第16話 ミーコ、オークに捕まってしまう
この店員はミーコに着合わせして、楽しんでいるように見えた。
勧める服は、冒険者というより女の子向けの服に偏っている。
「うふふ♪ おにいちゃん、これすごく動きやすいよ!」
ミーコは楽しそうにミニスカートを選んでいた。
獣人用? なのかはわからないが、見事に尻尾はスカートの邪魔にはなっていない。
彼女のすらりと伸びた脚には似合いすぎるほどの装いだ。
下着上下数枚とボトム、トップスを2セット、ミニスカート2着と、冒険者風ブーツを選ぶ。
当初は足回りが心配だったが、この世界の靴の作りは心配するほどではないようだ。
取り敢えずはこれでいいだろう。
カゴに入れてもらい、生活用品売り場に行ってみると、歯磨き粉と石鹸、ボディソープがあった。
チューブなどではなく、広口瓶に詰められていて、使い勝手ではまだまだのようだ。
ホテルで使った時に感じたのは、地球産とは違い香料が強いようである。
支払い時に驚いたのは、独特な算盤が壁に設置されており、レジ係よろしく精算係は素早く巧みに計算していた。
計算の状態が客にも見えるので、明朗会計を主張しているのだろう。
小さな正札を見ながら計算していたが、やはりブラジャーはこの異世界でも高いようだ。
掲示板を見ていた冒険者たちは、ただ魔獣を狩るハンターというイメージではなく、装備にも傾向があるように見えた。
自分たちが冒険者としての活動をする上で、何が必要なのか。
それはこれからわかってくるのだろう、オレはそう思っていた。
異世界トップスとミニスカートにブーツ、地球製ナップサックを背負ったネコ耳娘のミーコは、まるでピクニックにでかける異世界アニメのキャラのようである。
あまりにも様になっているので、スマホで写してしまう。
「おにいちゃんの服もいいけど、これ本当に動きやすくていい!
おにいちゃんは買わなかったけどいいの?」
「うん…… どういう装備になるか、これからわかるからさ。
ミーコもこんなものが必要とか、覚えといてよ」
「わかった、覚えとく」
そう言うミーコだったが、心配ではあり注意しておくことに変わりない。
アカキイチゴの生っている場所までは、何者にも遭遇しなかった。
昨日でくわしたカミオ一行は、ミノタウロスの後を追ってあの場所で会戦している。
言うまでもなく、今いる場所に何が出没してもおかしくはないということだ。
たとえそれが、アカキイチゴ採集の案件であったとしても。
あの川の近くにやってきた。
川を越えた先に採取場所がある。
オレは適当な大きさの岩石を、サイズ別に収納しながら歩く。
表示板の収納数はどんどん増えていった。
どのくらいまで入れられるのかは不明だが、50トンを問題なく収納できるものに、そう早く限界がくるとは思えない。
「おにいちゃん、もうすぐだよ」
ミーコは本当に楽しそうだ。
オレは心構えだけはしておいた。
何か出てきたらミーコを連れて逃げる、戦うかはその場で決めずとにかく逃げる。
そいつは採取場所にたどり着く前に現れた。
「おにいちゃん伏せて…… まだ離れてるけど、囲まれてる」
ミーコがオレの手をとって、腰を低めた。
彼女はサックからナイフを取り出して身構えている。
まるで女戦士。
草むらから垣間見えたブタの化け物…… これがオークか。
体長は3メートル近く、頭は豚で身体は太った人間。
罠をはっていたのか、待ち構えていたのか、腰を申し訳程度の布で覆っているということは、それなりの知性は持ち合わせているようだ。
そいつが吠えた。
間合いをつめていた仲間、どうやら3匹いるようだ。
距離をつめてオレたちを追い込んでくる。
「ミーコ、オレが攻撃するから走って木の上に逃げろ」
返答を待たずに、岩石落としを一匹に見舞う。
ぐしゃりという手ごたえとともに、正面のオークは活動を止めた。
走り出すミーコを追うように一匹が動き出した。
速い。
豚の化け物とは思えない素早い動きは予想外で、オークの頭上から岩石落としを試みたが、動きが速すぎて狙いが定められなかった。
「ほうら、こっちだぞ豚の化け物!」
オレは大声を上げて自分に注意を寄せたが、ミーコを追う一匹はわき目も振らずに彼女を追っている。
先ほどの攻撃をみていたのか、頭を手で覆うようにもう一匹はオレににじり寄ってきた。
ならもっと大きなものをお見舞いしよう。
10トン級の奴をそいつの頭から近い場所に出現させる。
そいつは素早く動いたが間に合わず、半身を岩の下敷きにして動きを止めた。
間髪を入れず、オレはミーコの方へ向かう。
彼女は木に登る直前で足をつかまれ、下に引きずり降ろされるところだった。
オークは、まるでのしかかるようにミーコを組み伏せようとしている。
まずい。
近づいてくるオレの存在に注意を払う余裕がなかったのか否か、オークはまるで交尾しようとするかのような体勢でミーコの足を開こうとした。
「いゃー、 おにぃちゃあああん!!」
ミーコは痛々しいほどにオレの名を叫んだ。
オレは冷静かつ素早く正確に狙いを定めて、ミーコを一緒に押しつぶさないよう、そのオークの首からすぐ下に500キロ程の岩を見舞う。
グギッ、という鈍い叫びとともにオークはミーコに倒れこんだ。
「おにいちゃん!!」
2メートル半のオークをどけるのを手助けし、泣きじゃくりながらしがみついてくるミーコを受け止めた。
オレはミーコの頭をしっかりと抱いてやり、そのまま安心させる。
彼女が泣き止んだのは、しばらく経ってからだった。
ミーコの手をしっかり握りながら、オークの死体を回収した。
保管庫を持つ冒険者は、討伐した魔獣をギルドに買い取らせることができる。
その前に確認しておかねばな。
ミーコが落ち着いた後も、アカキイチゴを採取する気になれず、ギルドに戻った。
窓口でヨシュア主任に確認事項がある旨伝えると、彼はすぐ降りてきてくれた。
「一洸さん大丈夫ですよ、例の秘匿事項、窓口スタッフは全員承知しています」
「ありがとうございます…… 実はアカキイチゴ案件を受けたのですが、
その時にオークらしき魔獣に襲われまして、それを3匹程持ってきました。」
ヨシュアの顔色が変わった。
やはりそうか。
Dランクではあっても規格外の成果、それを3匹まるごと持参するなど、Aランクでもないのかもしれない。
保管庫はカミオたち“白いたてがみ”にも保持者はいなかったみたいだし。
オレとミーコは窓口の先にある大扉を開けられ、とてつもない広さの買取用解体スペースに通される。
解体職員たち数人は、数多くの小さな魔獣を処理していたが、ヨシュアにスペースを開けるよう指示された。
オレはそこに3匹のオークの死体を次々に出現させる。
ヨシュアと解体職員は、口を開けたまま驚愕の表情をしばらく変えなかった。
「い、一洸さん、これはオークの中でも特大級になります、それを3体も……
たった二人のパーティで、一度にこのサイズを3匹も討伐し、収納して帰ってこれる者はまずいません」
解体職員が重さを図ったが、全て300キロを超えていると言っていた。
ヨシュア主任は、手を台につけてよろけそうになっている。
そんなに凄い事なのか。
落ち着きを取り戻した主任は、オークの所持していた武器は冒険者を殺して奪ったものなので、オレのものになると渡される。
「それにしてもよく無事で…… ミーコさん、危なかったのではないですか?
この連中は、若い女性は全て拉致して苗床にしてしまいます」
「ええ、間一髪でしたが……」
ミーコのつないだままの手に力が入る。
オレはその手を強くにぎり返した。
依頼案件ではない魔獣討伐単体報酬及び買取代金として、一体につき18万から20万Gを渡された。
体長と重量で算定されるようで、積算ランクポイントの大幅アップも告げられる。
アカキイチゴ案件は引き続きやるとして、かなり危険だが、これって魔獣討伐をランダムでやった方が効率いいよな。
今後の身の振り方は考えるとして、今日はゆっくり休もう。
明日から仕切り直しだ。
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