第158話 初めての演説
プルートニアに転移したオレは、ベリアルの国葬の進捗を確認している。
葬儀は中央都市マルスで行い、各国への招待状も発送済みだ。
この世界の要人移動は全て転移陣にて行うので途中の警備リスクが少なく、余計な手間が無くていいようだ。
オレは、バラムにこれからの予定を話した。
各国大使への必要な説明はオレからすることと、魔界からも必要な人材を揃えようと思っていると。
「一洸様…… あのバトラーに魔族が、ですか?
身体のサイズがまちまちですし、使用する魔法もまた様々です。
我々魔族は、魔法・魔術の攻撃に対して身体能力で対抗するしかなかったので、今のような状態に落ち着きました。
私は比較的人間に近い方ですが…… おわかりのように、魔神将たちでさえあのような外見です」
オレは、ネフィラとアールに相談した内容を伝えた。
「立候補者からまず魔法適性を判断し、搭乗する段階で必要な個別調整を行います。
ネフィラさんから聞いた話ですが、魔族の中には物理攻撃よりも、魔法攻撃が得意な者が少なからずいるとききました」
バラムは思うところがあるような表情だ。
「確かに…… そうですね」
バラムはしばらく考えるような様子をしている。
「……あの、一洸様。
それは私も可能なのでしょうか?」
オレはバラムに微笑んだ。
「もちろん可能ですよ。
あなたがそう言ってくれると、他の魔族達の励みにもなります。
そうですね、魔界の管理はオレの影もいるわけですし……」
面倒な事にはならないだろうが、養成施設のレイアウトを少しデリケートに再考した方がいいようだ。
ベリアルの葬儀は派手ではなかったが、質実剛健な人柄を尊重した手堅いものだった。
参列した各国の大使たちを前に、オレは普段は着ない魔族の正装とネフィラから貰ったバイザーを嵌めて登壇、そんなオレを見たバラムの顔はちょっと見ものであった。
遠目には、フォースの暗黒面に落ちた黒い卿に見えるだろうな。
この世界に、あの映画を観た人がいないのが救いだ。
各国の大使たちの中には動揺している者もいたが、具体的な対策を話し始めたオレに、一斉に静まり返る。
「現在、この世界は存亡の危機に立たされています。
大地の下に眠る古のもの、ネクロノイドの存在、意思のないその下僕たちが、我々の生活と安全、命を脅かして久しくなります。
わたくし魔元帥イチコウは、空飛ぶゴーレムであるラウンドバトラーを外世界の協力組織である“連邦”から提供を受け、この脅威と戦ってまいりました。
この期に及んでは、戦いの中でベリアル公を失い、彼ら古のものはさらに力を増しています。
私は、今こそ世界の力を合わせなければならないと考えております」
恐ろしいほどに静まり返った会場、彼らはオレの話を一言も漏らさず聞いてくれている。
「わたしはこの脅威に対しての具体的な対策を立てました。
世界各国の人員による、ネクロノイド殲滅のためのラウンドバトラー隊創設です。
要員の必要な条件として、魔法・魔術を使えるもの、その能力値は高ければ高いほどいい。
種族も職業も問わない、貴族であれ冒険者であれ、騎士であれ、広く募ろうと思います。
搭乗機であるラウンドバトラーは、こちらから提供します。
必要なメンテナンスは日時を決めて定期的に実施、機動性を鑑みて各国要所には駐機施設だけ用意いただくことになります。
ラウンドバトラーの貸与はネクロニウム殲滅の目的のみとし、目的が完了したあかつきには回収します。
搭乗員養成は、プルートニア魔公国に設けられる養成施設にて実施します。
特殊な施設であるため、容易に出入りが出来ないことになっています。
養成期間中は外出が出来ない旨、了承していただきたい。
各国に割り当てる要員数は、追ってお知らせします」
深いどよめきが起き始めている。
「これはプルートニア魔公国、セトレーギア連邦、ゴーテナス帝国で結ばれている軍事協約のくくりにとらわれないものになります。
このラウンドバトラーの戦闘力の源は、魔法行使力です。
この世界の危機に際し、世界各国の潜在的な秘めたる力を持って皆さんで脅威に立ち向かいましょう、私も戦います」
各国の大使、参列している関係者全てが立ち上がり、拍手と大歓声が始まる。
まさか自分が最も不得手である演説を、異世界の国際舞台で初めて行うとは、正直夢にも思わなかった。
このバイザーがどこまで有効に働いてくれるかはわからないが、これでオレという存在は、この世界の知る所となってしまったようだ。
ただし全てが明かされるわけではない。
魔元帥イチコウと冒険者一洸は、あくまで別人。
こんな話がどこまで通るかわからないが、押し通すしかないだろう。
◇ ◇ ◇
“演説が始まりましたので、そちらに流します。
魔元帥イチコウ、バイザーで頭部を覆っていますが…… 魔族、亜人、人間なのかは判別できません”
演説会場にいる、ガイアスの間諜から流される魔通石の音声。
聞こえてくる音声を一言も漏らさず聞いていた評議会議長ガイアスは、目の前にいる通信官にも聞こえるくらいの歯ぎしり音で顔をゆがめている。
“魔元帥イチコウ…… 魔族の魔元帥が仕切っていたというのか?
冒険者と言っていた人物が、そのイチコウだと……
いや、そんなはずはない。
あのラウンドバトラーの搭乗員を募るということは、その内部を見ることもできるということだな”
ガイアスは、これまでの状況よりも好転し始めている、そう考えることにした。
なにもあの空飛ぶゴーレム、ラウンドバトラーを完全運用させろと言っているのではない、その技術の一端でも掴めれば様相はこちら側に動く。
魔法行使力…… か。
あらゆる人員と手段を用いて、秘密をいただくことにしよう。
それは、人員を提供する側の特権でもある。
世界を救うだと…… それは私の仕事だ。
ガイアス議長は、自分のやるべき仕事を始めた。
【 恐れ入ります、下記お願いいたします 】
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