第45話 決定的に足りないもの
オレたちブラザーズは、勇者カミオ率いる“白いたてがみ”とともに、新しい未踏ダンジョンに向かってフーガの森を進んで行った。
その場所は、森の奥深くの岩山の間にあるらしく、位置を示す魔道具を頼りに行軍している。
オレは闘技会のあと、賞金1000万Gをみんなで分け、武器用オリハルコンをもらって、晴れてリーダーのオレはCランク、みんなはそれぞれDランクになった。
武器用オリハルコンを分けようとしたら、みんないらないそうなので、パーティ資産として保管しておくことになった。
カミオたちに保管域の秘密をどこまで明かすべきか思案していたが、その権能のデタラメぶりはとりあえず、彼女たちが次元窓から魔法攻撃することが可能で、その力によって闘技会優勝もできたと、事実ベースで明かすことにした。
彼女たちが次元窓に消えたところを見せた時、また彼らから言葉がでなくなってしまった。
「この前の檻と人間の違いだけだな…… これはもちろん、オレでも入れるんだよな?」
グラートが恐る恐る聞いてくる。
オレは誰でも入れるし、オレ自身も入れますよと説明、もし迷宮内で窮地に陥ったら、ここに入ってオレが逃げればいいと理解してもらった。
予め決めた場所だけだが、転移し放題だとはまだ伏せてある。
「君らがAランクになったら、オレたちとクランを組まないか?」
他のメンバーがそう言ったし、恐らくそう言われるのはわかっていたが、いつになることやらと濁しておく。
行軍のペースは結構な速さだ。
「疲れたら中に入ってもいいんだよ」
彼女たちはにっこり笑って、大丈夫の意思を表した。
そんな感じで、この子たちに気遣いながら進んだが、それは全く無用だった模様。
むしろ体力が追い付かないのは自分のほうなのではないか、そう思えるほど、彼女たちはケロッとしてついてきている。
亜人としての基礎能力なのだろう、やはり人間のそれとは明らか違うようだ。
いつものブラザーズが森へ立ち入る深度はとうに越えていたが、ここが魔獣が出やすい場所かどうか、オレは当たり前のようにわかるまでになっていた。
やはり、そいつは唐突に表れる。
その岩水牛は、小ぶりな木をなぎ倒して突進してきた。
オレは彼女たちを素早く収納する。
白いたてがみとオレは、進行方向真横から猛進してきたその岩水牛をやりすごし、折り返してきたところを迎え撃つべく構えた。
たてがみのメンバーは、見事なフォーメーションで岩水牛の真横から剣を突き刺していき、水牛は絶叫を上げて怒りまくっている。
攻撃フォーメーションの後衛に位置していたオレに、岩水牛はターゲットを絞ったようで、猛突進してきた。
「一洸、気をつけろ!」
カミオが注意を促してくれたが、オレはいつものように深呼吸しながら、相手の動きの先を読みつつ、準備をする。
慎重に距離を捉え、攻撃方法を決定。
タイミングが難しいな、下手をすれば確実に死ぬ。
岩水牛がオレに体当たりする寸前、“オーク串刺し台”を出現させた。
“ぎょわあああああああ”
咆哮ともつかぬ物凄い絶叫で、岩水牛はそのまま突進して頭から串刺しになり、鮮血をまき散らして絶命。
一瞬の出来事だったが、あまりの見事な瞬殺にたてがみのメンツも驚いていた。
アロルド製串刺し台、使えるな。
カミオの提言で、この先で野営しようということになり、みんな同意する。
オレは周囲を警戒しながら、彼女たちを保管域から出した。
「おにいちゃん、大丈夫だったの?」
「とげとげしい台座が消えたので、そういうことだと思いました」
「……あの、怪我しませんでしたか?」
彼女たちはそれぞれ身構えて待っていたようだが、今回は出番ありませんでした。
とはいえ、みんな中でどんな風にして過ごしているんだろうか……
今度、ゲームでも買っておくか。
電源さえあれば……
オレはそんなことを考えていたが、彼女たちはグラートらが大木の太い枝を利用して岩水牛を逆さづりにし、血抜きをしているのを見ている。
その後、見事な手際で解体されていく岩水牛を見て、自分や彼女たちに冒険者として決定的に足りないものを見せつけられた気がした。
ここは地球ではない、異世界の血で血を洗う掟が支配する現実世界なのだ。
魔石は魔獣の心臓近くにあり、それを取り出すところを見せてもらった。
通常、保管庫を持たない冒険者は、討伐した魔獣を輸送する手段がないため、この部分だけを持ち帰り、ギルドに買い取らせる。
保管庫持ちがいないカミオたちも岩水牛を討伐した場合は、その場で処理して食事会になることが多いそうだ。
総勢10人近くになるので、岩水牛の串焼肉は盛大なものとなり、今後こういったことに必要な備品の参考になった。
グラートが、オレに魔石を渡そうとしたが辞退する。
止めを刺したのがオレだということらしいが、それでも丁重に断り、血抜きと肉裁き代としてとっておいてくれとグラートに言った。
「じゃ、これは仕事あとの完了祝いバカ騒ぎ代として使うよ、相当派手にやれるぜ!」
彼はそう言ってしまってくれた。
鍋や調理器具をもっと用意しておけばと思ったが、それはは今言うまい。
例えばこういう場合は、魂意鋲で転移して買い物をすれば一瞬で終わる。
そんなこともすぐ思いついたが、もちろん今回は止めておいた。
かなり大量の岩水牛の肉があまったが、保管庫持ちがいない場合は放置するしかないそうだ。
当然説明をし、次の野営の食材として保管させてもらった。
そのダンジョンは未だ誰も踏破していない、未知のものだ。
人跡未踏の岩山の底にある巨大な大地の裂け目で、中にドラゴンが潜んでいても驚かないほどの大きさ。
オレたちがいたので、基本的なルールの説明がグラートからあった。
「ダンジョンで獲得した魔獣、魔石、その他ドロップ品や、宝物の類は全て完遂後に買い取らせた後分配、分配率は平等で、もし死者が出た場合は、弔う費用を抜いて分配する」
カミオたちは、特に空間魔法を有するメンバーを欠いていたため、それまでの攻略では、泣く泣く持参できなかった宝物が山とあったとか。
三人娘たちは黙ってグラートの話を聞いていた。
オレは今回、耐熱・対被弾用のマントを15万Gで新たに新調。
見た目はなかなか様になっているが、性能は未知数である。
「試したことはないがな、ドラゴンの吐く豪炎でもない限りは大丈夫だろ」
武器屋のアロルドはそう言っていた。
確かに、試しようもないな。
ミーコは収納する前に、オレの手を強く握ってきた。
空いてる手で、いつものように頭ポンポンをする。
なぜ目を潤ませるのか、ちょっとわからなかったが、彼女はやっと手を離してくれた。
魂意鋲のポイントは他にもあったが、オレはこの入り口付近にひとつ魂意鋲を打つ。
オレの予感がそうさせたとしか言いようががない。
もし非常時に使用した場合、自分の打ったポイントを第三者に知られたくないと思ったのも事実であるが。
ここまでの案内人が引き返した後、打合せ通り三人娘を保管域に収納し、オレは覚悟を決めて、カミオたちと中に入っていった。
この子たちは絶対に生きて返さねば、そう心に誓うのだった。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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