第57話 あたしも欲しい
ネフィラに、魔法学習に必要な教材を聞いた。
進歩の度合いを見ながら、段階を追って教材はレベルを上げていくとのことで、第一段として指定された本は、“やさしい魔法の始め方”と“魔術式展開とその応用”の2冊。
後で人数分複製するとのことだったので、一式分の本や、魔法教室で勉強する間に必要なものも含めて、みんなで買い物に行くことにした。
ネフィラは自分も行きたそうな顔をしていたが、それはまた次の機会にしよう。
外に出た途端、霞のようになってしまっては、また工数が増えてしまう。
買うものはもちろん本だけではないが、必要になった時点で外に出ればいいだけで、時間のロスはないのだから、それほど気にすることもないように思えた。
この間の本屋に行くと、それはあった。
筆記用具や、机、椅子、ネフィラ用の椅子なども家具屋で買ってそのまま収納、なんと黒板まであったのでそれも買う。
グラートたちとの約束の時間にはまだ充分間があったが、オレたちは馬酔木館に戻って保管域に入り、外界の時間をゼロにした。
出てくるときは、何も変わっていないはずだし。
オレは収納した机や筆記用具を並べて4人分コピーしてもらい、かくして魔法教室は始まった。
ネフィラ先生の座学は、笑いも交えながら楽しく進んでいった。
オレは魔法式の概念を理解し、基本的な部分をすぐさま会得した。
プログラミングと驚くほどの共通性があったからだ。
ただ端末からテキストで書くのと違い、すべてイメージで魔法式を頭で展開しなければならない。
PCもアウトラインプロセッサーもない状態での式の展開なので、暗記力というかイメージ力そのものが問われるようだ。
思ったが、これスマホに式のイメージを保存して、任意に呼び出して詠唱すればいけるのでは……
詠唱文言も、下に書いておけばいいだけだし。
複合魔法などは、幾重にもなる階層式を書き込んでおいて、呼び出して詠唱、この繰り返しでやれるはず。
デスクトップが動けばいいのだが…… とりあえずラップトップで作ってみるか。
彼女たちに複製したスマホを持たせて階層式を呼び出して詠唱すれば、大規模複合魔法も比較的楽に実行可能かもしれない。
おれはそのアイデアをネフィラに話して、スマホを見せた。
「あなたの世界の魔道具、じゃなくて機械ね……」
彼女にスマホの構造を説明し、複雑な階層式を予め保存しておいて、必要に応じて呼び出し、詠唱すれば実行できるのではと聞いてみた。
彼女はしばらくスマホをいじっていたが、
「これ、すごいわ…… あなたの世界になんで魔法がないのかもわかる、だって必要ないもの。
魔素のない世界の道具って、こういう進化を遂げるのよね……」
オレはラップトップに入っている画像作成ソフトでもっとも簡単な魔法式を記述し、詠唱を下に書き込んだ。
それは英数字と日本語だったが、同じく翻訳魔法の目を持つネフィラならすぐわかるはずだ。
「そうよ、これなら出来るわ……
あなたの世界の言葉でも問題ないわね」
オレは続けて、スマホにデータ転送したものをネフィラに見せた。
「これ……
これでいいのよ、すごいわ一洸さん!!」
彼女はいつものように抱き着きそうになったが、ミーコが見ているので抑えてくれた。
オレは心の底からホッとする。
何もない、ただのコミュニケーションに過ぎない、ミーコにそう言ってもきっと通じないだろう。
ネフィラに複製を作ってもらおうとして、おれは立ち止まった。
見られてマズいものなど入っていなのは、誰よりわかっているはずだったが、一応確認しておかねば。
内容を確認しているオレを、ネフィラは面白そうに見ていた。
「うふふ、いろいろなものが入れられるのよね、あたしも欲しいわ一洸さん♪」
意味深な笑いを浮かべるネフィラ。
ネフィラにスマホをコピーしてもらった。
もちろんネフィラ自身の分も。
この保管域から使用する分には、電源の心配はないはずだ。
ただ、地上で使用すると消耗するので、電池だけはずして別にコピーしておいてもらうか。
ネフィラの傍で、オレはミーコたちをぼんやりと眺めていた。
彼女たちは、各々自分の属性魔法の発動練習をしている。
うそだろ……
ミーコは空を翔んでいた。
いや、あれは…… 足場のない無の空間を蹴って、空を駆けている。
駆け上がった高さから、ミーコがジェスチャーをすると、巨大なビームが天空に向かって打ち出されていた。
まるでそれは、いつかアニメで見た〇メハメハ……
驚くより前に、ミーコが手の届かないところにいってしまったような気がして、オレはちょっと寂しさを覚えた。
レイラが同じく天空に向かって撃ち出したそれは、まるでこの世の終わりに空から落ちる隕石の雨のようなもので、それを空に向けて射出している。
レイラ……
君も遠くに行ってしまったんだな。
アンナが撃ち出したのは、まるでガラスの粒子が溢れ出されたような、眩いばかりの粒子光線だった。
ただひたすらに美しい光の束に、目を奪われ続ける。
本当に氷の粒なのだろうか…… いや、あれはもう氷ですらないのかもしれない。
現時点で、彼女たちの放つものを掛け合わせて射出したら、どれほどの威力なのだろうか。
いや単発でも十分脅威的だ、そうとしか見えない。
とても対人間用のものではないだろう。
ぼんやりと三人娘の練習を見ていたオレを見て、ネフィラは、
「驚いた?
ここから放つ魔法は、体内魔素を自動補填されるから、あの子たちもあそこまでやれるのよ。
地上だとああはいかないわ」
ネフィラは続けた。
「あなただって出来るのよ。
闇属性の魔法、ここでは魔素の問題がないのだから、訓練次第ではとても強い力になるわ、あなたの想像を遥に超えるほどに……」
ネフィラは、美しい女性がやってはいけない、口元だけ悪い微笑をうかべてオレを見ていた。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白い、続きが読みたい!」と思われた方は、
ブックマーク追加、↓評価を頂ければ幸いです。
引き続きお読みいただきますよう、
よろしくお願いいたします!




