第28話 全能力闘技会のお知らせ
採取場所についた。
今日も鹿の子供が2頭いたが、相変わらずこちらを一瞥して食事に集中しているようだ。
「ね、あれかわいいよね!」
ミーコがそう言うと、レイラが頷いていた。
アンナはちょっと警戒しているようだ。
「あれは子供ですけど…… 親、特に雄の成獣は危険な場合があります。
村でも、子供がいる場合は必ず親が近くにいるので気をつけるよう言われてました」
そうなのか。
鹿といえば、奈良の公園にいるのどかなイメージしかないが、用心しておこう。
ミーコと同じく、アンナもレイラもキノコの判別が出来るようで、頼もしい限りだった。
わからないのは自分だけなのが悲しかったが、キノコの判別は大分できるようになってきている。
今日も何事もなかったようで、ほっとした。
ギルドにつくと、ちょっとした人だかりが出来ていた。
全能力闘技会。
この間聞いたあれだった。
詳細を見てみると、パーティ単位での参加可能、自軍対相手で、とにかく勝利すればいいとのこと。
今年はこのフーガにて開催で、Eランクから出場可能、結果のみ評価。
怪我の場合は、治癒術師によってその場で治療、死亡の場合もあるが自己責任で、ギルドは責任を負わず。
ちょっと厳しい内容だな。
空中に出現させる空間窓から正確に的に向かって攻撃する。
これが手練れ達相手にどこまで通用するのか。
一切の制限はないということなので、空間窓からの落石攻撃や、その他工夫によるものでも問題はないようだ
但し、心情的にこれはチートというより、卑怯な手なのではと思うところもあった。
魔物を狩る場合とは違い、闘技会という技を競い合う場においては、空間窓攻撃は間違いなくチートである。
批判対策もそうだが、保管域を秘匿しながらの出場は難しいか。
仮に透明になる魔法を使ってます、などと誤魔化すことは…… 多分無理だな。
冒険者の武闘会、異世界ラノベの鉄板だったが、この保管域を自分が工夫した応用でどこまでやれるのか、試してみたい気持ちはある。
夢でネフィラに相談してみよう。
本日の報酬は、全部で2万2千Gになった。
4人でかなり採ったと思ったが、Fランクの仕事だとこんなものか。
オレは、三人に報酬はその都度4等分山分けにするよう提案した。
アンナが、オレの権能に頼ることが多いので、オレが多めに取るようにと言われるが、面倒なので4等分でいいと決定した。
説明がなかったが、ギルドは銀行機能も兼ねていて、冒険者カードにより報酬をそのまま積み立て、引き出しも自由であることがわかった。
ただし、使っている人はあまりなく、そのまま現金で受け取り使っているとのこと。
オレの場合は入れてしまえばいいだけだから問題ないのだが、彼女たちは利用すべきだろう。
アンナはこの機能を大変評価していた。
馬酔木館に戻り、夕食と風呂の後に寛いでいると、ミーコが部屋にやって来た。
彼女はおれの背後から抱き着いてきて、
「ねぇおにいちゃん、一人で寝て寂しくなーい?」
「大丈夫だよ、心配ありがとう」
「あたし、一緒に寝てあげようか?」
「ミーコ、寂しくなったらお願いするから、今は大丈夫」
ミーコはちょっとつまらなそうにしていたが、また肩マッサージを始めた。
「こってるから、寝てみなよ!」
ミーコはオレをそのままベッドにうつぶせに押し倒すと、強引に馬乗りになる。
オレの身体はミーコのなすがまま、いいように揉みほぐされていった。
ん?
そうか、寝てしまったのか。
ネフィラがオレの顔をじっと見ていた。
「……一洸さん」
「こんばんはネフィラさん」
オレがそう言うと、彼女は微笑みながら話し始めた。
「保管域の使い方、だいぶ解かってきたみたいね」
彼女はやはり、おれの昼間の活動をすべて見ているという事なんだろうな。
気をつけよう。
「この権能“保管域”、これは空間魔法の最上級レベルのもので勇者の権能なの。
普通のいわゆる“保管庫”とは全く別次元のものよ」
オレはそれまでの知見で、これがとんでもないものだということは解かっていたが、やはりこの世界の常識でもチートオブチートなのか。
「この保管域の中に入れたものの時間経過はないわ。
というより、権能者であるあなたが自在に制御できるものなの」
やはりね。
「それに、この次元窓の向こう側は、一つの世界といっても過言ではないわ。
完全に現世と隔絶された世界。
容量の制限もないの」
空間窓ではなく“次元窓”というのか。
時間経過せず、容量制限のない入れ物……
勇者というより、神の力だろこれ。
あまりの途方もなさに、オレは固まった。
ネフィラは続けた。
「ミーコちゃんがあなたの保管域に入っていたでしょう?
もちろん生きているし、中に入っている限り歳はとらない、死ぬこともないわ。
食事も排泄も不要。意識と魂の活動はありながら、代謝と老化が止まった世界ね。
それはあなた自身が入った場合でも同じなの」
「俺自身は入れないみたいですよ、以前そうしようとしたときには無理でした」
「もちろんそのままでは無理よ、ある魔法と一緒に行使された時に可能になるの」
ネフィラはオレのステータスボードを見ているようだった。
彼女は杖を一振りすると、まばゆい光の波が覆って、その後にもう一人のネフィラが表れる。
オレは何も言わずに佇むしかなかった。
「これは“魂紋柱”というの。魂の複製を作成する魔法で、保管域に自分が入る場合に不可欠な補完魔法なのよ」
もう一人のネフィラは、元そこにあったネフィラの魂と同様にオレに微笑みかけた。
「この複製は、私と同じ考えと目的を持っているわ、だからあなた自身が保管域に入った時に、この魂紋柱がこちらの世界から次元窓を開けてあなたを出して、あなた自身が外で仕事をさせたいときに魂紋柱を入れることもできるわ」
理にかなった現象とその説明にオレはすぐ理解した。
これは、まさに“精神と時の…”と同じように使えるのか。
「つまり俺自身がこの中に入って、時間経過を止めるなり遅くするなりしても、
外界の時間経過はなく…… 例えば千年くらいこの中で修行することも可能だと?」
ネフィラは満面の笑みを浮かべていった。
「その通りよ! さすが私が見込んだ男ね一洸さん、理解が早くて助かるわ」
いや、前世界のアニメ知識なんで、全く自分の理解力ではないんだが。
「ただし、この補完魔法“魂紋柱"は発動時間に制限があるわ、おおよそ現世時間で7日間なの」
現世世界の時間が7日間であっても、保管域内の時間経過とは関係ないはず。
つまり、とりあえずは現世世界時間で7日間しか電池が持たないので、切れる時間に合わせて一端出なければいけないということか。
もし、保管域内から時間制御ができるなら、それも関係ないということになる。
域内から現世世界の時間経過を止めてしまえば、電池時間は考慮不要だな。
ネフィラは、再び杖を一振りする。
すると、小さな魔法陣が空間に現れた。
「これをあなたに上げるわ、触れてみて」
おれはネフィラに言われるまま、その浮かんでいる魔法陣に手を触れた。
魔法陣はスッと消えた。
「魂紋柱を発現する魔術よ、柱を出したいときにイメージするの。
ただしこれは魔術で、あなた自身の魔素を使うことになるから、少し疲れるけど憶えてみてね」
オレは“魂紋柱”をイメージしてみるが、何も現れなかった。
「もっと強く、はっきりとイメージして。そうね、今あなたに授けたこの記憶そのものを思い出すように」
オレは、ネフィラの顔と魔法陣を強くイメージしてみた。
それは靄のような影が実体化して出てきた、もう一人のオレ。
そいつ自身も驚いているようで、自分の身体を確認している。
「あなたのその時点での記憶や考え方をそのまま引き継いでいるのよ、これもあなた自身」
ネフィラはオレの魂紋柱に手を触れて見つめていた。
もう一人のオレはちょっと照れたようにしている。
魂をコピーされた自分の分身体で、幽霊に近いが実体感はあった。
アイテムボックスに自分が入る場合、代わりに外でアイテムボックスを管理するもの。
これは慎重に扱う必要があるな、と様々に予想される事態が頭を巡った。
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