第22話 面倒くさいことになった
エンジン音のない、まるでワゴン車のような乗り物。
どうやって動いているのか興味をそそられたが、今はそれどころではない。
車は建物の中庭に入ってきて止まり、中から男たちが出てきた。
オレはアンナを見たが、彼女は小さく頷く。
拉致業者が詰めていた部屋は、明かりがついたまま開け放たれている。
3人の男たちは、部屋に入ると拉致業者が見当たらないので何か話し合っている。
現場は壊れた木箱が散乱していたが、血が流れていたわけではない。
オレはどうしたものか思案したが、この場合は決定的な犯罪の現行犯というわけではないので、奴らの動向を見守ることにした。
この連中をまとめて片づけるのは今のオレには造作もないが、直感がそうしない方がいいと告げている。
その後奴らは収監場所の暗い棟に向かったが、しばらくして戻ってくると、車に乗り込んで音もなく立ち去って行った。
「あいつらよ、わたしたちをあの変態のいる館に連れて行ったんです」
変態。
魔法によって変換されたのであろうが、その単語を異世界で聞くことになろうとは思わなかった。
アンナは憎悪に満ちた表情で、まつわる過去を思い出しているようだ。
ウサ耳のレイラは拳を握るアンナの手にそっと手を重ねていた。
この二人を苦しめた登場人物たちは3組あったようだ。
拉致業者のゴートたち。
拉致した獣人を金持ちに引き渡す仲介業者。
拉致した獣人を買い取り、不法に監禁する金持ち。
彼女たちには悪いが、この場で可能な限りは状況を知っておく必要があるとオレは思った。
「大変だったね…… 捕まったって、いきなり拉致されたのかい?」
アンナはオレの目を見た。
メガネの奥から見える瞳からは、様々な感情が読み取れた。
「私たちの村はキャティアもラビートもいる亜人の村で、みんな仲良く暮らしてた。
私たち…… このフーガに出稼ぎに出て来たんです。
町に着いて、二人で食事をしている時に話しかけてきたの……
いい仕事があるって。
危なそうだから止めようと思ったけど、話くらいは聞いてもいいかなと思いました。
連れていかれたのはあの変態金持ちの家、そこで……
だから二人で逃げてきたんです」
ラビート?
レイラがオレに小さく頷いた。ウサギ系の獣人をそう呼ぶのか。
「何日もかけてかなり遠くまで逃げられたんだけど、あの冒険者くずれたちに捕まりここに入れられた。もうすぐ迎えが来るって、見張りが話してました」
「警察というか…… 騎士団あたりに保護は頼まなかったのか?」
「あの人たちは、話は聞いたとしても私たちには何もしてくれない……
保護なんて、実際拉致された証拠もないのに動くわけないです」
ここも、どこかの世界と変わらないか。
胸がしめつけられるような感じがして、少し気分が悪くなった。
この子たちは借金のかたにされたわけでもなく、仕事の勧誘をされ軟禁、慰み者にされ、その後逃亡して拉致。
警察組織も役に立たない。
いずれにしろ救いはないな。
「大体わかったよ、大変だったね。
ギルド…… 警察に行ったら、もっと詳しく聞かれるだろうけど」
彼女たちの拳が握られるのがわかる。
泣いているのだろう、レイラはうつむいたままになってしまった。
仲介業者への納期が迫り、取次の顔であるゴートは脱走する必要があった。
追加でミーコという特上物件をゲット、さらに儲けようということか。
生きる価値のかけらもないクズどもだ。
亜人がこの世界でどういう扱いを受けているのかが、かなり掴めてきた。
そして人間の下種ぶりは、本質的に地球と変わらないことも。
ギルドは落ち着きを取り戻していた。
破壊された留置場は、ロープで囲われて痛々しいままである。
この遅い時間まで建物には明かりが灯っていて、中には職員たちがいた。
連行というか、彼女たちを連れて行くのがギルドで適切かどうかはわからないが、ゴート一味を檻ごと引き渡すのは、この場所で間違いないのはわかっていた。
受付に行き事情を説明する。
ヨシュア主任はこの時間までいたようで、すぐに降りてきた。
「一洸さん、ゴートを捕まえたと聞きましたが……」
「ええ、ゴートの一味が麻痺魔法を使ってミーコを拉致、見つけた一味のアジトに拉致されていた他の女性を含む3人を救出、一味5人を捕縛してあります」
「……」
ヨシュア主任は、また唖然としたまましばらく固まってしまった。
彼は軽く頭を振るわせると我に返り、
「……わ、わかりました、こちらでお話を聞きます」
アンナとレイラ、そしてミーコをソファの正面に座らせ、ヨシュア主任が対面して女性の助手が記録していた。
話が終わるや否や、ヨシュア主任はオレに顔を向けた。
オレは彼に言った。
「ええ、例の方法で檻に収監したままにしています。
少し広い場所が要りますね」
「こちらへどうぞ」
ミーコたちはそのままに、オレとヨシュア主任に職員数名は、一階の本舎の横にある巨大な倉庫まで出向いた。
オレはこの辺でいいかヨシュアに尋ねる。
彼は何度も頷いたので、収納から“檻”をまるごと出した。
檻の中にはゴート一味5人が、釣られた魚のようにのびたままになっている。
ヨシュア主任と職員たちは茫然とそれを見つめ続け、やっと口を開いてくれた。
「……ほ、保安部隊に連絡だ」
ヨシュアが言うと、職員が事務所へ走り出した。
保安部隊、それがここの警察機構の呼称のようだ。
連絡と言っていたが、電話がないのはホテルに泊まった時点でわかっていた。
なんらかの手段があるのだろう。
「一洸さん、保安部隊の責任者が来るまで大変申し訳ないのですが、ギルドにいていただけますか」
「ええ、ただあの子たちは大変疲れているので、休ませてあげたいのですが」
「それはもちろんです」
一旦彼女たちのところへ戻り、ギルド内の宿泊所でミーコも一緒に休んでもらうことになったと話した。
「おにいちゃん…… 休まなくていいの?」
ミーコは心配してくれたが、おれは頭をポンポンとしながら、
「アンナさんやレイラさんと一緒に休んでおいでよ。
オレはこれから説明しなきゃいけないんだ、きみたちはゆっくりお休み」
アンナとレイラはオレに深々と礼を言った。
そのままアンナとレイラに、
「ミーコはまだこの町に来て日が浅いので、色々と教えてあげてください。
ぼくらも山里から下りてきたばかりなので、世間のことをよく知りません」
そう言って二人によろしく頼むと、彼女たちは職員に連れられ宿泊所に向かう。
最後までミーコはなかなか手を離してくれなかった。
さあ、面倒くさいことになってきたな。
おれは周囲に解からないよう深いため息をついた。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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