第152話 溢れ出る想い
保管域に戻ったオレは、現場での対策を考慮し旗艦へ転移する。
小脇には小さなドローンを抱えたままだ。
旗艦の魂意鋲の手をつかむ寸前、ネフィラに止められる。
「……一洸さんお願い、これからの危険度は今までの比じゃないわ。
少しでも危ないと思ったら、すぐ戻ってきて。
本当に、あなたがどれだけすごい権能を駆使できたとしても、もうどうしようもないのよ」
ネフィラはオレの両肩を掴んで、額を押しつけんばかりの近さで言った。
オレは彼女の手を握り返し、安心させる。
「わかりました、少しでも危険を感じたら、すぐ戻るようにします」
“アール助かった、ありがとう”
“一洸…… あの破壊力、一瞬で高位知性種のデバイスが全て葬られた。
どのような質量兵器が使われたのか、想像すらできない”
オレはアールの怯えにも近い雰囲気を察して、本当に覚悟を決めなければいけないのだろう、そう予感した。
“おにいちゃん!”
“ミーコ、まだ待機しててくれ、みんなも頼む。
必ず無事で戻るから……”
弱い根拠の“必ず”だな、自分で言いながら情けない。
旗艦に戻ったオレは、待ち構えていたエイミーに抱きしめられてしまった。
彼女がネフィラのような真似をするとは予想できず、オレは少々面食らってしまう。
抱えてきた小さいドローンが邪魔になったが、オレはエイミーの抱擁を受け入れた。
「……一洸、本当に、本当によかった」
エイミーは泣きながらしがみつくばかりだったので、両手を使えないオレは、まるで立ち尽くす木のようにされるがままだ。
「……エイミーさん、このドローンが唯一救えました。
今回の功労者です」
小さなドローンを彼女に渡すと、そのドローンはオレに向かってお辞儀をした。
「アリガトウゴザイマス、一洸サン」
AI内蔵なのは知っていたが、こんな風に振る舞えるのか……
まるで小さなマスコットである、時代が時代なら大変な需要であったろう。
「どういたしまして…… お互い助かってよかった」
オレは、ドローンに向かって答えた。
司令室は静まり返っていた。
メインスクリーンにあったのは、粉々に粉砕された機械惑星と3体のデバイスの残骸で、光子魚雷で破壊されたというよりは、何かに引き裂かれ、バラバラにされた跡といった風である。
一体どのような暴力装置が、この結果を生み出せるのか。
想像力があっても難しいと思える結果だ。
「一洸、きみなら大丈夫なのはわかっていたが…… 無事でよかった」
そう言ったホワイト大佐の顔は、軍人のそれではなく、普通の優しい紳士であった。
その様子を見た司令室のスタッフたちは、なんと拍手をし始める。
マズい。
オレは、こういったものが何より苦手なのだ。
協力してくれた女性オペレーターも、満面の笑みで拍手してくれている。
涙を拭いたエイミーの目は、まだ赤いままだ。
オレは再びメインスクリーンに目を向ける。
一旦脅威は去ったが、それは始まりに過ぎなかった。
◇ ◇ ◇
あの声……
私のところにまでも聞こえる、心の中に響き渡るような声音。
あれが、この大地の下に眠っていた存在の声なのね。
一洸さん、どうするつもりなんだろう……
私たちだけじゃ、とても戦力足りないと思うんだけど、本当に勝てるのかな。
ちょっと前まで、みんなでギルドの仕事をしていた頃が懐かしいよ……
実はとっても幸せだった私。
あなたに逢ってから、レイラも変わったし、私ももちろん……
でもあなたはミーコちゃんのもの、それもわかってる。
わかってるわよ。
◇ ◇ ◇
一洸さんのバカ……
一人で行かせない、誰かがそう言っても、あなたは一人で行くんでしょうね。
私がどれだけ一緒に連れて行ってなんて言っても、絶対に一緒になんていさせてくれない、わかっています。
あんなの、あんなに危ない事、どうしてやろうとするんだろう……
周りが許しているとでも思っているからだろうな。
私、あんまり怒らないんだけど、もう本当に許せない……
ミーコちゃん…… バトラーを降りて、ネフィラ先生のところへ行ってる。
ミーコちゃんの邪魔はしない、一洸さんにとって大切な人はミーコちゃん。
だから私は……
私は……
◇ ◇ ◇
あたしはいてもたってもいられず、ネフィラ先生のところへいった。
おにいちゃんが待機してろって言ったけど、どうしてもお願いしたかった。
あたしでは、おにいちゃんを止められない。
だから、ネフィラ先生にお願いするしかない。
おにいちゃんを、おにいちゃんを助けてあげて……
「……ミーコちゃん、大丈夫?」
ネフィラ先生は、あたしを心配そうに見つめている。
あたしはネフィラさんの手を握ってお願いした。
「ネフィラ先生お願い……
おにいちゃんを助けてあげてください。
お願いします、あたしじゃおにいちゃんの力にはなれないの……
おにいちゃんは、おにいちゃんは……」
あたしは涙がとめどなく流れて、自分ではどうしようもなくなってしまった。
先生はあたしの肩を優しく抱いてくれる。
先生に触れられた瞬間、今まで溜まってた思いが一気に噴き出してしまいそうになった。
だめ。
もう我慢できない…… ごめんなさい、おにいちゃん、ネフィラ先生。
「ネフィラ先生……
おにいちゃんを連れて行かないで」
あたしは言ってしまった。
これ、言ったらもうおにいちゃんに会わせる顔がないよ……
でも我慢できなかった。
「……ミーコちゃん大丈夫よ、私も一洸さんのことは好きだけど、私は彼を連れていきたくても出来ないの。
だから私が大好きな分も、あなたが支えてあげてね」
そう言って、ネフィラ先生はあたしを抱きしめた。
ちょっと驚いたけど、ネフィラ先生は生きていないのにすごく温かかった。
あたしはその温かさにふれて、なんだかわからないけど、ますます涙が一杯でてきて止まらなくなちゃった。
ネフィラ先生は、泣いているあたしをそのままじっと抱きしめ続けてくれた。
【 恐れ入ります、下記お願いいたします 】
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