第30話 やってきて当然
岩場の影から、猛然と突進してくる岩水牛。
オレは次元窓から出した渡綱を握って空中に舞い上がると、岩水牛はその下を通り過ぎる。
奴は振り向きざま、足で地面を掻きながら怒り狂っている。
2点の次元窓から一度に氷弾と矢が降り注いだ。
体中に氷弾と矢の雨を浴びた超巨大角牛は苦しみの叫びをあげてのたうち回る。
オレは岩水牛から距離をとって、地面に着地する。
敵である自分の姿を正面に捉えた岩水牛、最後の力を振り絞り猛突進を再開する。
その身体がオレに届く少し前、突然鋭利な石の突き出た土壁が出現、岩水牛は串刺しになって、絶命した。
次元窓の実地テストから一週間が経過。
オレたちは順調に戦闘経験を積み重ね、今では細かい工夫によって空中へ舞い上がることもできるようになった。
さらに色々なアイデアがあるので、追々テストしていこうと思っている。
「やったねおにいちゃん!」
ミーコが岩水牛の亡骸を前に言った。
風魔法を無意識に使っているからかもしれない、命中精度は格段に上がっている。
「この前のより手こずりましたね…… あれだけ氷弾と矢を浴びても、まだ向かってきました」
アンナの氷弾は、撃てる数と射出間隔が増々狭まり、強化されていった。
「……あの、間に合ってよかったです」
レイラは串刺し土壁のタイミングを気にしていた。
彼女の土壁生成の間隔もより狭まってきている。
「おつかれさま、こんなにみんなが上達するとは思ってなかったよ。
きっとまだまだ伸びるんだろうね、ほんと凄い」
オレがそう言うと、三人娘たちはパァーっと明るい顔になった。
既に午後に入って数時間経過していた。
今日はもういいかもしれない、収入的には充分すぎるだろうし。
「今日はこのあたりにしよう、みんな疲れたろ」
「あたし全然へーきだよ、もっとやろうよ!」
「一洸さんと二人がいいなら、私はいけます」
「……あ、あの、みんなに合わせます、私大丈夫です」
疲れを知らない彼女たちだが、それほど疲れることをしてるわけではないので、
無理はないか。
ぶっちゃけ、シューティングゲームを休み休みやっているようなもんだろうし。
実際地面を駆けまわっているオレ自身的には、さっさと風呂に入って休みたいんですけどね。
ギルドの収入は怖いほど順調で、積算ポイントもはね上がり続けていた。
もうヨシュア主任もイリーナも、ここ数日は驚きの顔を見せなくなった。
オレたちならやってきて当然という風で、ギルドでは扱われている。
昨今、一番の収穫は、次元窓の中に杭を打って、渡り綱を結んでミーコからだしてもらうと、まるで天からロープの命綱が下りてきたように使うことができるようになったことかな。
まだまだアイデア次第で、とんでもないことが出来そうな気がしてワクワクしてもいる。
驚きなのは、あの美味かった岩水牛が魔獣扱いだったということ。
極めて凶暴なため養殖飼育は不可、しかし美味で需要はあり過ぎるという状況だったので、オレたち的には有難かった。
一頭討伐による収益率は、他の冒険者の追随を許さなかった。
保管庫を持たない冒険者は、その場で血抜きをして複数人で運ぶしかない。
トン単位の保管庫を持つ冒険者を確保していればいいが、数少ない保管庫を持つ冒険者が、討伐力に優れている場合は極めて稀であるので、パーティの配送役として参加する場合がほとんどである。
その場合でも、積載量の制限でせいぜい一頭ないし二頭が限界、しかも討伐には10人前後が必要なので、効率も悪くなる。
オレたちは4人で五頭以上の討伐は普通、日によっては十頭以上もあり比較にならなくなってしまう。
その後、もう一頭岩水牛を討伐回収し、おれたちはギルドに戻った。
今日は7頭討伐回収。
もしこれで瞬間移動の魔法なりスキルがあったらなら、ほぼ問題は解決するのだが、転移魔法は相当な魔石消費になるとのことなので、一部の貴族や国家機関の要職が移動する場合以外はほとんど使われないそうである。
しかしなんとかなりそうなイメージが、オレにはあった。
岩水牛の討伐料は一頭で60万~80万Gにもなる。
収入が増え、生活安定の目安が立つのは喜ばしいことだが、あまりにも急激な増収はよろしくはないのだろうな。
「おまたせしました、本日のブラザーズさんの報酬は占めて500万Gになります。
それと、一洸さんは、Cランク試験受験資格が発生しました。
ミーコさん、アンナさん、レイラさんは、本日の積算ポイントでEランク昇格です、
おめでとうございます」
それはありがたいことだな。
窓口の職員は、もはやいちいち驚愕の表情は上げずにそう言った。
だが、オレはちょっと困ったことになるかも。
「受験資格は、……その保留というかいつでもいいんですよね?」
「ええ、自分が万全の状態を整えた時いつでも結構ですよ」
「今日は一人頭125万Gだ、みんなよくやったね
それと、ミーコ、アンナ、レイラ、Eランクにアップおめでとう」
オレはカウンターの脇で、アンナとレイラに報酬をその場で渡した。
アンナは、最初ほど驚愕しなくはなっているが、それでも積み上げた金貨の山を凝視し続けている。
「私、ここ数日で予定した2年分の収入を超えてしまいました……
誰かと出会っただけで、人生がここまで急激に変わるもんなんでしょうか。
正直まだ夢を見てるみたいです」
アンナはオレから金貨の山を受け取ると、そんなことを言っていた。
「……あ、あの、わたし、まだ現実感がないんです。
今も、これきっと夢なんだろうって……
よくわかりません、こんな凄いこと、想像できませんでした」
レイラはうつむいたまま、夢なら覚めないでほしい、と願っているようだった。
アンナとレイラはそれを恐る恐る袋に入れると、預金カウンターに行って、ギルドカード預金していた。
ミーコはオレに預けているので、そのまま保管域にしまうだけである。
しかし、金銭は人を変える。
金を持つのは勿論悪い事ではないが、使う人の心がそれを悪しきものにしてしまう。
自分も気をつけねば、オレはそう思っていた。
馬酔木館に帰る前に、例の衣料品雑貨店に寄った。
必需品を買い足しに付き合う。
娘たち3人はそれは楽しそうに買い物をしている。
ネコ耳ウサ耳の超絶美少女が3人だと、先の件がまた発生するとも限らないので、くれぐれも注意して同行した。
アンナの必要なものを必要なだけ買う姿勢は、ミーコやレイラにも影響を与えているらしく、しっかり学んでいるようである。
もともと親御さんが常識人であったのだろう、二人は決して散財に勤しむ様子も見せなかったので、オレは少し安心していた。
オレもブーツとボトムにベルト、シャツをいくつか買った。
着合わせした自分は、どこから見ても全身冒険者である。
「おにいちゃんかっこいいい! いつものより似合ってるかも!」
ミーコは喜んでいたが、アンナとレイラは、しばらくオレのことを見ていた。
どんな思いなのかはオレにはわからない。
そろそろ拠点のことを考えるか。
独り言のように呟いた。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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