第58話 スマホで魔法
「あ、これおにいちゃんのだ! いつもベッドで触ってたやつ……
くれるの? いいの?」
ミーコは何度も心配そうにオレを見て言っている間に、ネフィラは杖でアンナとレイラに魔法をかけていた。
恐らく自動翻訳カバーの魔法だろう。
「ネフィラさんが、みんなの分も複製してくれたんだ、これは君たちのものだよ。
このガラス板みたいな機械はね、電気という力で動く魔道具のようなもので、スマートフォンって言うんだ…… スマホって呼ばれてる。
この保管域で使う分にはいくらでも使えるけど、外の世界で使う場合は、中の電池を交換しなきゃいけない」
彼女たちは、オレの説明は聞いているんだろうが、タップして動く画面に夢中になり、それどころではないようだ。
そうそう、イヤフォンも複製してもらおう。
ネフィラにお願いして人数分出してもらった。
音楽の聴き方を彼女たちに教えると、早速耳に充てて聴き始めた。
同じ基盤と番号なので、ペアリングで混線するかと思ったが、大丈夫なようだ。
ネフィラも同じく、女性たちは驚きと感動の表情を隠さなかった。
「……
もし、もしもチャンスがあるなら、わたし、一洸さんの世界に行ってみたいわ。
本当に羨ましい……」
そう言ってネフィラは音楽に聴き入っていた。
オレは元々ジャズやクラシックしか聴かなかったので、スマホには一部のジャンルしか入っていなかったが、PCさえ動けばその他の膨大なものも試せるので、此度の感動の比ではないだろう。
ミーコはリズムに合わせて首を微かに縦に振り、アンナはただ黙って聴き入り、レイラは涙を流している。
ネフィラは下唇を噛み、悔しそうにしていた。
余程、地球の文化そのものが羨ましかったのだろう、声をかけるのが怖いほどだ。
一体どれくらいの時間が経ったろう。
ネフィラ言うところの第一段階が終了するまで、オレたちは座学と実技、そして学んだ魔法展開式の記述整理と各々へのスマホ転送を繰り返した。
効果測定のタイミングになった。
的となるものは、オレが以前収納した巨石だ。
「おにいちゃん、ちゃんと見ててよ!」
ミーコは的となった巨石へ、光魔法の収束した眩いビームを発射した。
両手を的に向けて、掌を広げるのが彼女のスタイルらしい。
まるで〇ジータだな……
巨石はまるでそこに何もなかったかのように、一瞬で消失してしまった。
「一洸さん、いきます」
アンナが手で掴むようにして腕を的である巨石に向けると、氷魔法による米粒ほどの大きさの結晶化した氷が、やはりビームのように撃ちだされ、瞬時に岩は存在しなくなった。
「……あ、あの、見ててください」
レイラは控えめに言ったつもりだろうが、それは彼女の美しさからは想像も出来ない程の暴威。
バンザイの姿勢から的に向かって腕を振り下ろすと、黒い弾丸のような小硬石がビームのように粒子の束となって岩に当たり、岩は爆散して跡形もなくなってしまった。
オレはポカンと口を開けた間抜けな顔を隠すことが出来なかった。
誰も写していないことを祈るしかない。
とにかく落ち着かなければ。
いつものように深呼吸をしたが、あの子たちの放つあまりにも圧倒的な破壊力に、言葉がでたのはしばらく経ってからだ。
「じゃあ、今度はオレ」
オレはこの間に育成した闇魔法を放った。
オレの発動スタイルは、目の前で腕をクロスさせて放つ型だ。
あの闘技会で闇魔法を放った女魔法使いを真似て行った。
なぜなら、これが最も闇魔素を放つのに力を集中できたからだ。
オレのクロスした腕から放たれた黒く小さい鏃状の刃は、岩に当たるとまるで削岩ビームのように岩の上部を吹き飛ばす。
彼女たちの放った暴虐的な威力ほどではないが、対人および対魔獣としては充分過ぎる出来だろう。
ただし、これも放ったが最後、肉や魔石の回収ができなくなるので、気をつけねばならないが。
「おにいちゃんすごーい!」
「一洸さん、この短い時間で…… やっぱりすごいです」
「……あ、あの、おめでとうございます」
三人娘はオレの手をとって喜んでくれた。
ネフィラは先生然として、拍手で称える。
「みなさん、大変よくできました。
見てもわかる通り、これは人間や魔獣、魔物に放った場合は致命的です、確実に相手を殲滅してしまうでしょう。
使用には十分気をつけてくださいね。
いよいよ第二段階に入ります。
これは、大気中の魔素を編んで、自分の魔法力として行使する方法、魔素を集める展開式を頭でイメージした後に発動する実技を行います。
でもここでは魔素が自動補填されるから、外界にでて実地でやってもらいましょう」
本当にどのくらいの時間経過だったのか、時間を管理していなかったので、はっきり言ってわからない。
何せ食事や睡眠、休憩の必要すらなかったのだから。
オレは河原に転移して、彼女たちを引き出した。
まだ夕暮れには早い時間で、空は充分明るい。
時間経過がない生活……
それはもはや、生活というより人生ですらないのかもしれない。
その辺りの考察はいずれしよう、今はこれだ。
オレは展開式をスマホで出して、詠唱した。
この式はほぼ暗記していたが、念のためだ。
大気中の魔素が自分に集まる…… 大気圧が高くなって、空気に圧されるような、なんともいえない感覚だ。
オレはその状態で、目の前の岩に向かって闇魔法を放つ。
岩は黒い鏃によって爆散する。
まだ十分余力がある。
次々に岩を打ち砕いて、一回の魔素収集でどのくらいのチャージができるのか体感を獲得した。
最後は、ガクンと力が減った感覚に襲われた。
なるほど、元々ほとんどない体内魔素にかかるとこうなるわけだな。
ミーコもアンナもレイラもそれぞれ岩を破壊しつくして、感覚をつかんでいたようだ。
「ねぇおにいちゃん、ちょっと疲れたよぉ……」
「一回の魔素収集の程度が大体わかりました」
「……あの、わたしまだ、大丈夫そうです」
属性や個人差にもよるのだろうが、みんな凄いよ。
お腹も減った顔をしているし、そろそろいいだろうな。
オレはあらためてその場所を見渡した。
そこにあったのは、元あったあの河原ではなく、粉々に砕かれた元巨石が散乱する新しい岩場の風景。
誰も困りはしないだろうが、次はちょっと場所を変えてやってみよう。
本当は防御魔法のトレーニングもしなければならないんだが、今のところは次元窓からの攻撃魔法用に特化している。
アンナとレイラは、ずっとオレとミーコと共に活動するわけじゃないはずだ。
彼女たちが独り立ちしても十分やっていけるよう考えなければ。
今後の課題だな。
オレはネフィラのために次元窓を開けっぱなしにして、まず気分転換に白いたてがみとの完遂パーティに行くべく居酒屋に行った。
たまにはこういうものも必要だろう。
ネフィラがちょっと寂しそうだったのが気になった。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白い、続きが読みたい!」と思われた方は、
ブックマーク追加、↓評価を頂ければ幸いです。
引き続きお読みいただきますよう、
よろしくお願いいたします!




