第40話 強い斬撃
全能力闘技会の本選会は、2日間にわたって行われる。
初日であるというのに、凄い人出だった。
オレが召喚されたホールまでの広く長い坂は人、人、人の海で、それがゆっくりと登っていく様は、下から見上げてうんざりするほど。
覚悟も要るが、色々ミスが許されないな。
予選会出場者のレベルは知れたものだが、勝ち上がってきた16人の冒険者およびパーティたちはそれなりの実力者なのだろう。
ま、たとえ初戦敗退でも良かったとしよう。
ここまでの成果として、そう悪くないのは自分でもわかっている。
闘技会ホールの巨大な半円形の天井を見上げると、吹きさらしの送風枠にわずかながら黒い煤が残っていた。
その下には超満員の観衆が、ほぼなんでもありの戦闘ショーを今か今かと待ちわびている。
その相手は剣士だった。
ランクの表示は同じD。
だが、実質表示される冒険者ランクなど、あまり意味をなさないのはわかっていた。
純粋な戦闘力では、恐らく傭兵や、冒険者という身分によらないハンターのような生活をしている者の方が高いだろう。
能力を隠して生きなければならない事情を持った人間がいるのも、今となっては頷ける。
この剣士の初戦を見る機会がなかったのが悔やまれる。
その剣士は鉄仮面を被っていた。
2メートル前後はあるだろう、肩幅や骨格から、それが男以外の何者でもないのがわかる。
ブラザーズと鉄仮面剣士は、ステージ上に上り相対した。
礼などという作法はなかったが、お互い戦う者同士の敬意は感じあえたと思う。
オレは用意したマントで彼女たちを一人一人収納し、身構えた。
魔法の説明はなかったが、檀上に上った戦士が全て敵である認知がお互い出来れば、透明になろうが、空を飛ぼうが、持っているなら保管庫から何を出そうが何でもありである。
予選の時もそうだったが、観衆が微かにざわついた。
彼女たちが消えたのが原因だが、もちろん違反でもなんでもなく、ブーイングも起こらない。
鉄仮面は剣を上段に構えた。
上から振り下ろして分漸し、一発で決めるつもりなのだろう、全く隙が無い。
相手の生死など構わない、そんなタイプの人間なのだろうことが伝わってくる。
ミーコの次元窓を出して、矢の初撃を放った。
カンッ、カンッ、カンッと鉄の矢じりが見えない程の速剣で弾かれる。
ミーコはムキになり、三本まとめの連打を浴びせ初めた。
アンナの次元窓も開け、氷弾の連射が加わる。
鉄仮面は剣を物凄い速さで回転させて、矢と氷弾を弾きながら、オレに向かって素早く移動してきた。
オレは剣を構え直し、奴の斬撃に備えた。
ただ、ひょっとしたらこれで死ぬかもしれない、一応心構えは出来ている。
鉄仮面は剣を回転させながら、オレの側面から強烈な薙ぎを入れてきた。
上段から振り下ろすと予測していたオレは、とっさに半身をかばうように剣を当てたが、あまりの剣圧に吹っ飛ばされ、危うくステージから落ちるところだった。
よくこの剣が折れなかったものだ。
あの斬撃をマトモに身体に受けたら、間違いなく即死だな。
腹から真っ二つに分断された身体が、治癒魔法で治せるとも思えない。
剣士は倒れたオレに、凄まじい速さで剣を振るってきた。
これで殺して決めるつもりだろう。
おれは全身が痺れ気味だったが、素早く起き上がりステージの反対側に逃げた。
オレが起き上がると思っていなかった鉄仮面は一瞬ひるんだ。
奴が立ち止まるのを、オレは待っていた。
オレは、“0”から“手”をだして、鉄仮面の腕をしっかりとつかんだ。
鉄仮面は何が起きたのかわからず、しきりに腕を見ていたが、そこには何も存在しない。
“0”の“手”はオレにしか見えず、ただ何かに自分の腕をつかまれている感覚はあるのだろう、鉄仮面は片腕を剣で薙ぐが、“手”に干渉することはできないようだ。
オレは再びアンナの次元窓を強くイメージし、それを大きく開けた。
拳を強く虚空に上げる。
アンナは理解してくれるだろう。
その瞬間、拳よりは一回り大きい、直径10cmほどの氷塊がこれでもかというほどに鉄仮面に放たれた。
片手持ちの剣で薙ぎきれるわけはなく、回転させることも、逃げることもできない鉄仮面は、身体の防御のため、剣を手放して片腕で身をかばうようにうずくまった。
オレは氷弾に当たらないよう、身を低めて素早く近づくと、鉄仮面の剣を蹴り飛ばし、切先を彼の正面に向けた。
鉄仮面は体の痛みに耐えながら、うずくまったままだった。
「そこまで!」
審判の声がステージに響き渡った。
息を殺して黙っていた観衆の大歓声が沸き上がった。
“こんな卑怯な手を使いやがって”的なブーイングの嵐を予想したが、それは杞憂もいいところだった。
元々そういうバトルらしい、地球の、特に日本人の価値観はここにはないようだ。
ステージから降りる時、鉄仮面はこちらを向いた。
顔は見えなかったが、何か言いたそうな感じだ。
だが彼は、身体を押さえながらそのまま立ち去って行った。
あの男は間違いなく強い。
剣だけではなく、圧倒的な身体能力と鍛え上げた技を持っている。
素人の自分ではあったが、勝負を長引かせるだけ死の確率が跳ね上がるのを、痛いほど身に染みて感じていた。
オレは立ち去る彼に、わずかに頭を下げた。
申し訳ないというより、ささやかなる敬意の証だった。
だが、彼がそれに気づくことはないだろう。
「おにいちゃん、大丈夫? ……」
「上手くいってくれて良かったです、あの大きさを連打するのはちょっと疲れるみたいですけど」
「……あの、一洸さん、治癒術師のところへ行きましょう」
体の打撲からくる痺れで、上手く歩くことができずフラフラだった。
一発の斬撃を受けただけでこれである。
オレはミーコとレイラの肩を借り、アンナに付き添われながら、打撲を治すため、治癒術師の下に向かった。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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