第247話 可能性の未来
“話の公平性を期すために…… エイミー少尉にも協力してもらいたい。
私が話す内容は、地球人類が争うことになった根幹に触れるものになるからだ
一方の側からだけでは、とても全体像を把握するのは難しい……”
オレがアールの船躯へと足を向けていた時のアールが伝えてきた声音は、とても機械が演出できるものではない言葉の重みを感じさせた。
“エイミーさん、今大丈夫ですか?”
“ええ、大丈夫よ”
オレは、立ち止まってエイミーに、オレの時代から起こった出来事への説明を求めるべく願い出る。
予想した通りだが、しばしの沈黙があった。
“……わかったわ、資料を持っていく。
あなたにとって…… 辛いものを見ることになるわよ。
たとえ世界線が違う未来だったとしても”
“もとより、覚悟はできています。
これからの予定にどうしても必要な情報なんです、お願いします”
オレは、それまでエイミーから聞いていた情報を自分の中で整理した。
地球人類は猿から進化したわけではなく、外来異星人によって遺伝子の実験台として寿命まで制限された生命体。
ある種族は奴隷として使役、またある種族は自らの遺伝子を掛け合わせた器として混血、そしてある種族は……
遺伝子による進化の途上でやってきた邪悪な爬虫類種は、既存の異星人たちをも含め、人類の完全支配を達成する。
この種族による進化の抑制と貨幣経済による支配が、その後の人類の命運を決めた。
本来の進化のスピードとしては、もっと早く進んだ科学文明を手にして発展していたということになる。
何かのきっかけがあったのだろうか……
人類の生き様の中で、異星種族たちに弄ばれなければならない理由が。
どうしても、もう一人呼んでおくべき人物がいると思っている。
オレは連邦の旗艦へ次元窓を開ける前に、バルバルスのいる空間へ窓を開けた。
彼は、オレがやってくるのを待ち構えていたかのように、いつもの微笑みで迎えてくれる。
「早かったね…… もうすこし時間がかかると思っていたが。
次の手を進める準備が決まったということか。
そうそう、まずはおつかれさまだったね、君は本当によくやったよ」
大魔王は微笑みから満面の笑みに換えて、オレの死を労ってくれた。
「全てリセットされたようです、魔界で嵌められた腕輪も消えましたし……
本当に一度死んだんだな、と実感してます」
彼はまるで全て見通しているかのようにオレの目を見る。
「今の君なら…… わたしの身体の状態がわかるだろう。
わたしをここから出したい気持ちはわかるが、時空間、次元間移動に耐えられるかどうか、自信がないんだ」
オレはバルバルスを見て、魔法によって永らえてきた寿命が尽きかけているのを知った。
彼はオレへの視線を外さない。
これ以上の命の延長を拒否している言外の意と受け取った。
だが、この話は聞いてもらわなければならない。
少なくともこの大魔王には責任があるはずだ、この世界を裏側から見守ってきた、神の番人としての。
「バルバルスさん…… いえ、大魔王閣下。
オレのいた世界の未来…… オレが経験するはずだった、未だ起こりえていない時間の経過を、その時代を生きた証人から聞こうと思います。
これから変えていく世界のルールのための、必要な情報です。
この世界に責任の一旦を持つものとして…… 御霊分けした状態でない、あなたにも一緒に聞いてもらいたいのです」
バルバルスは観念したように肩の力を抜いた。
「台の上に横になってください…… 眠りから醒めたら、全て終わっています」
オレは、ネフィラにした時と同じように、横たわった彼の身体へ静かに手を充てる。
無限の時間、大魔王バルバルスは望まないだろう。
だがそれでも、彼はとてつもなく長い時間をこの後も紡ぐことになる。
バルバルスへ古のものの命の源を注ぎ続けながら、これからエイミーやアールから聞かされるであろう、容赦のない事実を前に、どこまで正気を保っていられるか自信が持てなかった。
「バルバルス、バルバルス様……」
バラムは、次元窓を開けたオレが手を引いていた人物を前に、完全に乙女になってしまった。
そんな二人の時間を邪魔できるほど、陰キャのオレでも野暮ではない。
オレは素早くバラムが歩み寄るスペースを空け、数百年ぶりの出会いを存分にしてもらった。
なぜだろう、バルバルスの意味不明な視線を背後に感じたが、それはオレの問題ではない、そう思えるのだった。
二人から離れるオレを、ネフィラの微笑みが迎える。
「一洸、あなた、あにさまに恨まれるわよ」
「え? 二人の時間を邪魔しちゃいけないでしょう…… 恨まれるなんて、いやだなぁ」
もっともらしいことを言うオレを、笑顔で返すネフィラ。
こんな時間、しばらくなかったな。
ミーコがこの場所にいたら、きっと空気を壊すような何かをやらかして騒ぎになっていたたろう。
ミーコ……
ミーコを復活させるのは今のオレには簡単だが、この話が終わったら準備しよう。
今のオレには、どのような形にも彼女を受肉させることができる。
元の形であれ、全く別の誰かであれ…… ネコに戻すことさえだ。
オレには予感があった。
まだその時ではないと。
この後、恐らくは何かが自分のなかで生まれ出でて、その結果次第で決めることになる。
新しい能力と予感、自分の中にあるそれを、オレは信じてみることにした。
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