第27話 きみたちに明かす秘密
採取場所への道がてら、彼女たちに話しはじめた。
「実は、オレは保管庫持ちなんだ。かなり大きいものを入れられる」
アンナとレイラは一言も洩らすものか、といった目でオレの口の動きを捉えている。
「……保管庫、以前村に行商に来てたおじさんが持ってました。
いつも軽装でくるので不思議だな、と思ってた」
アンナもレイラも、その魔法アイテムの存在は知っていたようだ。
河原にさしかかり、オレは手ごろな10トンほどの巨石を彼女たちの前で収納した。
「「「 ! 」」」
しばし呆然とする彼女たちの少し先で、その巨石を10メートル上の何もない空間から落として見せた。
巨石は地鳴りを伴って地面に落ち着く。
説明しながら見せるのは初めてだったからか、珍しくミーコも黙っている。
彼女たちが声を発するのに、しばらく時間がかかった。
「……これは、あの商人のおじさんが持ってた保管庫とは違うと思います。
そんな離れたところから入れた物を落とせるとか、私初めて知りました。
一洸さんて…… 何なんですか?」
アンナはたどたどしく語った。
この世界の常識でも規格外だということか。
ヨシュア主任には、手元からの操作しか見せていない、それであの驚きようである。
やはり全容は仲間内だけにとどめて明かさない方針が無難だろう、いや、明かした途端色々終わる。
おれは仲間としての彼女たちには、この権能の力の部分だけ明かし、異世界人だという出自は伏せておくことにした。
「オレとミーコは、ある事情があって遠い国から来たんだ。
旅の途中、ミーコにはこの保管庫の中に入ってもらってた」
アンナは小さく頷いていた。
理解してくれたのだろう、それが最も安全だということを。
「なんとなくわかります、危険が迫った時は、私たちが一洸さんの保管庫に入ってしまえば、回避のための負担は少なくなりますね」
「その通りだよ」
オレは保管域の入り口を開けてみた。
外側からでは、まるで雲のような靄で覆われた入り口があるだけで、中を伺うことはできない。
「あたしから入るね、アンナちゃんもレイラちゃんも大丈夫だよ、あたしここからでてきたんだし!」
ミーコはさっさと中に入ってくれた。
アンナは入る前にオレの顔を見たが、ほとんどためらわずに中に入る。
レイラもアンナのトップスの裾を掴むように、引き続き入っていく。
おれはふと考えた。
彼女たちの意思で、ここを出ることはできるのだろうか。
しばらく経ったが、出てくる様子はなかった。
ボードを開けると、ミーコ、アンナ、レイラ、プルの表示。
オレは入り口を開けてみた。
まだ出てこない。
手を入れると、すぐ掴まれたので、引くとミーコが出てきた。
続けて手を入れると、アンナとレイラ。
「大丈夫だった?」
「大丈夫でした、中は…… なんていうか、明るいところなんだけど、すごく広大て、どこまであるかわからないくらい遠くまであるように感じました。
寒くもなく、暑くもなく、ちょうどいい具合。多分、眠くなりますね」
広い、それも地平線がかすむほどに。
初めて見る光景だったのだろう、アンナは目をしばたいてた。
こうやって、第三者から保管域の内容を聞くのは初めてだ。
「おにいちゃんの荷物があったよ、まとめて積んであった。
少し離れたところに、大きい石もたくさん置いてあった!」
そうだろうな。
「自分で出られるようにはなってなかったのかな?
おれが手をいれないと、でられない?」
「自分から出ようにも、なにもないのでどうしようもないと思います……
一洸さんの手だってわかったから、ミーコちゃんが掴んでました」
オレ自身が入った場合は、誰かが引き出さないと無理なわけか。
それは入れないわけだ。
その場合、保管域からでることは不可能……
ちょっと怖い気がした。
彼女たちを収納したまま、死ぬわけにはいかないな。
責任重大過ぎる。
「遠くに獣や、鳥とか、生き物なんかも全く見られなかったんだね?」
「いなかったよ!」
ミーコが言うので、そうなのだろう。
もし動くものがいたら、必ず反応してたろうし。
「ちょっと試したいことがあるんだ」
オレはミーコに弓を射って、アンナには氷弾を撃ってもらい、レイラには土壁をつくってもらうべく説明する。
少し離れたところにある、大きな岩を指した。
「あの岩を的にする」
君たちの前に、おそらく窓が開く。
そこから見える的を撃ってほしい、レイラは的の前に土壁を作ってみてほしいと。
彼女たちに、再び保管域に入ってもらうと、空間ポイントを見つめてまずミーコを強く思った。
すると、空間の窓が開き、そこから弓矢が飛び出す。
別のポイントから同じようにアンナを思うと、そこから氷弾が出て的に当たる。
レイラの場合は、岩の前に土壁が生えるように出現。
予想通り、空間の窓はその子たちをイメージすると彼女たちの前に発生してくれるらしい。
オレは彼女たちを保管域からだした。
「これ、すごくおもしろい!
窓がぱっと開いて、そこから的に向かって射るからすごく簡単だよ!」
「窓から見える的は、とても放ちやすい位置にあるので楽です」
「……壁、上手くできましたか?」
オレは彼女たちを前に、かなりいい表情で話せたと思う。
ミーコ、アンナ、レイラは、自分たちが何をすべきなのか理解したようだ。
「この保管庫の中にいる限りきみたちは安全だし、中から攻撃してくれるだけで、ある程度の相手は倒せると思う。
みんなが怪我しないのが第一だし、オレも安心して獲物や敵に立ち向かえるよ」
「これは、オレがきみたちに明かす秘密だ。
みんなが持ってる秘密と同じように、世間に明かしても恐らく幸せにはならないと思う。
オレたちパーティの守るべきものとして、憶えておいてほしい」
三人が一様に頷いてくれた。
オレたちは、そのまま採取場所を目指して歩いた。
あとは携帯電話だな。
つまり、魔通石の確保だ。
まだ試していないのでわからないが、保管域内の彼女達と通話ができるのなら、
ちょっとチートすぎる体制かもしれない。
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