第50話 異次元転移
オレはダメ元で腕輪を収納しようと試みたが、なんと不可能であった。
外れない、というより肉体に刻印されているかのような印象だ。
なんてことをしてくれたんだ……
オレの気持ちとか、事情とか、全く考慮されないんですね、そうですか。
学生の頃やったプログラムのブラックバイトを思い出した。
理不尽を突きつけらえた時は、逃げるか、戦うかのどちらかだが、オレはその時は戦ってボロボロになった。
今では後悔している。
その前に、カミオの顔を見て思ったが、ひょっとしたらと思うことがあった。
オレの仮説が正しければ、死後の死体腐蝕が始まる前に保管域に保存、更新効果とともに、光魔法による賦活効果を少しずつ加えれば、死から生還できる……
かもしれない。
これはあくまで仮定なのだが、この保管域の持つ性能がオレの予想通りだとしたら、もしかしたら間に合うかも。
必要なのは、もちろん保管域の機能、そして光魔法を使うミーコ。
オレはカミオの亡骸を保管域に収納、そしてダンジョンの入り口に戻った。
三人娘たちは、物言わずメンバーたちと腰かけていた。
オレが次元窓からでて、グラートにカミオの状態を説明、やれるだけのことはやってみる、そう伝えて、ここで待っててくれと説明。
ミーコにやってもらいたいことがあると告げると、彼女はいつもと違う顔を見せて、頷いてくれた。
「カミオさんのペンダントに光をあてて、光がカミオさんの全身にゆきわたわせるイメージで、彼が生き返ることを願うように、光を注いでみてくれ。
これは今君だけができることなんだ、ミーコ」
ミーコはオレの目から視線をそらさず、頷いた。
ミーコの手から光が流れ出て、ペンダントに注がれながら、溢れ出る光は彼の全身を覆っていく。
かなりの時間が過ぎた。
この保管域の賦活更新サイクルの時間が、どの程度で仕切られているのかわからなかったが、それは唐突に現出した。
カミオの瞑った目から涙が流れ始める。
しかしまだ目は開かない。
さらにしばらくして、カミオの口が微かに動いた。
「……」
彼はゆっくりと目を開け、光を注ぐミーコとオレを交互に見た。
成功したようだ。
ミーコの笑顔が眩しかった。
「おにいちゃん、カミオさん起きたよ、上手くいったよ!!」
彼女はオレに抱き着き、そしてオレはしっかりとそれを受け止めた。
いままで抱きしめた中で、一番強いハグだったかもしれない。
「……ミーコちゃん、ありがとう
一洸、きみには何回助けられればいいのかわからないな、本当にありがとう」
ダンジョン入り口の次元窓からオレとミーコ、カミオが出てきたとき、メンバーの歓声が湧きあがった。
手を取り合ってよろこぶ白いたてがみの5人。
オレと三人娘は、頷き合って互いの存在を確かめ合った。
カミオが蘇った要素が、あのペンダントなのかミーコの魔法なのか、あるいはその両方と保管域の機能があってなのか、それはわからない。
ただ、今はこの結果を受け入れて良しとしておこう。
さて。
もしこのまましれっと帰ったらどうなるだろう。
とにかく、この腕輪を外してもらわないといけないし。
いや、多分…… 恐ろしく面倒なことになることは、誰が想像してもわかる。
オレが次元窓に入ろうとすると、カミオが言った。
「一洸…… 一人で行くのか?」
「ええ、ケジメをつけてきます。
このまま帰ったら、収集がつかない程恐ろしく面倒なことになりそうなので」
話の展開次第だが、6時間経って戻らない時は帰路についてくれと告げて、オレは次元窓に入って転移した。
次元転移のあった場所に戻ると、マルコシアスの亡骸の前で突っ伏している女性がいた。
白い、まっすぐな羊の角のようなものを生やしている銀髪の女性が、顔を上げてオレを見た。
彼女は最初、かなりキツイ目でオレを見たが、オレの腕に嵌められている腕輪を見ると、表情を変えてオレに対して跪いた。
「お待ちしておりました、勇者殿」
勇者殿……
やはりそういうことになっているのか。
何から説明すればいいか、オレは予想される長々しさにうんざりした。
女性に促されて神殿の階段を上がると、まるで次元窓のような霞のような門があり、彼女が先に入って、オレも続いた。
そこに入った途端、空気が変わった。
その場所にいた物凄いオーラを放つ超強面のモンスターたち。
身体のサイズからして規格外、完全な人間の面持ちをした者はいなかった。
10人近くいただろうか、一瞬の間をおいて整列し、一斉に跪いた。
「魔界の魔神将たちです」
女性が告げた。
「申しおくれました、私は筆頭魔神将バラム、先代の魔元帥マルコシアス様の配下です、バラムとお呼びください」
そのバラムと名乗る角の生えた女性は、一歩下がって左手を胸にあてて頭を下げ、自己紹介した。
「あ、あの…… 一洸、杉本一洸です」
さぁーて、どこから話すかな。
ここにいるのはオレから見ればとんでもない怪物たち、人語を話すとはいえ、申し訳ないが人間はオレだけのようだし、理解してもらうには真実をぶつけるのが一番だろう。
召喚されたことから話しても、このメンツから人間世界へ情報が流れるとは考えにくい、と予想してみる。
今後の目的を整理しよう。
1. 説明した後、腕輪をはずしてもらう
2. 魔界を統率するなど自分には絶対不可能、他の方にお願いします
3. ダンジョン入り口に戻って、みんなと帰る
バラムはオレを促しながら入ってきた上座からの階段を降りた。
魔神将たちはうつむいて跪いたままの姿勢であり、恐怖の視線がこちらに向かわないのが救いだった。
オレは、マルコシアスの死去に際しての悔やみを告げた。
バラムはじめ魔神将たちは黙っておれの言を聞いている。
「マルコシアス様からお聞きになったと思われますが……
マルコシアス様自身が権能を移譲したお相手こそ、魔界を統率する資格のある能力者であると、既に決まっております」
「……あの、実はその話なんですが」
オレは、飛行機事故に巻き込まれて異世界召喚された異世界人である事を包み隠さず話した。
長い話ではなかったが、彼らは恐ろしいほどの集中力でオレの話を聞いてくれているのがわかる。
「なので、オレはただの人間なんです。
マルコシアスさんと闘って死んだ勇者カミオ氏の代わりに話を聞いたのは事実ですが……
魔界を統率するなど、おこがましいというか、恐れ多すぎて、とてもじゃないですが、無理です」
魔神将たちが顔を上げ始めた。
彼らがオレの顔をこの距離で見るのは初めてだろう。
まるで、この人物がそれに足る存在であるか、値踏みをするかのような目であった。
こちらはしっかり値踏みして諦めてもらうに越したことはないので、大歓迎ですよ。
それにしても、なんと禍々しき面々……
そのほとんどが半人半獣、角を生やしている。
しかしどうしたことか、また俯いてしまった。
がっかりして俯いた印象ではない、まるで納得したかのような感じ。
いや、ここで諦めてもらわないと困るんですが。
「今、一洸様がいるこの場所は、さきほどまでいた世界とは違うのです。
ここは魔界、大魔王バルバルス様が開いた魔界です」
「え?」
「一洸様が転移された場所、マルコシアス様が闘った場所も、魔界の一部です。
あなた様は勇者の権能である異次元転移の権能を既にお持ちなのですね」
異次元転移……
そうなのか、そうだよな、別世界である保管域に何でも入れられて、中に入って外にも出られる。
でもそれだけですよ。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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