第49話 新たなる魔元帥
オレは白いたてがみのメンバーを全て安全な場所へ転移させると、再びカミオが戦っている白い神殿へと戻ってきた。
時間停止していたので、彼には一瞬の出来事に見えたに違いない。
カミオはオレをみて、全員が転移したのを確かめると、確かに微笑んだ。
まるで待っていたかのように、勇者の纏うまばゆいばかりの光りの渦が、彼と彼の剣にまとわりついて、白いたてがみを持つ聖獣が、黒い悪魔を屠るような仕草で、大きく薙ぐ。
黒い大剣と勇者の剣が弾け合うと、大きな光爆が発生し、その波動と眩さで、オレは目を開けていることが出来ない。
勇者の力と、その魔王の力は拮抗していて、とてもあの光の渦に近づいて彼を収納することは不可能だ。
光と闇が激しく力をぶつけ合い、爆散する。
オレは目を瞑っていたのに、あまりの光の圧力に柱に強く打ちつけられ、意識を飛ばされた。
光の渦が去った後、残されたのはオレだけだった。
生きていた。
あの闇と聖の混ざり合った光の濁流のなかで、どうして生き残れたのかはわからない。
カミオは、剣を持ったまま床の上に横たわっていた。
近づいて彼の顔を見たが、一瞬で事切れているのがわかる。
その表情は、まるで何かをやり遂げたような、そんな安らかさがあった。
少し離れたところに、漆黒の騎士が倒れている。
オレは恐る恐る黒い騎士に近づくと、彼はまだ生きていた。
『俺は魔元帥マルコシアス…… 今の、魔界を統べている』
魔元帥?
魔王ではないのか、すると魔王はもっと上位。
今のオレには想像できない。
魔元帥マルコシアスはそう言い、黒い仮面を取る。
そこには、白銀の毛をなびかせた狼の首。
『この次元転移は、俺が起こしたのだ…… きみたち勇者を誘い込むためにな』
身を横たえながら、彼は話し始めた。
『残ったのは私だったのだな、もうすこし勇者には頑張って欲しかったが、残念だ……』
「?」
『魔界を、勇者であるあの男に統率してほしかったんだ。
そのための権能は全てここにある。
私は大魔王バルバルス様の代わりに過ぎない。
バルバルス様が古の者どもを封印するため魔界を去った後、ずっとこの魔界を治めてきた。
バルバルス様の力には及ばないながらも、私は私なりに精一杯やってきたつもりだ。だが、もうそれも限界なようだ』
そう言った彼の表情は、とても苦しそうだった。
魔元帥マルコシアスが唐突に語ったこの世界の衝撃の事実は、オレの価値観を根底から揺るがした。
大魔王バルバルス…… その代わり、そして古の者ども?
古の者ども…… オレの知っているそれは、地球の読み物の中の空想上の存在。
まさかな。
『……俺にはもう残されている力はほとんどない。
勇者が勝ったがその後死んだ、ということにして、君は俺の権能とこのアイテム全てを受けついでここから出てくれ』
「は?」
はいわかりました、とでも言うと思っているのだろうか。
どんな答えを期待しているのか、残念ながらオレの頭では想像できない。
「そんな…… 同じ魔族の、あなたみたいな強者から選べばいいじゃないですか」
マルコシアスは、半身を起き上げた。
半身だけでも自分の身長を軽く越えている恐ろしいその怪物は、目からだけは知性を感じることができた。
『魔界の…… 魔族ではだめなのだ、だから勇者に勝利してもらう必要があった』
「……」
『バルバルス様がそうであったように、俺たち魔族というのは、実力だけでその価値が決まる。
内輪で決めようとすると、必ず戦いが始まるのだ。
我々自身、どうしようもない生き物だということはわかっている。
外圧によって支配されなければ、自らの集団意思ではどうにもならなかったのだ』
「人間だってそんなもんですよ、どちらも変わらないんですね」
『いや、きみたち人間には話し合い、助け合っていこうとする姿勢がある、少なくとも我々よりはな。
勇者は、死んでしまった……
本当は俺に打ち勝って、ここを出てほしかったんだ。
おかしな話だがな、それで上手くいくはずだった』
「例えようもない残念さですね」
『もう一度言う、人間の若者よ、きみがここを出て魔族を纏めてくれ』
「……」
『ここには魔界を統べる者が所持する全ての権能のアイテムがある。
きみの持っている固有権能“保管域”に勝るとも劣らない王者の権能だ』
「……あの、言っている意味が本当に解からないんですが」
『きみが俺の権能を受け継ぎ、魔界を統率してくれ』
オレは、さすがにどう答えていいかわからなかった。
自分が魔元帥? 魔王? あまりにも荒唐無稽でふざけすぎている。
「冗談でそんなことは言われないと思いますが、私はただの人間で、特別なものは何ももっていません、絶対に無理です」
『きみにはその資質がある、少なくとも、権能“保管域”は、ただの無能力者が獲得できる能力じゃない。
バルバルス様から預かっている全てを、あなたに託す』
マルコシアスはオレの手を握って言った。
狼の頭の3メートルを越える巨躯の怪物に懇願される様は、どう想像しようにも出来得なかった絵柄であった。
マルコシアスが握った手が光りはじめた。
変だな、いつか見た光に似てる…… いや、なんか嫌な予感がした。
『新たなる魔元帥よ、どうか魔界を頼みます……』
マルコシアスはそう言って、オレの手を握ったまま、恐らくは相当長く生きたであろう命の火を消した。
狼の頭ではあったが、魔元帥の表情は安らかさそのものであった。
オレは、マルコシアスが握った手を離し……
え?
なんだこれ?
オレの腕には、意味不明の模様が細かく刻まれた白銀の腕輪が嵌められていた。
不思議といつもの翻訳機能が働かないようで、日本語の訳語カバーがかからない。
もちろん外そうとしたが、無理だった。
どうやっても外れない。
ちょっと…… 困るんですけど。
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