第170話 最後の一人
水・氷のアンナ、土・金のレイラと、審査は順調に進んだ。
著しい破壊力の誇示もなかった半面、全ての候補者が及第点といった内容だ。
スーパーマンの募集ではない、ラウンドバトラーの魔法攻撃操者の選別なので、むしろ喜ばしい結果だろう。
属性だけでいえば水や土系の人数が多く、火や闇、無属性はほとんどいなかった。
理由はわからないが、オレの担当する人数は極端に少ない。
赤い髪の女は、サーラと名乗って自己紹介をした。
彼女はオレ自身に気づくだろうか。
ミーコたちの姿は舞台で見ていたので、憶えているはずだ。
だがバイザーを被ったオレを特定できるか、それはわからない。
サーラは正体を探るような目で、間違いなくオレを見ている。
ミーコが、女から距離をとる。
レイラも岩から少し距離をとっている。
ミーコたちのぎこちない動作から、サーラは態度というか、今後の動きを決めたようだ。
「岩が…… 飛び散ると困りますよね。
実技の際の希望はありますか?」
サーラはミーコにそう言った。
ミーコは助言を求めるように、オレの方を向き直る。
オレは審査員席から降りてステージ近くに立ち、女に答えた。
「どんな方法でもかまいませんよ。
あなたの発揮する魔法を観たいだけですから、気にせずやってください。
シールドを張りますので、審査員の彼女は外側から観るようにします」
オレはそう言ってミーコをステージから降ろし、レイラを岩からさらに遠ざけた。
そのまま彼女たちと、サーラの実技を間近で見ることにする。
女は軽く笑ったような気がした。
気づいているな、あの時のオレだと。
「では、始めます」
女がそう言うや否や、赤い炎の龍が舞い始め、蛇がとぐろを巻くように岩に纏わりついた。
岩は高熱を発し、まるで噴き出す溶岩のように隙間を赤々しく爛れさせた。
見せているのだ。
あの時、自分がこの岩だったのだと……
これは相当根に持っているな。
どうしようか。
ただこの火の魔法力、バトラーで用いれば比類なき戦闘力なのは間違いない。
これは困った。
そんなことを考えていると、岩はドロドロに溶けて原形を失っていく。
なんという火力、熱量、そして威圧感だろう……
会場からは拍手と歓声、おれも拍手した。
わからないように深呼吸をしたオレは、力を抜いてしっかり判断しなければ、と心に言い聞かせた。
“一洸、緊急連絡よ”
エイミーからの通信だ。
“どうぞ”
オレは臨戦態勢にあるとはいえ、努めて冷静に応える。
“ネクロノイドの反応が、地表の浅い部分ででたの。
あなたの国、プルートニアに近いわ…… 今私たちも出撃するところなの、気をつけてね”
この近くか。
審査はあと一人、このまま進めよう。
“エイミーさん、ありがとうございます。
今審査会をやっているところなんですよ、経過はまたあとで教えてください”
次は最後、イリーナだ。
彼女は無駄のない動作でステージに上がると、オレたちに向かって自己紹介した。
「ゴーテナス帝国からまいりました、イリーナです。
職業は…… ギルド職員、魔法属性は無属性です」
無属性。
ついにお目にかかれるわけだ。
なんだかんだで、ネフィラに詳細を聞けずじまいだったが、これで明らかになる。
しかし、イリーナが魔法の使い手だったとは意外だ。
何故ギルド職員の道を選んだのか……
個別の事情など知りようもないが、何かがあったのは間違いない。
このような審査会に打って出るほどの力量があるのだろう、その事情も浅いものではあるまい。
「始めます」
イリーナの掛け声とともに、ミーコもレイラも身をかがめた。
いつの間にかアンナもオレの隣に立っている。
無属性魔法を間近で見たい、その一心だろう。
ステージが爆発した。
吹き上がる粘体、ネクロノイド……
奴らがやってきた。
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