第31話 誰かに見られている
「そうねぇ……」
恐らくネフィラは、魔導士という立場でこういった問題を解決するタイミングを得たことがなかったのであろう、少し困った様子であった。
「あなたの保管域、今の魔獣討伐の使い方としては理想に近いわ。
でもそれを秘匿して全能力闘技会出場となると、やはり偽装する必要があるわね」
「パーティ単位で戦闘していることに変わりはないので……
ただ、狡いと思われたくない気持ちはあります。
なので、力を秘匿するとなると、やはり出場は無理なのかなぁと思ったり」
ネフィラは立ち上がると、腕を一振りした。
すると、彼女の身体は消えた。
「どう? 私が見えるかしら? ふふっ」
ネフィラが悪戯っぽく笑う声だけが聞こえた。
透明人間。
いや透明霊魂というべきだが、夢の中とは言え、彼女の身体は消えてしまった。
「これは“無彩識”という魔法よ。
気配感知の力を持っている人ならすぐわかってしまうので、それほど普及してないんだけど、メンバーがこれを用いて参加すると予め伝えておけば、一応偽装にはなるかもしれないわね」
スウーっとネフィラの姿が再び現れた。
先ほどとは違い、地球の女性秘書のような服装になって出てきた。
白いブラウスに黒いタイトミニスカート、黒いストッキングから伸びる脚の美しさは、最初に見た時以上に人間離れした美しさだった。
妖しい目でオレを見つめるネフィラ。
「あなたの世界を覗いてる時、こんな格好した女性が多かったでしょ、
ちょっと参考に着てみたの、どう?」
彼女はくるっと回ってみせてくれた。
オレはまるで元の世界に戻ったかのような錯覚を覚え、少し動揺してしまった。
ネフィラのあまりに完成された女性の美しさを見せつけられたからだったのは言うまでもないが。
「昔を思い出させちゃったかしら、ごめんなさいね。
あなたがあんまり一生懸命だから、少しリラックスさせようと思ったの。
ちょっとドキドキしてくれた?
魔法って、使う人と使い方次第でどうにでもなるものなのよ」
ネフィラが言った言葉があまりに深かったので、オレは彼女をただ見つめるしかなかった。
“使い手が攻撃する方法が特殊なため、魔法“無彩識”を用いて参加する”
これが通るかどうかわからないが、取り敢えず窓口で聞いてみよう。
三人娘たちは、Eランクの掲示板を眺めて、色々話し合っている。
オレはギルドのカウンターに行き、メンバー単位の出場で魔法“無彩識”を使用することに問題ないか尋ねた。
即答はされずに、窓口の女性にはしばらく待つように言われた。
あらためて1Fの広いホールを眺めていたが、ラノベのような粗野でギスギスした感じはなく、この仕組みが出来て相当な時間がたったことが伺える、洗練されたものを感じる。
「問題ありません、ただし出場前に闘技するメンバー全員が姿を見せて確認し合うことが条件となってますね」
「ありがとうございます、では予選出場の申請をお願いします」
申請を出したのは、予選の〆切数日前であった。
予選出場者は、ギルド側で決めるらしい。
ランクはもちろんだが、討伐実績や将来性、素行、犯罪歴なども加味され、ただ強いだけでは駄目だとのこと。
この大会で優勝しようなどとは思っていなかったが、通用するのかどうか、他の冒険者の戦闘力と比較してどうなのか、確かめてみたい思いがあった。
いずれにしろこれでわかるだろう。
オレは笑顔でメンバーの方へ歩いていくと、彼女たちは嬉しそうに聞いてきた。
「おにいちゃん、やっぱりやるんだ?」
「闘技会、参加するんですね」
「……あ、あの、私頑張ります」
おれは笑顔で“怪我しないように頑張ろう”
そう答えた。
闘技会会場は、あの場所だった。
オレは倒れ行くネフィラを抱きかかえて、彼女の最後を見取った円形ホール。
まだ数週間前だというのに、もうだいぶ昔のように感じられる。
〆切の翌日、ギルドの大掲示板に予選出場許可者が張り出され、“ブラザーズ”の名前もそこにあり、オレは再びあの場所に立っている。
この世界で見た最初の風景、フーガの闘技場。
トーナメントが行われる中央に据えられた八つのステージ。
本選はこの5倍近い大きさのものが中央に設置されると案内にある。
そのステージの一つ、オレたちは相手と向かい合った。
予選第一戦、ランク順にシードされたオレたち“ブラザーズ”の初戦相手は、剣と盾の男と斧の男二人、レイピアの女一人の3人組パーティ。
顔を合わせ、位置に着いた後、偽装のために用意したマントで覆い隠してミーコたちを収納する。
三人組は“ほう、そんな子供だましでどこまでやれるかな”的な顔で不敵に笑っていた。
オレが剣を構えると、審判が“始め!”の合図。
はじめての対人戦、異世界での冒険者との闘い。
「ぐぅわっ」
剣を持った男が氷弾をかわし切れずに何発か身体に食らって倒れた。
「この野郎、うつっ!」
すかさず斧の男に連続した矢の雨が降りそそぎ、同じくかわしきれずにうずくまる。
女はオレめがけてレイピアを突き出してきたが、オレはかろうじて避け、再び正面に剣を構えた。
女はフェンシングの突きのようなスタイルで、オレに連打してきた。
オレはレイラの次元窓を開けると、彼女は理解してくれたらしく、足元に土壁が飛び上がるように出現、すごい勢いで跳ね上がり、女の背後に回ると重力に任せて首筋に思いっきりチョップをした。
レイピアの女はがっくりと倒れる。
身体を抑えながらうめく二人の男と倒れた女。
「そこまで!」
の声で、“ブラザーズ”の予選第一戦は勝利に終わった。
わずか数分の出来事だったが、あっけなさすぎる。
予選だし、もちろんこれが続くとは思っていないが。
闘技ステージから降りる時、オレでも感じるくらいの強い気配を感じた。
彼女たちを保管域から出すとき、気取られないよう細心の注意をはらって次元窓に手をいれた。
「おにいちゃん、気をつけて、誰かに凄く見られてる」
ミーコがオレにそっと伝えた。
アンナとレイラもオレの顔を見て小さく頷いた後、周囲を警戒している。
闘技場の出場ゲートの影から、マントを翻して消え去る人影が見えた。
強い気配だったが、あんなわかりやすい気配では、スパイはできないだろうな、オレはそんなことを思った。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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