第164話 閑話 魔神将バラム
バルバルス様。
あなた様に仕えると決めた数百年前のあの日、私は残っていた思いやりと愛情を棄てました。
血で血を洗う魔族達の中にあって、ひと際荒々しい戦いを見せていた私、猛将バラム。
魔族たち、私の周りにいた多くの者たちは、私をそう呼んだ。
クマの従魔アラスに跨り、向かうところ敵なしの私。
賢者バルバルスは私の説得にあたったが、魔族の血が懐柔を許さなかった。
バルバルスは、私の血を分けた姉弟以上の存在である、従魔アラスを狂わせ、自死に至らしめた。
そしてあなたは私に、一人では戦いを続けられない、力を合わせて苦難に立ち向かわなければならないことを、権能によって教え込んだ。
心の中に思いを植え付けられた私はバルバルス、あなたの考えを理解したが、従魔アラスを殺された恨みと悲しみ、あなたに対して芽生えた畏敬と愛が同居する複雑な心情に苦しみ続けた。
ネフィラ、その人はエルフの中にあった。
賢者バルバルスからの信頼を一心に集め、本当の妹のように扱われ、“あにさま”と呼ばせていた存在。
バルバルスを独り占め出来ない悲しみ、苦しみ、嫉妬、アラスを殺された恨み、独占欲、愛……
私はよく発狂せずに、この長い時間を過ごすことができたと、自分でも驚いている。
あの方が植え付けた思い、考え、魔族が魔族として生きていく上で足りないもの、自分が成すべき役割…… 今まで開かれることのなかった、自分の中に眠っていた思想の幹となるものを自覚させてくれた、かけがえのない存在。
憎みたい、できるものなら殺したい…… その前に、独り占めしたい、自分だけを見つめさせたい、妹を遠ざけたい、あなたを、あなたの思いを一心に受けたい……
私は待った。
あなたの仕事が終わるのを、何百年も待ち続けた。
いつか、この思いを遂げられると信じて、ずっと待ち続けた。
あなたが開いた世界。
魔族のために、私たちが生きるために、必要な土地を開放し、明け渡してくれたバルバルス様……
あなたのためなら、この命を捧げようと思った。
そして、私から大切なものを奪ったあなたに、命を捧げてもらおうと思った。
あなたは私の大切な命を奪った。
子供の頃から一緒に育ったアラス。
従魔などとは呼べない姉弟のような存在を、ただ目的の邪魔であった私を懐柔させるために、力を削ぐために、愛を思い起こさせるために……
あなたは、私から奪ったのだ。
だから、私が奪う、あなたの大切なものを、思いを、心を……
その機会はついにやってきた。
マルコシアス様が死んだ。
彼は、私の兄以上に兄らしい存在だった。
ごめんなさい。
私は…… 私は待っていたのかもしれない。
マルコシアス様、あなたが亡くなった時、それを知った時、バルバルス様に会える、その可能性が自分の中に生まれたのを感じた。
明らかにそれは、私の中で大きくなった。
人間の勇者、類まれな権能の保持者、一洸様。
あの人が、その可能性を形にしてくれた。
私は、再びあなたに逢う。
今、それをやっている。
バルバルス様……
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