第249話 龍神族
「その…… レプティリアンは何故地球に拘ったんだ?
否定的感情を得るためだけだったのか?」
恐らくは、ここにいる皆が持ったであろう疑問をオレは吐き出した。
誰でもいい、答えてくれ…… 今のオレを納得させてくれるなら、どこの誰でもいい。
“爬虫類種族は、元々我々の宇宙…… というか、別の異次元世界からきた存在だったようだ。
数千年周期で太陽系を周っている惑星があり、そこに住むアヌンナキという爬虫類系種族がいた。
彼らは最初火星に目をつけた、“金”が採掘されるからだ”
金だと……
“彼らには必要なものだったようだ、自分たちの世界を維持するためか、他の何かのためか……”
「火星に人間がいた?」
“そうだ、火星には人間が住んでいた。
彼らは火星に住む人たちを金採掘のために隷属、後に起こった戦争で、火星は人の住める星ではなくなってしまい、火星人とともに地球に避難した。
引き続き金を採掘するためにだ”
オレは、血がでてしまうのではと思うほど自分の拳を握りしめる。
やっと、自分が呼吸している存在だったと思い出し、深く呼吸をして熱を吐き出した。
アールは、そんなオレの状態を確認しながら話を続ける。
“アヌンナキたちは、欠かすことなく自分たちの世界へ金を安定供給しなければならなかったようだ。
移動してきた地球には、既に人間が住んでいた。
その人たちは……”
今度はアールが話を止めてしまった。
まるで、エイミーの顔色を伺うような感じだ。
人類の根幹、初めて聞かされる歴史の真実……
「構わないよ…… 覚悟はできてる。
話してくれないか、アール」
「……私が話すわ。
地球には宇宙で最も古い人種、龍神族が住んでいたの。
この宇宙の大いなる源に直系で繋がる存在、龍神種の遺伝子を継いだ人たちよ」
龍神族?
地球に住んでいた、宇宙最古の種族……
聞かされるのはもちろん初めてだが、オレにはまるで既知の事実のような感覚があった。
オレはこれを知っていた……
自分の中にあるなにかが、確かにそう言っている。
「アヌンナキと火星から連れてきた人たちは、龍神族の人たちと当初は上手くやっていたらしいの。
火星からの人たちを使役して各地に文明が作られていき、そこに他の異星人たちもやってくるようになった。
地球には、主に3種類の人間がいたようなの。
アヌンナキによって、人類の素となった火星から連れてきた人たちに遺伝子を掛け合わせて造られた隷属用の人間、さらに彼らを管理するため爬虫類系の血を濃くしたレプティリアン。
もう一つは、元々地球に住んでいた龍神族。
その後、20種以上の外来異星人がやってきて遺伝子のアップデートと混血を続け、私たち地球人類が形成されたわ」
何度聞いても勝手な話だ。
トカゲどもだけじゃない、地球はあらゆる異星人どもの実験場だったわけか。
「火星に住む人たちから行われていた遺伝子の改変…… テレパシーやサイコキネシス、テレポーテーションのような生来の能力を発現しないよう、抑制させられたようなの。
自分たち爬虫類種が人類を隷属し、優越し続けられるように。
その後も、改造された人間と龍神族の混血は進んで、素晴らしい能力は眠らされることになった」
オレは、呼吸するのが面倒になるほど頭に血が上ってしまった。
こんな時、どうすればいいのか……
ふと、ミーコが心の中に浮かんできた。
ミーコ、君なら多分、“なにか美味しいものでも食べよう”って気分転換させてくれたんだろうな。
様々な人種、肌の色、体形、そして精神性……
ヒトといって一括りにすることなど無理がありすぎるとは思っていた。
気になっていた事実、龍神族。
エイミーは、まるで話すべきかどうか迷っているようだ。
「龍神族、聞いたことがあるような気がします……
理由はわかりませんが」
エイミーは、納得したような表情でオレを見つめる。
“そうよ、だって……”
彼女の気持ちが、オレに流れ込んできた。
「……龍神族は古くから日本に住んでいた、龍神種の遺伝子を直系で受け継ぐ人たちで、YAPと呼ばれる遺伝子をもった人種。
地中海地方と中央アジアや北アメリカ、そして日本にも多かったとされるわ。
このYAPは外来種の遺伝子アップデートを受けて尚、YAP遺伝子を継承してきたの」
日本人、それで。
あなたもそうですよね、エイミー少尉。
「エイミーさん、あなたも…… YAPということになりますね」
「そう、そうかも…… YAPは男性にしか引き継がれないみたい。
でも、私にも間違いなく流れてるわね、自分でも感じてる」
日本人が、宇宙最古の種族の血を引く民族だったのか。
だからなんだと言われればそれまでだが、頷けるものは確かにあった。
一部の人種とはあまりにも国民性が違い過ぎるため、摩擦は常にあったし。
“基本的にレプティリアン以外の地球人類は、銀河の先進種族すべての遺伝子を引き継いでいる。
その中でYAPを持つ人たちは、特質すべき太古の種族の能力を継承していた。
銀河連合の異星人たちが地球の開放に尽力した理由は……
自分たち先進種族全ての遺伝子を持ち、さらにその能力を遥に凌駕する、神に最も近い存在の覚醒を待望していたからだ”
オレが…… オレもその力を持っていると。
この世界にやってきて、目覚めさせられた力は確かにあった。
オレにも元々あったのか、魔法の力……
“わたしにも、きみと同じ血が流れているんだ、一洸”
アールは、長い間をあけてオレに言った。
それは初めて聞く彼のルーツ、恐らくは心の奥底にしまっていたであろう、気の遠くなるような時間を超えた真実。
「銀河連合の異星人たちは、龍神族の復活を心から期待してたみたい。
だから地球人類へ、レプティリアンたちの支配からの解放を手伝っていたようよ。
でも…… 人類は覚醒しきることができなかった」
エイミーとアールの話を聞き終えたオレに、バルバルスは話しかけてきた。
「転掃滅、おそらくは古のものにとって初めての経験だったろうが……
きみがもともと持っているポテンシャルがあってこそであったのかもね」
オレの血に流れるYAP遺伝子…… 宇宙最古の龍神種の血がそうさせたと。
古のもの、あの存在も龍神種だったのかも。
「高位知性種、彼らが古のものを“始祖”と呼んでいたことにも繋がるね」
やはりオレは、転移させられるべくしてそうなったわけか。
このタイミング、この状況、誂えられた運命だったと。
「バルバルスさん、あなたにも……」
オレがそういった時、バルバルスは目を背けることはなかったが、何も言わなかった。
「守護者の間の地下にあるアレだが…… 私が離れた状態で、完全に動作し続けるかどうかわからない。
きみに手を引かれて出たが、実は今こうしていてもビクビクしてるのさ。
だが対象である古のものが離れた今も、あの空間が自動的に維持されるのだとしたら……
もう戻る必要はないのかもしれない」
横を向きながら喋っているバルバルスの表情は、はっきりとはわからなかったが、彼が守護者の間に縛られないとすれば、様々な展望も見えてくる。
バラムは少し離れたところに座っているが、オレとバルバルスの会話に気遣って、距離をとってくれている。
彼女がこの事実を最も喜ぶ存在だろう。
「まずバラムさんに…… オレから伝えましょうか?」
「確証がとれたら、私から言うよ。
いずれにしろ、ここと守護者の間の出入りには、きみの権能が必要になるんだ」
この件はバルバルスに、この人の意思に任せよう、オレの心の何かがそう告げたので、話はそれで終わった。
アールとエイミーが語った可能性の未来。
オレが経験したかもしれない、20XX年の世界の現実、その可能性。
だが。
だがもし、もしもあの時代、あの世界に戻れるとしたら、あの地球に帰れるとしたら、同じ世界のポテンシャルを持っていたあの世界へ戻れるのだとしたら……
変えなければならない。
オレは何かをして、あの世界を変えなければならない。
目を醒まして、覚醒して、人類を次の世界へ渡すための力を尽くさなければならない。
今のオレには、その可能性がある。
思いは、世界を変える。
それはここで学んだ、とても大切な事実だ。




