第51話 権能を持ちうる資質
「新たなる魔元帥よ、どうぞ我が魔族を率いてください」
魔神将の中の一人が、そう言って姿勢をさらに正して深く頭を下げた。
それに倣って、全ての魔神将たちが一層深く頭をさげてくる。
「今魔王の権能を有するのは、あなた様だけなのです。
どうか、我が軍を、民を導いてください」
さらにそう言う方がでてきました。
あの…… やっぱりオレの事情とかお願いって、全然聞いてもらえないんですね。
「人間の勇、いや魔元帥閣下。
あなた様は既に、王たる固有権能を持っておられます。
たとえ人間の異世界召喚者であり、その際にもたらされた権能であったとしても、力を揮う資質のないものにはもたらされません。
これは世の摂理です。
異次元の間を自由に行き来できる力など、ここにいる魔神将ですら誰も持ち合わせてはおりません」
「……」
アイテムボックス以外に自分が持つスキルはなかったのでわかったが、確かに規格外のチート能力だというのは認める。
先ほどのカミオの件で実証されたが、これは勇者というより間違いなく神の権能だな。
ま、ミーコの協力あってだけど。
いずれにしろ魔王になって魔界を統治するなんて、オレにはとても出来そうにない責務であろうし、土台無理な話である。
「これだけ言っても無理ですか……
自分には重すぎる任ですし、適任者といえばあなたなどどうです?
大体、人間が上役なんて、魔族や魔物が同意しないでしょう」
オレは、バラムに向かってそう言った。
あらためて彼女を見たが、他の怪物たちと違って、少し大柄な人間の女性で通りそうである。
魔族の美意識は不明だが、ネフィラとはまた違った美しさがあった。
角を除けばだが。
「それは問題ありません。
我々の世界は実力だけの世界です、権能を持ちそれを駆使するものは、たとえ前存在がなんであろうとも、実力者として認知され、畏敬されます」
バラムは続けた。
「現にあの大魔王バルバルス様も、元々は我々に軟弱な存在として認識されていたエルフの一人でした」
「……」
オレの腕に嵌められた腕輪。
魔神将の身体の様々な部位に、この腕輪のような金属があった。
ある者は同じように腕に、またあるものは首に、上腕に、頭に、それがあった。
バラムは言った。
「あなた様の腕にあるそれは、我々11人全ての権能を統べるものです。
あなたは、我々一人一人の持つ権能の全てを発揮でき、我々に命令できます。
その腕輪は、過去魔王であった存在が累々と積み重ねてきた力の歴史そのものなのです」
ちょっと待ってくれ。
なんてものを嵌め込んでくれたんだ。
「……あの、これは外せないんでしょうかね?」
バラムは驚いたような顔をしたが、オレに動揺を悟られまいとしているのか、努めて平静に答えた。
「それは、魔族と魔界を統べるものとして認められた存在が継承する権能の集合体で、肉体に嵌められていますが、魂そのものの付属物として今、顕現しているのです。よって、外すことはできません。あなたが最後を迎えて、それを然るべき者に移譲する時に外すことが出来るでしょう」
「……」
落ち着け、オレ。
これからどうしよう。
逃げ出すにしては、この連中はあまりにも規格外で強面すぎるし、何をどうやってもこのモンスター達を前に勝てる気がしない。
オレは、隠すことなく深呼吸した。
思わずうすら笑いを浮かべそうになったが、さすがにそれはまずいと思って抑えた。
まだ正気は保ててるようだ。
ただの人間のオレが魔界の魔王?
なんの冗談だろうか……
“権能を持ちうる資質”とか言っていたな。
そもそもなんでオレにもたらされた権能がアイテムボックス無限大たる“保管域”なのか。
あとでネフィラに聞いてみよう。
オレは深く、深く、深呼吸をした。
もう一度自分に問う。
いや、やっぱり無理だろ……
だってただのプログラマーだし、マネージメントの経験もない24歳の日本人だし、恋人もいないし、ミーコもいるし。
ミーコ…… そうだ、まず戻らなければ。
状況を固めなければならない。
元世界へ戻り、状況を落ち着けつつ、彼らの話を取り敢えず聞くべきかな。
そこまで言うなら、話を聞いて可能な限り彼らの力になってみるのも一計だろう。
それから、この腕輪を外す条件なりを持ちかけてみよう。
適当な誰かを持ち上げて、オレが死なないで権能を受け継いでもらうとか……
今は言えない何かがあるはずだ。
手段はいくつも考えられるだろう、オレ流だが。
オレはバラムに向かって言った。
「皆さんの要望はわかりました。
ただ、ここに来る前にいた世界に、知古の関係者や大切な者たちがおります。
それらの状況を落ち着ける必要がありますので、一旦戻ります。
その後、戻って皆さんの話をしっかり聞いた後、どうするか、何ができるかを一緒に考えましょう。
私も元の世界に召喚されてから日が浅く、あまりにも常識を外れた展開に、動揺を隠しきれません、それは先ほどお話した通りです」
バラムはオレの話をしっかりと聞いてくれていた。
「承知しました一洸様。
それでは準備をしてお待ちしております。
お戻りになられる際、護衛の“影”をつけさせていただきます、予めご承知おきください」
“影”、つまり監視ということか。
逃げませんよ、逃げ出したいですけど。
バラムがそう言うと、それは現れた。
まるでテレポートしてきたかのように、黒い影が瞬時に人の形になった。
バラムよりちょっと小柄な、同じく短い角をもった女性。
髪はショートボブくらいで漆黒、ちょっとレイラに似ているかな、角が無ければとんでもない美少女。
彼らの方からは自由に元の世界へ行き来できない。
だが、完全に自由ではないにしろ、その手段は持っているということか。
いつでも追えるよ、だから逃げても無駄、ですよね。
「普段は一洸様以外には見えませんのでご心配無用です。
名はカミラ、腕は立ちますので、如何様にもお使いください」
カミラは跪き、名乗った。
「カミラと申します、お見知りおき頂き光栄です魔元帥閣下、なんなりとご命令を」
「一洸です、どうぞよろしく」
そう言うと、カミラはさらに頭を下げて、スゥーッと消えた。
オレは、この魔界の接見場所に試しに魂意鋲を打ってみた。
いつもより少しだけ時間がかかったような気がしたが、それは出来た。
以前“0”を打った時の感じに似ている。
そして疲労の度合いが大きいような気もした。
異次元世界への鋲打ちだ、そうだろうな。
「それほど時間はかからないと思いますが、この場所に現れるようにしますので。
こちらから連絡する場合は、カミラさんを呼べばいいですか?」
「それで大丈夫です、お願いします」
“0”に引き上げてもらい、ダンジョンの入り口を開けようとしたとき、いつもと光景が違うのに気づいた。
それは、オレの荷物の横に新たにまとめて“何か”が置いてあった。
こんなものを収納した憶えはない。
まさか…… マルコシアスがいっていた権能にまつわるものか。
恐らくそうだろう。
元々あったオレの荷物の倍ほどの量であったが、明らかに目新しいものである。
後で確認しよう。
オレはダンジョンの入り口に出ると、彼女たちはディナーを始める寸前だった。
猪だろうか、魔獣かもしれないが、逆さ吊りにされたままぶら下がっており、バーベキューが始まろうとしている。
白いたてがみとブラザーズは、まるで一つのパーティのように上手くやっているようだ。
オレが現れると、みんな歓声を上げてくれた。
本当は笑っている場合ではないのだが、オレは精一杯の笑顔で彼らの輪に入る。
肉は滅茶苦茶に美味かった。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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