第173話 新しい提案
オレはイリーナに最初の人柱になってもらい、彼女にシミュレーターのシートに身を入れる方法から、コンソールに手を充てる位置までを事細かく説明し始めた。
シミュレーターの周りを取り囲むオレのグループメンバーたち。
彼らは先進技術の塊を見るのも触れるのも、これが初めてだ。
魔族であれ亜人・獣人であれ、人間の感性を持ち合わせていることが解かった今、オレは躊躇うことなく説明を続けた。
“位置はそのままでいい、そうだ。
基本操作は指にあたった部位が読み取ってくれる…… 考えるだけでいい、ぼんやりとではなく、強く命令するように思うんだ”
アールのサポートも順調だ。
鹵獲戦艦は時に語気を強めることもあるが、それは問題なく事が進んでいる証でもある。
もし彼らの動作や理解が及ばない場合は、おそらく説明にすらならないだろうから。
シミュレーターシートに座った彼らの表情は、目まぐるしく変わった。
初めて見る疑似視界、その鮮やかさ、リアルさは、20XX年からきたオレですら驚異であったのだ、彼らの驚きは想像するに難くない。
メンバー全員の初期設定から、起動動作手順までを繰り返し実地で扱わせたので、かなり疲れたようだ。
この空間の賦活作用によって疲労はすぐ回復されるはずだが、気疲れなのだろうか、くたくたな様子だった。
レストルームにいるのはオレたちのグループだけだ。
オレは再度、養成所は特殊な魔法で外世界の時間を停止していることを説明、代謝を抑制しているので食べ物も休息も排泄も不要であることも。
今疲れている状態も魔法の効果によってすぐ回復する、心配無用だと。
「イチコウさん、信じられない位体の調子がいいんです、魔法だけでこんなに元気になるなんてありえない……」
イリーナがすぐ反応してくれた。
魔法の力だけではない何か、が働いている……
そんな疑念があったとしても、この説明で押し通すつもりだ。
普段の生活の仕方は、魔族スタッフに説明を任せよう。
ここでの生活はすぐに慣れる、それは実証済みなので心配はしていない。
オレは他のグループの様子を見るため、彼らから離れた。
“アール、成行き上候補者全員を入れることになってしまった。
その、やっぱり大変だよな”
オレは本当に申し訳ない気持ちと、今後の進行も含めてアールに聞いた。
一呼吸おいてアールは答える。
“それほどのことではない。
若干のスケジュール変更は否めないだろうが。
機体製造の部分だけ予定超過するが、あとは問題ない。
当初の倍近く製造することになるし、個別の変更も考慮する必要があるが……
ま、心配するほどではない”
そうか。
アールがそう言うならそうなのだろう、オレはその部分では心配を打ち消すことにした。
ミーコ、アンナ、レイラのグループの進捗を聞いたが、どれも問題ないようだ。
並外れた魔法力を持つ4人以外は、平均的な機体調整で済むようだし。
「一洸さん、ちょっといいかしら」
オレがミーコのグループ視察をしようとした時、ネフィラが呼び止めた。
“無属性魔法の行使者、彼女の件だ”
アールもか。
そうだろうな。
「あの彼女、イリーナさんだったかしら。
彼女の無属性魔法、あれが規格外の代物だってことはあなたもわかると思うの。
イリーナさんとはもう話したの?」
「いえ、まだ詳しくは…… あの人はギルドの上席職員で、オレやミーコの登録をしてくれた人なんです。
とても実務的でテキパキとした人だったので、魔法使いだなどとは思いもよりませんでした」
ネフィラは確認するように頷いている。
「彼女はギルド職員として働いていた。
魔法、それも無属性の保持者だとは周囲に知られずに過ごしていた、ということよね」
「聞いてはいませんが、そうだと思います」
「あの魔法だけど…… 他の力と組み合わせると、とんでもない攻撃力になるのよ。
古来から軍事的利用に用いられることがほとんどなんだけど、行使者が極端に少なかったの。
無属性魔法を主軸にして攻撃力を配置すると、とても効率よくネクロノイドを処理できるわ」
「そうでしょうね…… あの力は反則でしょう。
敵側にいてほしくありません」
ネフィラは姿勢を正してオレに向き合う。
「これはまだ先の話よ、あなたたち全てのメンバーなんだけど……」
ネフィラはこの先のパイロットたちの行く末、ラウンドバトラーに搭乗して戦うための編成について話し始める。
オレは黙って彼女の話を聞いていた。
それは当初のものとは違った、より積極的なネクロノイドに対する態度とでもいうべきものであった。
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