第187話 近いところ
歪みに入る寸前、アンナから通信が入る。
“一洸さん…… 繋がってよかった。
スフィアさんから聞きました、レイラが行方不明だって。
一洸さんが消えた場所から…… 転移させられた場所から入るって”
氷属性のスフィア、レイラのグループだったな。
“今から入るところだ…… 君の方は大丈夫なのかい?”
“今落ち着いてます。
一洸さん、レイラは…… あの子は、一洸さんのこと、ずっと想ってるんです。
でも気持ちなんか言える子じゃないから、ずっと我慢して、自分を抑えてたんです。
だからどうしろっていうわけじゃないけど…… 少しだけわかってあげて”
アンナ。
“知らなかったよ…… わからなかった。
オレは…… きみたちが危険に巻き込まれないよう、それだけを考えてた。
本当にすまない”
アンナは黙ってしまった。
オレだって、どう返せばいいのかわからない。
レイラ、気づいてあげられなかった、本当にすまない。
“アンナ、オレは……”
“謝らないで! あなた、もっと……”
え?
アンナの声はそこで切れてしまった。
怒っていた、それに泣いていた……
アンナ、君までも怒らせてしまうほどオレはどうしようもない奴なんだ。
レイラはオレが助ける。
約束するよ。
オレは歪みに触れるように前へ出た。
一瞬、目の前が真っ暗になる。
次の瞬間、いきなり視界が晴れた。
倒れているレイラとそのメンバーたち。
レイラに駆け寄り、脈を確認する。
気絶しているだけのようだ。
他のメンバーたちも確かめたが、大丈夫だった。
“アール…… ネフィラさん……”
コミュニケーターは反応しない。
“ミーコ……”
ダメ元でやってみたが、ミーコも通じない。
オレはレイラを起こすべく、彼女をそっと揺すった。
しかし起きない。
昔使ったあの方法をためしてみよう。
泥酔した友人を醒ます時に使った方法だ。
オレはレイラの鼻をつまんで、口をそっと抑えた。
呼吸ができなくなった場合に生存本能で覚醒を促す、やむを得ない禁じ手。
「……ん、」
レイラはオレの手を払うように目を醒ましてくれた。
「一洸さん、わたし……」
「レイラ、よかった」
オレは彼女の背中に手を回してそっと抱き起すと、レイラは自然とオレの肩に手をかける。
起き上がった彼女の表情は、眠っていた時に比べて赤みをましている気がした。
「大変だったね…… きみのチームのメンバーが、あの場所から転移させられる寸前に、オレに通信してきてくれたんだ。
あの場所は、隠し転移陣を仕込まれた特殊な場所だったみたいだ。
同じようにオレも飛ばされてきたんだよ」
レイラはオレの肩にあてたままの手を、何かに気づいたように引っ込めた。
「みんなを起こそうか」
彼女と手分けして、レイラのチームメンバーを起こしにかかる。
程なくして全員が目を醒ました。
オレは“0”を呼び出す。
?
予感は当たったな。
保管域に繋げることができない。
ということは、未来科学と魔法の両方に対しての抵抗力を備えた場所ということだ。
そんな想定は出来ようもない。
さて、この場所だが先ほど示された場所だと推定すると、ダンジョンの最奥に近いネクロノイドの海のあった場所からすぐのところだ。
魔界への転移陣がある場所からは対極の位置にある。
抜け出す方法を考えないでやってきたオレである、全責任は負うべきだな。
「みんな聞いてくれ。
オレが使っている転移魔法が使えない場所のようだ。
コミュニケーターも使えないし、ひょっとしたら魔法が使えるかどうかもわからない、各属性を試してほしい」
集まっているチームメンバーは頷くやいなや、周囲の空間に向かって火、水、氷、光、そしてレイラは金属の鏃、オレは闇の邪光を放った。
魔法は使えるようだ。
なぜ保管域に繋げないのか。
確かにオレの保管域は魔法というより異世界召喚の権能だ、比べるべくもないものなのかもしれない。
まずこの特殊空間、洞窟の中に広がる場所という条件では特別な部分は何もない。
遺跡があるわけでもなく、平坦な足場に所々突き出た岩場、植物やコケ類が覆っているわけでもなく、他の生物の痕跡も見当たらない。
「この場所なんですけど…… わたし、土の“気”というか、土壌からでるオーラのようなものを感じられるんです。
土属性の魔法を使う時、魔素を纏めるタイミングでその場所の特性を受けるんですけど…… ここは今まで感じたことのない、独特の波動を感じます」
そう言われてもオレにはさっぱりなのだが、土を操る彼女が言うのならそうなのだろう。
「特にこの先にある場所から…… 強い、異質なものを感じるんです」
オレたちはゆっくりとその場所に向かって進んだ。
何の変哲もない洞窟の一画だが、そこを指さすレイラ。
「この辺りです」
その広い一画はまるで陽炎のようにゆらめいている。
闇属性のオレの目でもわかるうねり、これは……
「これ、ネクロノイドです、擬態してるんです」
土に擬態したネクロノイドの粘体、洞窟に広がる土壌。
オレはゆっくりとみんなに下がるようジェスチャーする。
「一洸さんっ!」
オレを突き飛ばしたレイラが、周囲に突然広がったネクロノイドに飲まれようとしてる。
なんてことを……
「レイラっ!」
オレは彼女に当たらないよう、制御した邪光波を放った。
メンバーたちもそれぞれに魔法を放ったが、レイラはネクロノイドに飲まれてしまう。
オレはネクロノイドに体当たりするように、闇を纏って突っ込んでいく。
それはいつもの粘体ではなかった。
おかしい、こんなに硬いはずは……
その瞬間、ネクロノイドがまるで爆発するように四散した。
石化したネクロノイドから、レイラが飛び出てくる。
彼女はオレにしがみつき、オレはしっかりとレイラを抱きしめた。
レイラは、飲まれた瞬間に石化魔法でネクロノイドを固めたのだ。
さすがというほかないが、彼女はオレからしばらく離れなかったし、泣き止んだあともしばらく抱擁し続ける。
それが今、彼女にとって大切な事だと思った。
「この場所…… ネクロノイドの巣なのか。
あのうねっている場所だけじゃないだろう」
レイラは顔を上げて、自分が飲まれた場所を見た。
「あのネクロノイド…… いつもみんなで焼いているものとは違います。
あれの“濃さ”みたいなもの、直接感じました」
“濃い”ということか。
つまりは……
「本体か、そこに近いものだと思います」
この特殊な場所、隔離しなければならない空間、容易に入ることのできない入り口、そういうことか。
コミュニケーターも繋がらないし、保管域にもつながらない、接続されては困るし、そうなってはならない。
ここから出る方法。
今のオレでは、ちょっと難しそうだな。
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