第35話 帝国直々の依頼
ギルドに行ったオレたちは、ここ数日で周囲の冒険者たちから、羨望と嫉妬のまなざしを向けられているのを自覚せざるを得なかった。
横柄に振る舞うことなど決してないオレたちブラザーズが掲示板に向かうと、さっと人の波が引くように、行く先を開けてくれる。
かなりやりずらいな。
まだこの権能“保管域”は、衆目に知れることなく過ごせているが、恐らくは時間の問題だろう。
面倒なことになるのは多分に予想された。
“こんな少女たち3人と、ひ弱な若造があんな討伐数を上げられるわけない”
きっと誰でも思うことだろう。
だが、魂より刻印されるギルドカードに虚偽が記されることはまずない。
そんな魔法技術を持っていれば、冒険者になどなる必要はないからだ。
Eランク掲示板には、それまでのアカキイチゴやヤマキノコの募集は消え、鳥型の魔獣数種、猪の魔獣トロイト、ポーションの原料になる幻酔草などがあった。
岩水牛の募集は若干あったが、メインはDランクからのようで、やはり討伐単価で買い取られるより、依頼案件でこなした方が報酬額は明らかにいい。
「豚だ…… あたしはちょっと苦手だな」
「品目がガラリと変わります」
「……場所が、遠くなりますね」
このフーガの隣にある森以外に、遠征しなければならない討伐場所の獲物も数多くあった。
移動手段か。
大抵の冒険者は歩行でいける範囲で仕事をしているが、魔動車を共同で管理しているサークルを作っているものたちもいるようだった。
できれば自分たちの魔動車が欲しいところだが、今後の課題だな。
笑顔で声をかけてきたのは、あの時の冒険者カミオだった。
「一洸、元気そうだな」
カミオはそういうと、一洸の見ている掲示板を見る。
「話はグラートから聞いたよ、大変だったんだってね」
「ええ、一時はどうなるかと……
まさかグラートさんが保安部隊の責任者だなんて思いもしませんでした。
彼が担当している日でよかったですよ、話が早くて済みました」
オレは笑いながらそう言った。
「新しいパーティ、なんていう名前?」
「“ブラザーズ”です、みんな魔法使いですよ、使えないのはオレだけです」
カミオはミーコ、アンナ、レイラを見て、優しい笑みを向けた。
「カミオさん、こんにちは」
ミーコが挨拶すると、続けてアンナとレイラもペコリと頷いた。
「ちょっと…… いや、かなり羨ましいかな、一洸くん」
カミオがそう言うと、三人娘たちは明るく笑った。
この男のさり気ない振る舞い、羨ましく思ったのはオレの方だ。
「ちょっと、いいかな一洸」
オレは三人に“掲示板をよく見ててね”と言ってカミオに従った。
フロアの一部にある接見ブースに掛けるよう促される。
「新しいダンジョンが、このフーガの森の奥に出現した話は聞いているかい?」
「いえ、はじめて聞きました」
「まだ、ダンジョンに入ったことはないんだよね?」
「ええ、ないです。
特大級オークを3頭、岩水牛を100頭近く、あとヤマキノコとアカキイチゴを採ってるだけですね」
「初めてから今日までで、信じられない成果だな、通常ではありえない討伐数だ。
まぁ君なら当然そうなるか」
オレは話をするカミオの表情に、時折暗い翳りが生じるのを見逃さなかった。
この人の抱えている問題は予想だにできないが、この人物をここまで思い込ませるほど重いものがなんなのか、興味はある。
「ぼくら“白いたてがみ”と一緒に、ダンジョンに入らないか?」
「“ブラザーズ”とですか…… 知っての通り、」
「いやもちろんわかってる、危ないことにならないよう、細心の配慮を尽くすことを約束しよう。
ぼくの仲間は、この手の初出ダンジョン調査に慣れていてね、帝国直々に依頼されることが多いんだ。
君の持つ力、空間魔法の力が必要な事態が生じるのは間違いない」
オレは一呼吸おいて答えた。
「自分的には、カミオさんがリーダーなので不安はありません。
オレが行きたいと言えば、あの娘たちは喜んで参加するでしょう。
ただ、あまりにも経験不足なので、そのあたりが大きな不安材料なんです。
オレもあの子達も、ダンジョンと言う言葉の意味すらよくわかっていません」
「仮に死ぬとしても、それはぼくら“白いたてがみ”であって、
君やミーコちゃんたちではないよ、一命をかけて君たちを守る」
帝国直々の依頼か。
Aランクの彼らなら、あるいは当然なのかもしれない。
彼ら以上の存在、この帝国や世界にもあるのだろうが、Aランク冒険者が世界に78人しかいないとなると、相当貴重な存在なのだろうなと思った。
Aランク以上の存在……
勇者とかか。
いるのだろうか。
「わかりました、問題ないと思いますが、一応彼女たちに相談してみますね。
ところで、Aランクのカミオさんの上位存在って、あるものなんですか?」
「Aランクの上にはSランクがあるけど、まだ認定された者は歴史上1人だけだそうだ。
魔王と呼ばれる存在を倒して初めて与えられるらしいけどね」
「魔王って、いるんですか?」
「いるよ、昔ほどの脅威ではないけれどね」
「すると、勇者も?」
カミオは表情を少し曇らせた。
何か、言うべきか否か迷っているような感があったが、彼は言った。
「これから言うことは他言無用にしてほしい。
ぼくが勇者なんだ」
「……」
勇者カミオ。
そうだったのか、なるほど彼なら務まるだろう。
オレは何も疑うことなく、彼のその発言を飲み込んだ。
「細かい話になるので、ここでは要点だけね。
僕は普段作家をやってて、冒険者は副業なんだ。
ある日、勇者としての権能に目覚めてね、それを帝国に察知された。
不本意だったんだけど、勇者として迎え入れられることとなった。
ぼくは条件を出したんだ。
“普段は冒険者兼作家として活動し、勇者としての身分は秘匿すること”
この条件のもと、必要な時に勇者として帝国に協力する、とね」
オレはしばらく言葉がでなかったが、この人の持つ独特の近寄りがたい雰囲気、敵に回すことが絶対不利益になることをわからせるオーラの正体が、これでわかった。
ミーコたちに“ダンジョン行きたい人”と聞いたら、三人娘は同時に手を上げた。
大変わかりやすくてよかったが、心配だなぁ……
カミオは知的なイケメン全開の笑顔で応えていた。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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