第189話 声、ふたたび
あたしは走った。
途中でてくる蝙蝠の魔獣なんか、ついでにぶっとばしたし。
オークも出てきたけど、今のあたしの敵じゃない。
そうだよね、襲われて、上に乗っかられて……
もしおにいちゃんがいなかったら、あたしはあのまま豚に襲われて、それで……
最後に食べられちゃったのかな。
そんなに前の話じゃないのに、もう随分昔のような気がする。
やっぱりおにいちゃんは、近くにいて止めてあげないとダメなんだ。
あの人は、誰かが一緒にいないと。
なんで一人でいくんだろう。
どうしてあたしに頼らないんだろう、あたしじゃなくても誰かに頼らないんだろう。
そんなに大したことじゃないのに……
あたしとか…… あたしじゃダメなんだよね。
もしあたしがおにいちゃんより先に生まれて…… ネフィラ先生みたいに、色々知ってて、なんでも出来る女だったら、おにいちゃんを止められるのかもしれない。
もう一度生まれ変わって、それが出来るなら。
あたし何言ってんだろ。
もう生まれ変わったし、生まれ変われたのに、またそんなことあるわけないし。
◇ ◇ ◇
濃度か……
この場所そのものがネクロノイドで、しかも濃密。
コミュニケーターが使えない理由はともかく、保管域へ繋げないということは、あれを作った存在以上の力を有している、もしくはあれを作った存在そのものだから……
あくまで仮説だ。
もし保管域を開発した当事者が古のものだとしたら、その力が及ばない仕掛けをつくることも十分あり得る。
……
「あ、あの…… もしこのまま出られなくなったら…… どうなるんですか?」
メンバーから少し離れて座っているレイラが聞いてきた。
「そんなことにはならないよ…… きみたちを必ず元の世界に戻す」
レイラは俯いてしまった。
カラ元気にさせようと思ったわけではないが、もっと別のことを言って欲しそうな感じだ。
アンナが言っていたことが本当なら、この子は静かにオレの後ろ姿を追いながら、今までやってきたことになる。
アンナとレイラを虜囚の身から救い出したのはオレだし、無理からぬことなのかもしれない。
「憶えてますか…… 私とアンナちゃんが捕まってしまって…… これからどうしようって思って…… 逃げても無駄だと思って、でもあの場所に戻りたくないって……」
レイラ、思い出したくないなら無理にそうしなくてもいんだよ。
オレはこんな時こそ気の利いたことがいえる男に憧れたものだったが、やはり無理なようだ。
圧倒的に経験値が足りない。
「レイラ…… その、本当にきみたちに会えてよかった。
オレは今こうしていられることに、すごく喜びを感じてる」
俯いてた彼女が顔を上げた。
潤んでいたが、その眼はしっかりとオレを見ている。
この子の気持ちに応えてあげられるオレになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
「…… あ、あの、もし、このままずっとここにいることになったら…… わたし、一洸さんのこと、一洸さんのお世話をします」
?
何を言ってるんだ、そんなことにはならない。
「レイラ……」
「わたし、一洸さんといられるこの時間…… この場所でだけかもしれません、でも…… わたし、わたしこのままでも」
この子の精一杯の気持ちの表し方なんだろう。
オレは理屈で否定することなく彼女の気持ちを吐き出させるため、ただじっと話を聞くことにした。
「わたし、土の加工ができます、だから食べ物とかも、栽培できます。
生活に不自由しないようにして、一洸さんやみんなが生きていけるようにして、それで…… 一洸さんのお世話をします」
チームのみんなには悪いけど出られなければ仕方ない、か。
レイラ、なんてことを……
この子は何を言い出すのだろうと思ったが、初めてそれが彼女の本心だと気付くことになった。
レイラはオレと一緒に居続けたい、そう思っているようである。
このとんでもない美少女にそんなことを言われた日には、男なら飛び上がるほど喜ぶべきだろう。
この状況だからだ、オレはそう自分に言い聞かせることにして深呼吸をした。
彼女は泣いている。
かなりの心の内を吐き出して、恐らくは軽くなったのではないか。
アールたちは、飛ばされた空間の数値から割り出して、ここのことはわかっているはず。
助けを待つしかないか……
レイラの気持ちをを否定もせず、肯定もしない方法、それは……
何かが破れる音がした。
まるで、厚手の布を引き裂くような、そこから何かがでてくるような……
オレは自然とレイラを抱き寄せた。
彼女はオレの腕に手を回しつつ、胸の中に入ってくる。
“お前はなんだ?”
声がした。
あの時、宇宙空間で高位知性種のデバイスが消滅させられる寸前に心に直接響いた、低く唸るような声……
“何故ここにいる…… 何故私の邪魔をする……”
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