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ネコバレで追い出されたら異世界召喚、貰った権能はアイテムボックス無限大でした ~ワクチン人口削減計画が成功した世界線、可能性の未来~  作者: 凱月 馨士
エピローグ

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第253話 新しい季節

 開放は順調に進んでいた。


 プルートニアに置かれた開放機構本部は、矢面に立つのが魔元帥のオレただ一人であり、全ての抗う力がここに集中してくれた方が都合がよかったからだ。



 バトラーを中心としたの軍事力を維持したまま、この世界の膿が掃われてくれるなら言うことはない。


 各国の保安組織は、それぞれ形態が異なっていたが、ゴーテナスのような保安部隊が“M”に全面協力し、よく動いてくれている。



 自分たちの生活を脅かしていたものはなにか。

 一番知っているのは、抑えつけられてきた一般市民であり、虐げられてきた一部の種族や貧しい人たちだ。


 保安部隊や善意の魔法使いが中心となって動き、彼らの後ろにラウンドバトラーが飛ぶ姿から敵の存在は明確になり、事は自ずと進んでくれた。



 ラウンドバトラーを機構直属の軍事力として動かし、全ての責任を魔界の魔元帥が負う。


 この構図で間違いはなかったようだ。



    ◇     ◇     ◇



「バルバルス様、この後も予定が入っております……

バル、バルバルス様!」



 筆頭魔神将バラムから、まるで逃げるように魔界中央政庁府から足早に歩みをすすめる大魔王バルバルス。



 大魔王復活の宣告から数か月、ほとんど休む間もなく、彼は内政の補完・整備に奔走させられていた。


 これでは本末転倒である。

 何のために守護者の間から出て、この世界に復活したのか……



 魔界の主権を魔元帥に押し付け、バルバルスは逃げ出したかった。


 自分が何故、あの邪魔されない次元空間に長く居続けられたのか、今更ながら思い知らされているようだ。



“一洸…… 一洸、今忙しいかい?”



 コミュニケーターに話しかけるバルバルスは、バラムから逃げるため、さらに足を速める。


 この魔界でバルバルスの逃げ場はない。

 それを何よりわかっている大魔王であった。



 あの静かな時間……

 悠久の時の流れが支配する世界に、私は帰りたい……



    ◇     ◇     ◇



 元々私は人間だった。


 元来持っていた遺伝形質のグループに分かれた時、ぼくはそこにいるのが当たり前に感じられなかったのは事実だ。



 あの時点で、私にはそれ以外の選択肢がなかった。


 ヒトの形質を捨て、理を捨て、精神を機械に移してからは、決して死ぬことのない、無限にも近い時間を得た。


 長い、長い時間経過の中で、私が何を考えていたかは、以前少しだけ話したと思うが……



 人間だったころのことだ。


 私は生まれた時分から身体が弱く、他の子どもたちのように走り回って遊ぶようなことが出きなかった。


 その代わりに、音楽や、文学が友となって、私を空想の世界に誘ってくれた。



 ネクスターナルの一部となって長い時間を生きた私は、私の頭の中を駆け巡るのは、自由に駆け回れることのなかった、人間として生きた時間だった。



 ネクスターナルを形成する魂のほとんどが、元々の人類の遺伝子よりも、異星人の形質を多く受け継いでいる者たちがほとんどだ。


 だがそれでも懐かしんで、思いを巡らして、時に涙を誘うのは…… 人間だったころの自分の生活、愛すべき存在と共に過ごした時間だったのだ。



 彼らは決して口にはださなかったし、それは統合規範にも禁じられている事だった。


“我々は人間ではない、超越した人種であり、弱き人類の残存を、全て招き入れることが目的”



 自分を語ることのない彼らの多くが、私のような道を選択する可能性は大きい。


 そんな彼らの窓口として、私は自分の役割を立てたい。


 そのためにも、私は人間に戻った姿を、生きている様子を、彼らに示そうと思う。






 オレはアールの中にいた。


 傍らにはミーコ、ネフィラ、アンナにレイラ…… そして、分化したもう一人のオレ。



 オレたち二人は、アールの復活させるプロセスにて、作業を分担した。


 オレAは、アールから受け取った過去のイメージをホログラムのように明確に具象化し、オレBがそこに丁寧に受肉させる……



 何せ、全く姿かたちのない状態からの人体受肉生成である。



「こんな感じでいいかな」



 オレBが受け取ったイメージ通りのホログラムを表出させている。



「じゃ、いくよ…… アール、オレの身体を通してここに出現するんだ。

君自身が“ここに入る”意思を強く持ってくれ」



“……わかった、よろしく頼む”



 オレは自分の分身を創る時の要領で魂の導線に徹し、アールのイメージに受肉させた。


 眩い光…… 誰も目を開けていない。



 アールの中にある薄暗い走査線が走る虚数空間の間は今、眩い光に満ちていた。






 その存在は今、静かに目を開けようとしている。


 ミーコがオレAの手にしがみつきながら、恐らくはもう二度と見ることはないであろう光景を目に焼き付けていた。



「……」


 その存在は、ゆっくりと肩ひじをついて起き上がる。



「お帰り…… アール」


 そういったのは、傍らにネフィラがいるオレBだ。



 彼は…… 見たところ恐らくは10代の少年だった。


 アールから受け取ったイメージは、彼が機械に精神を移植する寸前のもの。

 大人のそれを予想していたオレは少々面食らったが、そのまま思いの通り受肉してくれたようだ。


 ネフィラがアールに近づき、そっと手を握る。

 彼女の表情から全てが上手くいったことを、オレとオレは理解した。



「アールっ!」


 ミーコが元気に抱き着いている。

 アールは数百年ぶりの女の子の体温を感じて、まんざらでもないようだった。



    ◇     ◇     ◇



 ふと窓の外を見ると、遠くに微かに見えるフーガの森。


 ぼくは書いている手記の筆を止めて、肩の強張りを手で揉み解す。


 よく一洸がこうやっていたな。

 彼らの物語、自分で読んでいてつい夢中になってしまう。



 バトラーの戦闘が落ち着いてまだ日が浅いが、大規模掃討戦はもうないだろう。


 イリーナはそのまま解放機構に残って、ゴーテナスで一洸との調整役を頼まれている。



 彼女がギルドに戻ることはないだろうな。


 次の呼び出しまでどのくらいの時間があるかわからないが、とにかく書けるだけかいておこう。



 まだまだ、この物語は続きそうだ。



    ◇     ◇     ◇



 火焔が押し返してくる熱気圧が、モニターの画像を歪めた。

 容赦なく焼き尽くしてるのね、サーラ。



“アイラさん、もう大丈夫。

この先には…… 敵性生存者はいないわ”


 サーラがコミュニケーターで伝えてくる。

 肺を満たしていた空気が抜け、張りつめていた気持ちも緩んだ。



 ここが、恐らくは今まで処理した中で最も大きな拠点だったわ。

 あともう少しね……



 姉様、どうしてるだろう……

 あの人、姉様の重い気持ち、受け止められるのかな……


 姉様が必死になって自分の“重さ”を抑えているのが、痛いほどわかった。

 大丈夫よ姉様、一洸さん、あなたが考えているよりずっと大人だから。


 わたしも見つけないと。



 これが終わったら、そうね。

 そんなに悪い世の中じゃなくなる、今までとはまるで違う世界になるんだから。




 願望希望じゃなく、この胸の奥にある深い部分が、そう感じさせてくれてる。


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