第161話 漆黒の魔元帥イチコウ
魔界の王都上空を派手に飛翔する、オレの愛機。
各所で地上回帰デモを行っている市民たちの上を、これみよがしに飛び回っている。
理由はどうあれ、それほど悪い気持ちはしなかった。
普通の人間が注目を浴びることに執心する気持ちが、少しだけわかったような気がする。
王都の中心部、中央政庁府からまっすぐ伸びるとんでもない広さの大通りを、政庁府前広場に向かって飛翔する。
まるでオレの姿を追う様に、魔界の王都市民たちは中央広場を目指している。
中央広場は予め配置された近衛兵たちによって、混乱が起きないように采配されている。
一般市民の恰好をしたバラムが小さく見えた。
オレは広場の中心地上空に浮遊しながら、ゆっくりと地上に降り立つ。
回りを取り囲む大勢の魔界の市民たち、まるで悪魔のように黒く塗り直したラウンドバトラーに目が釘付けになっている。
人間、腹を括ればたとえ苦手であると思っていたことも、どうということはない。
降り立ったオレの周囲には、近衛兵たちがぐるりと円を描くように囲んでいる。
バトラーのハッチを開け、漆黒の眼が禍々しい魔元帥バイザーを被ったオレが、全身黒ずくめ、黒光りするマントを翻して衆目の前に姿を現す。
オレは魔族なら確実に視認する“権能の腕輪”をよく見えるよう、拡声魔法を使って話し始めた。
「我は魔元帥イチコウ、王都の市民諸氏には初めてお目にかかる」
罵声が飛び交うかと思っていたが、まるで初めて地上に降り立った異星人でも見るかのように、驚嘆と恐怖、畏敬すら混じった目でオレをみつめているようだ。
まずい。
ここで荒ぶり罵ってくれないとシナリオが狂う。
「地上に住まう残された魔族の同朋たちは今脅威にさらされている。
地上へ戻りたい……
その気持ちは理解するに容易いが、地上は今、地底深くに眠る古のものが復活の目を見せ、我が同朋たちは存亡の危機に晒されているのだ」
おかしい。
何故、暴れ始めないのだろうか。
これではただの演説になってしまう、魔族による理性的な振る舞いは裏切られた感じだ。
半人半獣の狼人、バラムのような角を生やした鬼、爬虫類型のリザードマン、ネフィラのようなエルフもいるし、ミーコのようなほぼ人間の亜人もいる。
彼ら多種多用な魔族たちは一様に、オレの話を静まり返って聞いていた。
調子が狂いすぎる……
オレは早々に話の要点をぶつけて、纏め上げることにした。
「魔力に自信のある諸氏に問いたい、我が魔元帥イチコウとともに、地上の同朋を救おうではないか!
我と共に、栄えある魔族の存在を人間たちに示そう!」
聴衆は騒然となったが、混乱にはならなかった。
「魔元帥イチコウ様、どのようにすれば…… どうすればいいのですか!」
「地上が危機とは…… この魔界もそうなるのですか!」
叫び問う市民たちの前にバラムが颯爽と表れ、聴衆に布告した。
「皆の者、静まれっ!
魔元帥閣下は、魔力に覚えのある者による、地上の同胞たちを救う手立てを示された。
ここに、王都魔力闘技会開催を宣言する!
我が筆頭魔神将バラムも、魔元帥閣下に命を救われた身だ!
共に地上の同朋を救う力となり、栄誉を勝ち取ろうではないか!」
魔元帥様、魔元帥イチコウ様……
その声で中央政庁府前広場が埋め尽くされるのに、時間はかからなかった。
それにしてもシナリオと違ったのにさすがバラムだ、伊達に筆頭魔神将を長く勤めてないな。
オレは“権能の腕輪”を見せびらかすように、観衆に手を振って応え続けた。
◇ ◇ ◇
連邦側の要員を保管域へ引き上げ、外界時間停止をした。
エイミーを含んだ20名ほどの要員たちと挨拶をする。
いずれも手練れのラウンドバトラーパイロットである。
魔法を学ぶ、それも魔導士と呼ばれる学究の頂点から体系的に。
以前観た映画の魔法学校……
もし、そのチャンスがあるのなら……
学校がそれほど好きではなかったオレだが、心底行きたいと思った学校なのは間違いない。
自分が享受した運命のめぐり合わせとは違って、現実にその恩恵を受けられる彼らをオレは羨ましいと思う。
ネフィラの座学は、オレたちが魔法を教わったスペースで始まった。
時折聞こえてくる笑い声から、どうやら楽し気に進んでいるようである。
「ねぇおにいちゃん…… 久しぶりに遊ぼうよ!
エイミーさん、たまにしかこれないけど、おにいちゃんと遊べないと残念そうにしてるよ……」
ミーコがオレの手を握ってくる。
アンナやレイラも一緒だ。
「一洸さん…… 息抜き、してませんよね。
私、走り出すと熱中しすぎて時間が経つのを忘れちゃうんです。
適当に力を抜かないと、あとでしわ寄せがくるのわかってますから……」
アンナ、この子は本当に大人だな。
「あ、あの…… 一洸さん、時間を決めて、遊びましょう。
わたしも、わたしも遊びたいです」
ありがとうレイラ。
そうだよな、オレは息抜きの仕方が下手どころか意識してやっていない。
ここの所忙しさにかまけて飛び回っていたのは事実だ。
たまにはいいよな。
オレはミーコに引きずられるようにシミュレーター改に向かって歩いた。
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