「ま、それはいいわ。
でもこのアイデアはなかなかね、予測不能な場所からの攻撃ほど強いものはないし。
それと……」
エイミーはしばしの沈黙後、ふと思い立ったように言った。
「この空間、どういう制限があるの?」
「特に制限はないみたいです。
スペースも無限みたいだし、時間経過がないし」
「時間経過がない…… 生き物を、生き物も大丈夫なのよね?
私も入ってるってことは、そうなのよね?」
「大丈夫みたいです」
コミュニケーターの沈黙からも、彼女の驚愕の表情が伝わってきた。
300年後の未来人の科学常識さえ打ち破るんだろう、そうだろうな。
「一洸、これから大きいのを見舞うわ、かなり眩しいから身体を伏せてて!
絶対に見ちゃだめよ、目をやられる!」
「了解、真上に窓を開けますから、10秒ほどください」
エイミーが半ば叫ぶように伝えてきたので、オレは物陰を探しながら様子を伺う。
化け物の位置から自分の身を防御するように、巨木の陰に身を隠しながらその時を待った。
サングラスなんて気の利いたものを出してみようかと思ったが、やめた。
オレは、自分の開けた次元窓から太陽が出現するのを、微かに確認する。
確かに、あれを直視したら失明するな。
熱核爆弾なのだろうか、まるで太陽が落ちてきたような輝きだった。
それは化け物の直上に現れ、無慈悲に直撃。
弾け飛ぶというより、まるで急激に収縮して消え去るように、化け物の存在は消滅した。
巨大なクレーターの周囲には、熱核兵器により炭化した木の生れの果てが囲むように広がっている。
◇ ◇ ◇
“……あれは、なんだ?”
ベリアルは自分が攻撃している手段とは別に、強力なエネルギー波を化け物に浴びせ続ける存在を認めた。
彼は、ビームを発し続ける光源を凝視する。
何もない幾つもの空間から、その光は不規則に浴びせられていた。
化け物は、その不規則性から効果的な対抗手段を見いだせていないようで、怯んだまま委縮を続けている。
“鹵獲した金属製のゴーレム? もう一体いたのか……
いや、あれほど幾つもの虚空からデタラメに攻撃できる存在などあるわけがない。
少なくとも私が知りうる魔法ではない”
ベリアルは、その光源に抗うために、力を集中している化け物へ注意を向けた。
“……まさか、新魔元帥のあの人間か?
あんなことをどうやってやれるというのか”
ベリアルは自分の持ちうる常識が、今目の前にしている現実には通用しないことを思い知らされていた。
“とにかく、あの虚空からの攻撃が続いている間に警備隊を撤収させ、体制を立て直さねば”
ベリアルは全警備隊員に後退を指示した。
化け物は、出現した当初とは比較にならない程縮小している。
しばらくして、地上に太陽が降りてきた。
魔法ではない。
あれほどの力、膨大な魔素の流れを感知するはずだが、全く感じられなかった。
少なくとも、このエリアには自分より強い魔力を有する存在はいないはず。
強いてあげればバラム……
いや、それはないな。
だとすると、新たなる魔元帥、一洸殿……
“あの光…… もし、撤退前に墜ちていたら、私も命がなかったろうな”
彼は、独り言ちた。
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