第42話 人間など遠く及ばない
爆弾男が治癒施術スペースにて、治癒されている。
スタンバイしている治癒術師は20人程だろうか、今は先の試合の3人と、他の件の2人程が寝かされていた。
オレは彼らから少し離れたところに寝かされて、一人の女性治癒術師が治療してくれている。
痛みは瞬く間に消え、見ると腕の傷は跡形もなく消えていた。
今は足の数か所に取りかかかっている。
僅か十分少々の出来事だったが、体中の傷は跡形もない。
「傷が浅かったので短時間で済みました、もう大丈夫ですよ」
オレは治癒術師に丁寧に礼を言って、彼のベッドに向かった。
ミーコたちは、スペースの外で待たされているので助かった。
オレは、爆弾男が寝かされているベッドに近づく。
他の2人は、まだ意識がないようだ。
治癒施術中の爆弾男のベッドの傍らに立つと、彼は静かに目をあけた。
治癒術師はオレの方を一瞥したが、すぐに仕事に集中してくれた。
「さっきはどうも…… お互い大変でしたね」
爆弾男は、フッと軽い笑みを浮かべた。
まるで全てを悟っているかのような、あきらめの境地といった表情。
「あの爆弾? ですか、すごくいいですね。あなたが作ったんですか?」
「……ああ、そうだよ。
だがあんたたちの狂った嵐に適うやつは、恐らくそういないだろうな。
投擲爆は確かに手段としては強いけど、単発での効果は限られる。
協力な補完手段があって初めて力が発揮できるからな。
ま、あんたなら存分にやれるだろうが」
彼はそう言って、自分の不甲斐なさを自身に向けているようだった。
投擲爆か。
上手く名付けたものだ、まさにそうだ。
「初めて見た攻撃方法だったんで、勉強になりましたよ。
あれを作るのは大変だったんじゃないですか?」
彼は口元だけ不敵な笑みを浮かべて言った。
「別に、大変でも何でもないさ。
ただ投擲爆の原料は混合魔石だ、魔石の種類と混合率の情報は帝国が管理してる。
くれぐれも扱いには気をつけなよ、オレの相棒もそれで死んでる」
やはりそうか。
この世界の爆薬は、オレの知ってる硝石だかとは違うわけだ。
だが、この異世界に硝石があったならどうだ?
オレは軽装爆弾男に礼をいい、金貨3枚の入った小袋を枕元に置いた。
「……なんだこれは?」
「情報料と気持ちです。
とにかく、皆さんが生きててくれてよかった。
お大事になさってください」
超能力も魔法もろくに使えない自分ではあったが、
歩み去るオレの背中を、彼が黙って見つめ続けているのがわかった。
「おにいちゃん……」
ミーコはオレの切られた服の下にある傷のない身体を見て、安心したようだ。
アンナとレイラは、自分たちの魔法が起こした結果の衝撃から回復するのに、まだ少し時間がかかりそうである。
オレは爆弾の作り方など、予備知識でさえも認知していない。
その考えを巡らそうとする前に、すっかり忘れていたことを思い出した。
そういえばノートPCが荷物の中にあったな。
デスクトップもあるが、コンセントがないのでどうしようもなく、諦めたままだ。
簡易オフライン事典が入っていたので、火薬の知識もある程度はとれるだろう。
観覧スペースに着いた彼女たちを落ち着かせて、ここで観ているよう告げて、オレは席を離れた。
ホール裏の人気の全くない一画、周りからは死角になっている柱の陰に魂意鋲を打ち、“0”に引き上げてもらう。
保管域の中で、PCを取り出して起動する。
バッテリーはほぼ満タンだが、これがどういう減り方をするのか見ておきたかった。
ゲージは90%。
そうだ。
意識だけで、時間経過を制御できるかの試行もまだだったな。
オレは意識を集中し、外の時間経過をゼロにするべく、命令するように強くコマンド思考した。
結果はわからないが、取り敢えずこちらを調べよう。
火薬で探すと、黒色火薬とヒット。
爆薬製造方法、分量まで記載があった。
[必要条件]
硝酸カリウム 純度99.5%以上、塩化物0.03%以下、水分0.2%以下
硫黄 純度99.5%以上
木炭 柔らかく、灰分の少ない物
硝酸カリウム、つまり硝石と、あと硫黄か。
この世界に硝石と表示されるものが、どの物質に該当するのか探さなければならない。
硝酸カリウムを引いてみると画像があり、オレはスマホにそれを移動させた。
あとは硫黄、これも画像を保存した。
ノートのゲージは90のまま変わっていない。
まさか、使用したエネルギー消費そのものがゼロになるのか。
質量がゼロ扱いになるから無限に保管できるんですかね、アインシュタイン先生。
減らない、消費しない、劣化しない、腐らない、歳を取らない……
ネフィラの言った通りだったとしても、オレの持っている常識など、完全に無視ですか。
まさかね。
次元窓を開け、周囲に誰もいないのを確認し、オレは戻った。
ミーコたちのところに行くと、彼女たちはつい先ほどオレが席を立つ前までのようにしていた。
ということは、爆弾男の見舞いと保管域“0”で検索した時間を鑑みても30~40分程度。
時間経過は、“0”の中に入り、停止コマンドを出せば“なし”になるのは成功ということか。
少し落ち着いて考えてみた。
この“保管域”、これが常識を外れたエネルギーの供給備蓄庫であり、中に保管していていも、劣化する端からその前の状態に補完されつづける特殊空間だったと仮定してみる。
すると、何がそこに存在しようが減らない、消費しない、劣化しない、腐らない、歳を取らない、なぜならすぐ劣化補填されてしまうので、元の状態をエネルギーが補給され続ける限り永遠に継続する。
とてつもなく膨大な無限エネルギーのリアクターのようなものがあの空間の中にあって、それが空間とその内容物を維持している……
これなら納得できるかも。
いや納得できないな、そんなもの聞いたこともない。
この間のネフィラの話以外は。
検証しなければ。
ただそうだとすると、本当に“精神と時の……”のように使えるな。
精神的活動や、その成長が許されているのなら、脳の中のシナプス増殖はいいのか。
恐らくは神が作ったのだろうが、中で思考をめぐらすことが可能なことから、完全無欠というわけでもなさそうだ。
これも仮定だが。
サーバーのオートリフレッシュのように、つまり自動的にブラウザーをリロードする機能のように、定時的に細胞の劣化を完全自動賦活更新させているとしたら。
思考してシナプスを増殖させても、増殖したり利口になった分はそのまま維持継続され、劣化して死滅した部分は再生されるのだとしたら。
中で学習したとしても知識だけは棄損されることなく、年齢劣化は回復される。
これを創ったのは、間違いなく人間など遠く及ばない、遥か上の存在だろう。
いずれにしろ、オレの頭で理解できるモノではないな。
実動作で検証し、使える部分だけ認知して使っていくしかない。
今回の検証では甘いので、また別の機会にきちんとしておこう。
オレはミーコたちと一緒に、敵前視察に集中することにした。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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