第26話 パーティの秘密
「ねえおにいちゃん、ハーフってなに?」
オレの肩をマッサージしてくれているミーコが聞いてきた。
女の子三人の桃色なバスタイムの後、彼女はオレの部屋にきていた。
ハーフ?
「言われたのかい?」
「うん…… あたしって、アンナちゃんたちより、人間の度合いが強いんだって。
お風呂の時、なんていうか、毛の濃さとかちょっと違うみたい。
悪い奴に捕まってる時も、すぐに言われたの」
なるほど。
同族のことは同族に聞けか。
服を着た上では全くわからないが、同じキャティアであるアンナには、ミーコの微妙な特徴が自分たちのそれとは違うと初見で見抜いたわけだな。
いずれにしろ、オレにはわからないことだ。
「ミーコはさ、オレと暮らしてるときは普通のネコだったんだよ。
どうして人間になって出てきたのか、オレにはさっぱりわからない。
でも、人間に近いならそれはそれでいいんじゃないか」
後ろにいるミーコの表情はわからないが、
何かを思っている様子は、手の力具合から伝わってくる。
「おにいちゃんに近いってことだよね!」
ミーコはその後も力強く肩のマッサージを続けてくれた。
翌朝、新規登録2名とパーティ登録を申請するため、4人でギルドに行く。
昨夜は久々に一人でゆっくりと眠れたので気分爽快、朝食の美味さもひと際違った。
しばらく続いてくれることを祈るしかない。
本日の登録担当も、イリーナだった。
「一洸さん、昨日は大変でしたね…… 詳細は守られていますから、安心してください」
イリーナは、わざわざ知らせてくれた。
「助かります。
彼女たち、オレたちと冒険者業務を始めることになりました。
本日、登録よろしくお願いします」
最初はアンナだ。
「アンナさん、適性は氷です。魔素量は、かなりの上位ですね」
アンナを見ると、やっぱりという顔だった。
魔法は使ったことがあると見た方がいいか。
「レイラさん、適性は土です。魔素量は…… アンナさんほどではないですが、上位です」
「お二人ともこの数値ですと、体内魔素量より使用される魔法は武器レベルになりますので、使う場合は十分に注意してください」
ミーコの時も言われたな、お取り扱い注意って。
オレは何も言われなかったので…… まぁいい。
署名後、ギルドカードが発行される。
同時に、パーティメンバーの追加登録も行った。
メンバー登録の時に見たが、アンナは18歳、レイラは17歳だった。
どう見てもミーコと同じくらいだが、ミーコは13歳。
次の夢でネフィラに聞いてみようと思った。
イリーナの説明が終わり、オレたちは掲示板で仕事募集を見ていた。
「最初はアカキイチゴやヤマキノコの採集をやろう。
問題なさそうだけど、その途中で魔獣に出くわすことが多いみたいだからさ。
オレとミーコも、最初の仕事でオークに出くわしたんだ」
「オークなら…… 私たちの村にも、たまに出ました。
昔はさらわれた人がいたみたいだけど、今は自警団や冒険者が警備しているから、
被害に遭うことはほとんどなくなってます。
それで、倒したんですか?」
「かろうじてね」
「凄い…… オークって、村の人や自警団の人が何人もかかって、やっと一匹倒せるくらいなのに」
ミーコは喋りたくてうずうずしているみたいだったが、黙っている。
よしよし、とってもいい子だぞ。
「その辺りも説明しながらやっていこう。
まず装備だけど、二人が自分で必要なものって、それぞれ違うはずだから、
仕事をしながら整えていくのがいいと思う。
最低限必要なものとして、ナイフもしくは剣、必要によって弓とかかな。
弓は突然襲われた時反撃には向かないし、刃物も奪われたら元も子もないから、
人によって使う武器が違ってくると思う」
アンナもレイラも、考えているようだ。
町に出稼ぎにきた10代の女の子が、化け物と戦いながらキノコ採集するイメージがわかないのだろう。
無理もない。
「あ、あの…… わたし、実は魔法、少しだけ、使えます……」
珍しくレイラが喋った。
思えば彼女の声をしっかりと聞いたのは、これが初めてかもしれない。
食事の時に聞いたのは、アンナと重なっていたからな。
「適性は、確か“土”だったよね。どんな魔法を使えるの?」
「……壁を、作れます」
“土壁”か。
オレはしばらく考えたが、これはいいかもしれない、とまた思いついた。
「あ、あと…… 窯とか、家の壁も、作れます」
「すごいね、村で引っ張りだこだったんじゃない?」
「あ、お父さんが…… 人に言ってはいけないって、言われました。
なので…… 初めて言います」
よくできた親御さんだな、それで間違いないと思う。
あらためてレイラを見たが、うつむきがちに赤くなっている。
ミーコに勝るとも劣らない色の白さなので、すごく目立ってしまう。
この子も人見知りが極端に強いようだ、気をつけよう。
「ありがとうレイラ、秘密はこのパーティの中で守るからね」
レイラは少し顔を上げ、微笑んだ。
それにしても、なんと凄まじい美しさ。
地球の街中を歩くことがあれば、スカウトされ続けて買い物もできないことだろう。
武器屋に向かった。
研ぎに出していた剣の回収と、この二人に護身用の刃物を用意しなければならない。
番頭のカーラはいなかった。
「よぉ、出来てるぞ」
奥からアロルドが髭を触りながら出てきた。
預けた剣は柄を交換され、見違えるように美しく、妖しい光を放っていた。
オレは礼を言ってそれを受け取りがてら、
「この二人に見合う刃物を選んでもらいたいんです」
アロルドはあご髭に手をあてながら、アンナとレイラをしげしげと眺めた。
「お嬢さんたちは、何が得意だったのかな。
狩りでもなんでもいい、身体を使ったり、戦ったり、
今まで色んなことがあったはずだ」
アロルドは、二人の身長に合うであろう剣、マチェーテ、レイピア、ナイフを
選んで広げてくれた。
ミーコがやけに嬉しそうにオレの顔を見ている。
またなにか突拍子もないことを言い出すのだろうか。
「おにいちゃん、あたしね、風魔法の練習したんだよ!」
魔法の練習?
いったいいつそんなことをする時間があったのだろうか?
「ギルドの宿泊所で、夜通し魔法の話を三人でしてました。
どうやったら魔法を使えるのかミーコちゃんに聞かれて……
私はほとんど意識して使ったことがないので、常識のレベルでしか説明できませんでしたけど、ミーコちゃんはすぐ使えるようになりました」
レイラがそう話した。
確かに魔素量はかなり上位だと言われてたし、目の下の隈はそういう理由だったわけか。
ミーコが魔法……
「ミーコは風魔法だったよな?」
「うん! おにいちゃん、この間の弓矢出して!」
オレは弓矢をボックスから出してミーコに渡した。
ミーコは、的台のある中庭を使っていいかアロルドに聞いた。
アロルドは頷いて、ミーコが弓の試し射ちをした中庭の的台にオレたちを通した。
ミーコがあっという間に弓を構えて的台に弓矢を連続して射ると、すべて的の中心に刺さった。
え?
「……この間、カーラさんの前でやっただけだよな」
「風で弓を的に当たるようにしたの! だから、絶対に外さないよ!」
そう言って、ミーコは連続して弓を弾きはじめたが、全て中心に刺さった。
オレはしばし言葉を失った。
アンナが思いつめた張りを破るかのように、オレに話し出した。
「……あの、実は私も、魔法使えるんです。
でも以前、子供の頃ですが兄を怪我させてしまって、それ以来使ってません」
「氷魔法…… だよね」
アンナは深呼吸をしていた。
余程思うところがあったのだろう、それを行使することに、彼女の中で大きな葛藤があるようだった。
「上手くいくかわかりませんけど…… やります」
アンナは手の平を的に向けた。
氷の棒状の物質が、的に向けて一斉射出され、的は細い氷で串刺しになった。
「すごーーい、アンナちゃん、すごいよっ!!」
ミーコが飛び跳ねて大はしゃぎしている。
オレは、思わず唖然としてしまった。
なるほど、これで怪我で済んだのなら、運がよかったのだろう。
しかし、何故捕らわれた時に使わなかったのか。
「怖かったんです…… たとえ悪人でも、もし死んでしまったら、私……
それに、加減がわからないんです。近くからやると、多分大怪我か……
お兄ちゃんが怪我してから、ずっと怖くてできなかった……」
オレは手を広げたまま、うるうるし始めたアンナの手を握った。
そして、レイラを見て。
「これはオレたち4人のパーティの秘密だ、みんなで守ろう」
アンナとレイラ、そしてミーコがその手に手を重ねてきた。
アロルドはニヤリとしてそれを見ている。
気づいたレイラがアロルドを見上げた。
「オレは大丈夫、客の秘密を守るのが商売だからね」
そう言って、ウィンクまでサービスした。
このオヤジはそんなこともできるのか。
オレはちょっと悔しかった。
「……あ、わたしは、これでいいです」
レイラが選んだのは、刃渡りの短いナイフだった。
アンナは、刃物の代わりに、籠手状のグローブを選んでもらう。
手が氷のナイフの代わりになり、籠手の上からでも切れるらしい。
「今日はいくらになりますか」
「籠手とナイフで…… おれからのパーティ結成祝いだ、もらっとけ」
「それはだめです」
「いいんだよ、この間の残金もあるし、大丈夫だ。
ただカーラには黙っててくれよ、絶対な」
オレはアロルドに礼をすると、続けて三人娘は揃って愛嬌たっぷりで礼を言った。
彼はことのほか機嫌がよさそうだ。
ひょっとして、地球でいうただのスケベおやじなのではないか。
まぁいい。
とりあえず、準備第一弾といったところだ。
いずれにしろ、危険回避のファーストステップはオレのボックスに入ること。
では説明を始めるとするか。
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