第176話 アンナ
模擬戦が始まった。
オレたちのグループは打ち合わせした通りの配置につく。
これは集団戦。
時間内に残った機体数の多いグループが勝利だ。
オレの右側にはサーラ、後方にイリーナ、左と下には火属性と闇属性の機体。
アンナの第一班がログインした。
グループ長としてアンナは全ての戦闘に参加する。
“いくわよ、始め!”
ネフィラの号令で始まった。
アンナたちの5機、星型に広がりながらゆっくりとオレたちを取り囲むようにフォーメーションする。
間違いなく何かあるな。
アンナの事だ、無意味な動きはしないはず。
星型の両翼に位置した2機、速度を上げると一気に後方に回った。
“後方、気をつけろ”
オレは警戒をうながしながら様子を伺う。
後方に回った2機、まるで渦巻きのように円を描きながら何かを撒いているかのように後方から迫ってくる。
同時に下方の2機、下側から囲むように同様の動き。
“撃っていいですか?”
“待て、まだ早い”
オレは、やりたくて仕方がないといった感のサーラの問いかけを抑える。
左側の闇属性の機体、近づいているアンナ側の機体に粒子ビームを撃ち始めた。
“まだ早い!”
オレがそういうのもつかの間、サーラ機が火を噴く。
仕掛けさせてから始めようと思っていた思惑を破られオレは苛ついたが、始まってしまった。
サーラの炎龍が巨大な渦を吐き始めると同時にそれは起こった。
オレたちを取り巻く空間が一斉に炎に包まれる。
ガソリン…… いや、引火性の強い液体だ。
酸素が無くても燃える、魔法の世界のお約束なんだろう。
アンナは水属性の機体全てに、オレたちを取り巻く空間に超可燃性の水、恐らくはメタンハイドレートのようなものを撒いていたのだ。
オレを含むグループ全ての機体が、サーラの出した炎に引火した超可燃性液体を誘爆させ、全てが炎に包まれる。
“一洸さん…… 何も見えません”
火属性の機体から通信だ。
炎には…… 闇だ。
“収束邪光波!”
オレは荒れ狂う炎の中に、収束した闇魔法を一本放った。
そこだけくり抜いたように漆黒のトンネルが生成され、まるで草原の一本道のように炎の外につながる。
“今だっ! 闇魔法の波を伝って前にでろ!”
オレは漆黒の邪光波を放ちながら叫ぶ。
炎の中を抜け出るイリーナ、サーラたちの4機。
アンナ、やるな。
“抜け出たら各個撃破だ、一機づつあたれ!”
まるで罠から抜け出た羽虫のように、巨大な炎の玉から抜け出たオレたちは、アンナの一班に向かって各個攻撃を始める。
オレの至近にいたのはアンナ機、まるで待っていたかのように金剛鏃を放ってきた。
オレも邪光波で撃ち返し、二つの力が空間で激しくぶつかり合う。
下方からもの凄い火焔が迫り、アンナの機体を炎に包む。
サーラだ。
ということは、早速片付けたのだろう。
サーラはオレの獲物であるアンナを奪い取るように火焔地獄に陥れた。
巨大な火焔玉が出来上がるが、中から爆散するように金剛氷の鏃が放たれ、火焔玉にほころびが出来る。
アンナはオレからサーラに標的をシフトし、機体を広げると、鏃を全開で放つため可変した。
“ブレードクラッシュ改!”
アンナがそう叫ぶと、腕と脛が可変した機体から猛烈な数の金剛氷が射出され、サーラの機体をハチの巣にする。
その射出は彼女の火焔を完全に打ち破り、サーラ機はまるでボロ布のようになってしまった。
アンナ……
容赦ないわ。
もし同級生だったら一番先に好意を感じるだろうネコミミメガネの知的少女は、ミーコやレイラを凌ぐ根っからの戦闘狂。
サーラ…… この後増々やりづらくなるな。
無暗に慰めてもプライドが傷つくだろうし。
それではアンナさん、オレも一太刀願いますか。
そう思って身構えた時だった。
“そこまでよ…… アンナ一班の勝利です”
ネフィラは楽しそうにそう言った。
◇ ◇ ◇
大管制スクリーンを見つめるミーコとレイラ。
ネフィラは各機の出したデータを見ながら、アールと話をしている。
「凄い…… アンナちゃん、凄いよ」
「一洸さん、負けちゃった……」
ミーコとレイラは複雑な表情で、その結果を見守っている。
ミーコは深く秘めた想いを表情にはださずに両手を握り、レイラは頷きながらも何かを掴んだように口元を締め、上目遣いにスクリーンの一洸の機体を見つめ続けた。
◇ ◇ ◇
一洸さん、わたしはアンナよ。
ネフィラさんでもなく、ミーコちゃんでもなく…… わたしはアンナ。
あなたがリードするグループの、初戦を勝利で飾るはずの戦いに勝ってしまった、イケない女のアンナ。
これでちょっとはわたしのこと、見直すわよね……
ミーコちゃんのようにあなたに触るわけでもないし、レイラみたいに遠くから見つめ続けるでもなく、ネフィラさんみたいに、あの人みたいに……
一洸さん、アンナはここにいるのよ、あなたを倒したの。
ごめんなさい。
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