第183話 魂移操
本当に久しぶり。
これをやったのは何十年ぶり、いやもっと。
自分と対象の心がするりと抜けて入れ替わる。
相手の身体に入った途端、それまでの記憶、考えていた事、トラウマに近いものまで、刻まれたそれが徐々に浸透していく。
死んだ後の、魂が肉体化した状態のものに割り当てられた私……
申し出たのは確かに私だった。
誰のため?
もちろん、自分のため、好奇心もあった。
いや。
姉さま、あなたのためでもあった。
それは本当よ……
少しだけ。
姉さま。
あなたがこの数百年、人間の世界で魔導士として生きたその時間を、形質化した魂の亡骸から読み取ることができるのか、試してみたかった。
以前やったものと変わらなかったわ、この肉体は死んでいる状態とは思えない、生きているそれとなんら変わらない。
姉さまの想い、悲しみ、躊躇い、苦しみ、そして望みまで、ここに入って確かに感じ取ることが出来た。
あなたがなんで郷を出てまでして人間の世界にいかなければならなかったのか、今ではよくわかるわ。
知ってしまったのね、古のものたちの目的を。
私たちはエルフよ、所詮彼らヒューマンとは生きる時間も世界も違う。
でもあなたはそうは考えなかった。
バルバルスのせいで?
違うわ、バルバルスの術を受けないことを条件に、あなたは彼に協力したの。
エルフだけ助かっても、魔族だけ助かっても、何にもならないってことね……
魔獣まで含めて、滅び去っていいものなんて何もない、どんなに邪悪なものであっても、生まれてきた意味がある、それを手前勝手に処断したり、断罪することなんて誰にもできない、あなたはそう思っているわけね。
それが正しいかどうか、これだけ長く生きた私にもわからないわ。
ここに入って一つだけ確かにわかること。
あなたは恋をしてる……
いえ、恋というより静かな愛、といったところかしら。
まるで意識の海全てに淡くひろがる光のような感情…… この身体からは、あの人への想いがただただ広がっている。
よかったわね姉さま。
でも、ずっとここにいるの?
依り代を見つけないと、あなたは……
姉さま……
◇ ◇ ◇
上手くいったわ。
これやるの本当に久しぶりよね。
アイラ、あなたずっと一人だったの?
旅人として諸国を廻っていたのね、随分と様々な思いを刻んできているわ。
そうよね、ヒューマンはもちろん、魔族でも相手を選ばないと、私たちは愛し合うことの先にある悲しい別れを必ず受け入れなければならない。
それもずっとよ。
下手をしたら、子供たちを先に送る事にもなる。
アイラ、私が何を考えているか、もうわかったわよね。
私今、幸せなの。
もちろん完全に手放しでというわけではないけど……
可能性って無限なの。
この空間での体験、いままでの私の常識や知識を遥に超えたものよ。
でも本当によかった。
あなたが来てくれて、こうして“魂移繰”をやることができた。
生身の身体であの人に触れる感触、もう一度味わえたの。
今、私は完全に生きた状態よね。
あの人の肉体を全て受け入れることができる、そのポテンシャルのある状態なのよ。
わかったわ。
私に今、いえ、これからしなければならないことが。
最後の奇跡かもしれないわね。
ああっ、お願いよ、あの人の体温、もっと感じ続けたい……
お願い、もう少しこのままでいさせて、この瞬間がずっと続いて欲しい……
決めたわ。
何をするかってこと。
もう迷わない。
アイラありがとう、あなたのお陰よ。
あなたのお姉ちゃん、もうアイラの知ってるネフィラじゃないの。
今はただの女。
でも愚かな女じゃないわ、本能に飲まれるわけでも縛られるわけでもない。
死ぬ寸前に知って、死んでから欲しかったものが目の前にあるなんて、確かに罪な生き様よね。
でも見つからないよりはいいわ。
私は見つけたの。
ありがとうアイラ。
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