第60話 鹵獲した巨人
「帝国は今、重大な事案を抱えているんだ。
消失事件を知ってるかな?
世界中の街や都市が、跡形もなく消えてしまう事件だ」
「いえ、知りません」
本当にそんな話を聞かされるのははじめてだ。
ただ、この世界に呼ばれた理由が、いくつかあるのだろうとは思っていたが……
まさか、これもその一つだと言うのか。
「消失事件…… それの原因究明と対策を相談された。
勿論、この件にかかわるのはぼくたちだけじゃない。
様々な方面からのアプローチがなされているようだ。
きみたちにも一緒に、この件にあたってほしいんだ」
オレだけの問題ではなくなるな。
彼女たちの意見も聞かなければならないが、恐らくはカミオの意向には添えるだろう。
この先、さらに魔法力を強化すれば、大抵の危機は跳ね返せるだろうし。
「わかりました、オレは協力するのにやぶさかではありませんが、彼女たちの意見も聞かせてください」
オレは彼女たちをカミオの前に集めて意見を聞いた。
彼女たちは互いに顔を合わせて一様にうなずき、
「「「やります!」」」
ミーコは隣で、周りから見えないよう、真意を測るべくオレの手を握っていた。
完遂祝賀騒ぎの後、オレたちは馬酔木館に戻った。
今日は休もう、考えることもある。
居酒屋でカミオがオレにいった話、本当ならこの先しばらく巻き込まれるかもしれない。
様々な事象が繋がろうとしているが、まだ確証が乏しかった。
その夜、オレの部屋に集まった三人と一緒に、保管域へ戻った。
魔法力を可能なまでに引き出せるよう、そこに集中するために。
保管域に入って、半年が経過していた。
だが、棄損するエネルギーと時間経過がないこの空間の状態では、どれほど時が経とうが気にはならない。
こんなストイックな生活をするとは想像していなかった分、今の生活は新鮮でもあった。
魔法行使力は飛躍的に向上している。
現在の状態なら、彼女たちを外に出して冒険者として活躍させることも、全く問題ないように思われた。
防御力を除けばだが。
オレの役目もあと少しかな。
ネフィラは、オレに嵌められた腕輪を見て、少々困惑していた。
「訳語がカバーされないのは、これは言葉ではないの。
権能の力を示す紋章、記号のようなものね。
わたしにもこれがどんな力なのかは、わからないわ。
これはあなたの固有権能と違って、持つ者の基礎能力がかかわってくるわね。
つまり、権能を発揮しても耐えうる体内魔素量と肉体が必要ってこと
今のあなたには、体内魔素量がほとんどないわ。
でも、魔素の問題は大分克服したわよね、属性魔法に関しては大気の魔素だけでも十分使用は可能よ」
基礎能力、体力……
この期に及んで鍛え直さないといけないわけですか。
どこかに弟子入りでもしろと。
オレは馬酔木館の部屋で影を呼び出した。
カミラだったよな、間違ったらごめんなさい。
「カミラさん?…… いますか」
そう言うと、なにもない空間に出現した影が人の形に変化した。
「魔元帥様、お呼びでしょうか」
「一時間後、そちらに行きますので、バラムさんに伝えてください」
「承知しました」
そう言ってカミラはスッと消えた。
消える時の速さはすごいな。
オレは魔界で魔神将たちに接見した空間に転移。
バラムと魔神将たちはそこに待機していた。
一人一人彼らに挨拶されるが、はっきり言ってよくわからない。
魔界がかかえる現状の説明の前に、ここがどういうところか知りたい、オレはバラムに申し出た。
「ごもっともです、魔界をご案内いたします」
魔界の居城である王都からの景色を見せられる。
どこまでも続く、王都の街並み。
整然と区画され、極端に背の高い建物の周囲は、一様に高さが抑えられていた。
転移してすぐ見渡した居城の風景とは違い、ここはむしろ現代の地球に近い。
地上世界と同じような魔動車らしきものが、数多く走っている。
「……いいところですね、都市も発展していますし」
オレは素直な印象を語った。
バラムは整った顔を少しうつむかせる。
何か思いつめたような表情でオレに言葉を返そうとしたとの時、彼女の胸の赤いブローチが光り出した。
“プルートニアより一報です、先の件にて鹵獲した巨人と人間を捕縛、現在ベリアル殿の監視下にあります”
「わかった、これから向かうと伝えなさい」
バラムは赤い石に向かって話終えた。
スイッチのオン・オフもすべて意思のもとに行われるわけか。
グラートのペンダント、つまり魔通石に似ている。
いや、これそのものだろ。
ここは魔界、当然普及していてもおかしくはない。
「バラムさん、その赤いブローチは魔通石ですか?」
「……ええ、そうです。
地上では数が少ないので、普及はしていないようですが。
すぐに一洸様のものもご用意いたします」
しかし、ここでほいほいお願いしてもいいものか……
できるだけ、この魔族たちには負担をかけずにいた方が、自分の成行き的にスムーズかな、とは思ったが。
ここまできたのだ、やれるだけやってみよう。
ミーコたちや、ネフィラの分はまだやめておいた方がいいな。
オレの出来うる限りの成果をあげれば、この程度の供物要求は恐らく問題ではあるまい。
オレは、その話に思いっきり乗ることにした。
「それは助かります。
実は使い方もよくわかっていないので、教えてください」
バラムは、ほんの少しだが表情を緩めてくれた。
こうして話している分には、人間となんら変わらない思考基盤なのはわかる。
「……かねてより、地上の魔族が支配する地域にて、外界からの不穏な動きがございました。
只今のは、敵の一体を捕縛したとの知らせです。
一洸様、このままご同行いただけますでしょうか」
オレは一瞬固まったが、状況に飲まれてみることにした。
それもいいだろう。
「わかりました、一緒にいきます」
マルコシアスを看取った白い神殿まできたオレとバラムは、そこから転移した。
ここは魔界の入り口前にある転移陣で、この世界各地へ転移することができるとのこと。
先ほどの通信、鹵獲した巨人、人間を捕縛……
何か事件だな。
気づかれないように、深呼吸をした。
オレは既に、巻き込まれた状況に抗わないことを選択したのだ、覚悟はできている。
転移した。
大気の濃さ、乾いた感じからここが元の世界であることを自覚させられる。
「新たなる魔元帥閣下、お初にお目にかかります、
魔神将ベリアルにございます」
その角のある長身のイケメン魔族は、膝をついて恭しく挨拶した。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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