第25話 とりあえず“ブラザーズ(仮)” として
馬酔木館の3人部屋のベッド3台は、ミーコ、アンナ、レイラの3人に占拠され、
静かな寝息を生み出す下地として、しっかり責務を果たしていた。
オレは彼女たちの寝顔を確認すると、静かに扉を閉じる。
鍵は扉を閉めると自動で下りてくれるようで、その辺りも地球と変わらなかった。
昨夜、ほとんど眠っていないのは一目でわかったが、特にアンナとレイラが感じたストレスと疲労は尋常ではないだろう。
眠れ、とにかく休んでくれ。
オレは心の底からそう思っていた。
ジュリアは、突然の4人の来訪に嫌な顔ひとつせず部屋を2つ用意してくれた。
一緒の部屋だと自分の疲労で崩壊しそうになるな、悪い予想が当たらなくてよかったとオレは独り言ちた。
久しぶりの一人の空間、そしておそらく一人の入浴時間、何日ぶりだろうか。
夕食までの貴重なひととき、オレは泥のように眠った。
今願うことはただひとつ、お願いだから静かにしててくれ、ミーコ。
ん?
目が醒めた……
いや、違うな。
横を向くと、ネフィラがいた。
「お疲れさま、一洸さん」
「……ネフィラさん、あの、ありがとうございました、お陰様で」
ネフィラはオレの手にやさしく触れて、頷いた。
彼女の手はひんやりとしていながら、その奥に熱いものを秘めたような、独特の触感。
「本当に大したものよ、あなたやるわね!」
ネフィラは楽しそうだった。まるで教師が出来のいい生徒を褒めるように、満面の笑顔でオレを見つめている。
「魔法って凄いですね。ギルドの適性検査では、オレには魔素がほとんどないって言われたんですけど、魔法使いや魔導士の人たちは自由に魔法が使えて……
羨ましいです」
オレは思っていることを正直に伝えた。
彼女が一時的にかけた“魂飛影”の力があってこそ導かれた結果であっただけに、その力への畏敬は本心であり、それを知らしめた彼女への感謝もまた同じであった。
「そう思うわよね……
でも、魔法は万能じゃないの。充分な魔素の供給量があって、はじめて成り立つものなの。今回はあなたの体内にある魔素を使わずに、大気中に漂っているそれを用いました。私はこの状態なので制御できる魔素には限りがあるけれど、それでもあなたは魔法を使って成し遂げたのよ、自信をもっていいわ!」
ネフィラはオレの手を両手で包むと、そのまま自分の胸に押し当てた。
オレは自分の手がちょっと羨ましかった。
「あー、生きているうちに、もっともっとあなたに逢っておきたかった!
あなたになら、私が学んだ全てを喜んで伝えたのに、なんて冷たい運命でしょう!」
ネフィラはオレの手を頬にあて、悲しい面持ちになったが、本心から悲しんではいないのが、口元からこぼれる笑みでわかる。
この人も大変な思いをしていたんだろう、おれは単純に察した。
「ネフィラさん、あの……」
そこで目が醒めた。
ミーコが静かにオレを強請っていた、いや揺すっていた。
「……おにいちゃん、ご飯だよ」
三人の娘たちは、オレの顔を心配そうにのぞき込んでいる。
昨今の自分の生活からでは全く想像出来得なかった風景に、真面目にたじろいだ。
「ご、ごめんよ、すぐ起きるから」
部屋は鍵をしたはずだが、どうやって開けたんだろう。
ま、いいか。
改めて自分を心配そうに見てくれている3人のとんでもない美少女たちを見上げて、オレは幸せなのか、不幸なのか、今判断はできなかった。
本当に、この子たちはあまりにも絵になりすぎている。
「ジュリアさんに開けてもらったんだよ、おにいちゃん全然来ないから……」
そうだったのか。
深い眠りだったんだろう、ネフィラの胸の感触がありありと手に残っていた。
「手、ケガしたの?」
ミーコは心配そうにオレの手を凝視したが、
「ん、なんでもないよ」
他のテーブルの夕食はもう始まっていた。
おれはジュリアさんにお礼を言うと席について、みんなで食事をはじめる。
アンナとレイラは、ミーコと仲良くなってくれたので、自分的には安心した。
「レイラちゃんはね、料理が得意なんだって!」
レイラは真っ白い肌をほんの少し赤らめて、微笑みながら小さく頷いた。
料理か。
この異世界の料理は馬酔木館だけだったが、作ってもらった場合は、果たしていかがなものだろうか。
少なくとも食べることは好きだし、地球のようなものは食べられないだろうと諦めていた自分にとって、これは楽しみの一つだった。
「あとね、読んだり書いたり、アンナちゃんが教えてくれるって!」
心配していたことの筆頭だった案件だ。
それはなにより。
そこまで話が進んでいてくれたということは…… なるほどそうか。
このアンナという女の子、見た目以上に捉えた方がいいだろうな。
嫌味のない風に話をまとめないと。
「それは助かるよ、本当にいいのかい? ミーコは全く読み書きが出来ないんだけど」
「大丈夫です…… わたし、これだけは得意だったので。あと計算も出来ます。
ミーコちゃんなら、すぐ覚えると思います」
例え口上であったとしても、それは頼もしい。
オレからお願いする形に落ち着けた方がいいだろうな。
それが、この子たちにしてあげられるささやかな配慮だ。
「是非お願いするよ」
「……あの、それで」
「冒険者のことだよね、さっき話した通り、オレとミーコはまだ初めて日が浅い。
危ない目に遭ったのは一回だけだけど、普通に危険と隣り合わせな仕事なんだ。
自分たちがやれるかどうか、冒険者登録してから、しばらく一緒にやってみよう。
それから判断してくれていい」
「「お願いします!」」
見事、同時にアンナとレイラに答えられた。
「では、近づきの記しに、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ミーコがちょっと遅れて、動きをトレースした。
いいよ、その調子だ。
オレたち4人は、とりあえず“ブラザーズ(仮)”として、冒険者業務をすることになった。
今は、もし神様がいるならどうかお手柔らかに、とお願いするしかない。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白い、続きが読みたい!」と思われた方は、
ブックマーク追加、↓評価を頂ければ幸いです。
引き続きお読みいただきますよう、
よろしくお願いいたします!




