第39話 厨二風なサイン
日中のメインストリートの店舗は、どこも大した賑わいだった。
普段昼間の街中を闊歩する余裕がほぼなかったオレたちは、夕刻の街中との色合いの違いに驚いている。
冒険者ルックでない彼女たち、見ている方が気恥ずかしくなるようなJKぶりで、地球であればオレなら傍に寄りたくないのは間違いない。
ミーコは、雑踏を歩いてももう気後れするような感は全くなかった。
慣れとは恐ろしいものである。
丁度本屋が通りの角にあった。
かなり大きな書店で、二階まである。
魔法のおかげでかろうじて読めるが、当然相変わらずの異世界文字だらけ。
日本語だけではなく、アルファベットまで懐かしく思えてしまうとは……
「幼児用の文字教材は…… あれですね」
オレは教材コーナーで本を物色するアンナの横顔を見て、メガネ萌えの友人を思い出した。
あいつがこの子を見たら、一発で恋に落ちるだろうな。
可愛い系美少女ながら、これほどメガネの似合う女の子も、前の世界ではそうお目にかからなかっただけに、しばらく目が離せなかった。
しかもネコ耳。
アンナは文字用と算数のドリルに動物の絵が描かれたものを3冊選んでいた。
その他にも買いたいものがあるようだ。
オレは、魔術書のコーナーに足を運んでみた。
初級魔術…… そんなタイトルをカバーしてくれる一品をスキャンし続ける。
そこに、“魔術理論 初級~中級 -あなたもできる魔素の編み方-”があった。
ほほう…… え?
これ、“著作 ネフィラ”って、あのネフィラなのか。
多分そうだろう、大魔導士の著作なら信頼できるな。
深く読み込んで、後で本人に詳しく聞いてみるか。
これに決めた。
念のため他にも見てみたが、ネフィラ著作の本は高等な技術書がメインで結構あり、魔術理論大系の主編者にもなっていたのはたまげた。
あの人、真面目に相当なんだな。
気軽に抱き着かれているが、あれで本当にいいんだろうか。
これだけの著作数……
というか、やはりエルフなので、年齢は数百歳とかか。
あまり年齢の話にはもっていかない方がいいな、気をつけよう。
ミーコは?
心配して探そうと思った矢先、料理本コーナーで、レイラと楽しくお料理談義していたので、オレはアンナのところに行き、彼女の持つ本を手に取った。
「え? あの、これはいいですよ、私のものもありますし」
「いいよ、ミーコを教えるのは大変だろうし…… アンナの気苦労を先に労わせてよ」
アンナはクスっと笑った。
その表情は中学生の頃、片思いをしていた同級生にほんの少し似ていた。
もし、転生したのがミーコでなくアンナだったら、どういう展開になっていたろう。
オレがその想像をしようとした時、うしろからミーコに上半身をホールドされた。
「おにいちゃん、これも買うよ!」
ミーコが手にしていたのは、料理本と魔獣や動物が描かれた本。
オレはミーコの教材と料理本を合わせてレジに出した。
その後、二軒隣にあった文房具屋でノートと筆記具を買うと、オレたちはパリのカフェのようなレストランでランチにした。
ランチの後、しばらくぶらぶらして河原に転移した。
オレもそうだが、みんなかなり食べたので、魔素も十分だろう。
さっそく本日のメニューを紹介した。
「ミーコとアンナとレイラの魔法、今まで単発で使ってもらったけどさ、
組み合わせてみるとどうなるか、試してみたいんだ。
もし上手くいくようなら、2日後の本選で実戦配備したいと思う」
三人は頷いた。
珍しくミーコの眼差しまでキリリとして見えたのは気のせいだろうか。
「まずアンナ、いつも氷弾を撃ってくれてるけど、二回りくらい小さく出せるかい?」
「やってみます」
オレは、ごろつきどもの拉致人運送箱を収納から出した。
アンナは、オレが指した木箱に向けて長さ2cm程度の小さい氷弾を、まるで尖った雪のように岩に木箱びせる。
バシバシっと、かなり強い力で氷が木箱に食い込んだ。
「ミーコ、いつも風魔法で弓矢を標的にヒットさせてるよね、それを嵐みたいに大きく吹かせられるかい?」
「…… うん、多分大丈夫!」
少し考えてミーコは答え、より真剣な眼差しで、腕の振りをつけて大風を吹かせた。
額がめくれ上がり、後退るほどの風に、おれは満足した。
「レイラ、いつも壁をだしてくれたり、階段を盛り上げてくれたりしてるよね、
壁を連続して出して、囲いのように出せるかい?」
「……あの、はい、できます」
一瞬の出来事だった。
木箱の周りにダンっダンっと、まるで竹の子が生えるように壁が表れ、木箱は六つの壁に囲われ見えなくなった。
「ありがとう。
それじゃまず第一弾、
レイラ、壁を手前側だけ一つ下げてみて。
アンナが細かい氷弾をだして、それをミーコの大風で強く木箱にたたきつけてみよう」
アンナとミーコはニヤリと笑って同時に頷き、一呼吸おくれてレイラも頷いた。
三人ともオーバーアクションで壁一つが下がると同時に氷弾と風を、まるで殺人ブリザードのように繰り出し、内側の木箱に浴びせた。
マシンガンを複数同時に撃つような、こまかい氷の打撃音が重なる。
木箱は粉々に破壊され、かろうじて木の枠だけになってしまった。
もし人間なら、ほぼ確実に死ぬだろう。
「ありがとう、上手くいったね」
「すごいね、でもおにいちゃん、あの壁の中に人がいたら大変」
「冒険者なら防御するので即死はしないかもですが…… 多分普通の怪我では済まないと思います」
「……あ、あの、私これも出せるんです」
レイラが空中に手をあげると、空間から砂が流れ出てきた。
そうか。
オレは新しい拉致人運送箱を土壁の中に出して据えた。
「……レイラ、じゃ、この壁のままでいいから、砂を浴びせてみてよ、
ミーコは大風をお願い」
レイラが手を振るって砂を大量放出し、ミーコの大風で凄まじい砂嵐になった。
木箱はここからでは見えない程の嵐で、箱の上蓋が飛び上がるのが見える。
アンナがオレを見たのでオレは頷くと、アンナが腕を振り上げアクションし、同時に氷弾を浴びせ始めた。
ぼろぼろになった木箱の骨組みが空に舞い上がり、全てが終わった後には、壁の内側には何も残っていなかった。
これは、下手な使い方はできないな。
オレたちはほんのわずかだが、呆然とその場に佇むままになってしまった。
その後、それぞれの技の名前と体で示す発動サインを決める。
厨二風になったのは、彼女たちが覚えやすいようにという配慮です、自分の趣味は少しだけ。
オレは三人娘に気取られることのないよう、口元だけ微かに悪く笑った。
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