第151話 もうひとつの対話
オレは再度、ネクスターナルに確認した。
確認というよりは、念押しに近いか。
“あの3体の新デバイス…… 未知のシールド展開の発生源と仮定すると、もし一つでも欠ければ機能しなくなる、その可能性は高いわけですよね?”
ネクスターナルは間髪を入れず返してきた。
“その可能性は高い。
我々の末端機器との連携を断ち切り断線状態を維持しているのだ、相当のものだと仮定できる。
あの3機の位置相関を見て欲しい。
三位一体となって、中心に位置する機械惑星のガードとして機能しているのは、概ね間違いないだろう”
ネクスターナルの話を連邦の面々は黙って聞いている。
技術スタッフは、興味深げに成行きを見守っている風だ。
オレはそんな連邦の技術スタッフたちに向けて問いかけた。
「ネクスターナルのドローンは通信不可とのことですが…… 連邦側のドローンも同じくそうなんですか?
データのやり取りはできなかったとしても、例えば声だけ送れるとか」
ダメ元でオレは聞いてみた。
内部に通話相手のいない場所への通信……
確認するまでもなかったのだろう。
「……それはまだ、確認できていません。
通常のコミュニケーターとしての通信確認ですよね」
「お願いできますか」
技術スタッフは、オペレーターと話し始めた。
通常の回線とは違った、補助帯域にて試行しているようである。
「一洸さん、可能です。
あくまで会話だけですが、繋がりました」
オレはわからないように悪い顔で微かに笑うと、スタッフに向けて小さく頷いた。
「……その、会話だけでしょうが、もし、動画でなくとも画像だけでも送受信できるようにはなりませんか?」
今度こそ無理そうだが、オレは敢えて聞いてみた。
オペレータは女性だったが、オレの依頼にすぐに対処してくれている、本当に助かった。
「可能です、帯域が細いので無理かと思いましたが、艦内の状況を画像で受信することが出来ました。
切れ切れにはなりますが…… 動画でもできそうです」
オレは心の中で小さくガッツポーズをとった。
腕が持ち上がったが、多分誰も気づかないだろう。
「ありがとうございます……
それでは、具体的なプランを説明します」
オレは指令室にいる全員、ネクスターナルに向かってわかるように話し始めた。
ノーマルスーツに着替えたオレは、格納庫のスクリーンより、機械惑星内に残されたドローンの“目”に映し出されたカクカクの映像を見ている。
カクついてはいるが、鮮明さはなかなかだ。
オレはこの機械惑星内施設の一部に“魂意鋲”を打つ。
間違いなくそれを打つことが出来た。
エイミーが心配そうにオレを見ている。
「一洸、これ終わったらまた遊びに行くわ、だからちゃんと戻ってくるのよ!」
「そんな…… 大丈夫ですよ。
フラグみたいなこと言わないでください」
努めて笑って返したが、縁起でもないことをサラッと言えるのが、この時代の人間ならではなのだろう。
オレは指令室のオペレーターに繋いだ。
“一洸です、先ほどはどうも。
これから入ります、モニタリングよろしくお願いします”
“感度ばっちりです、お気をつけて一洸さん”
この内容は連邦はもちろん、ネクスターナルも全部聞くことになる。
それが必要な要件でもあった。
オレはアールに繋いだ。
“アール、これから入るよ
サポートよろしく頼む”
“こちらからも良く見えている
突然真空になっても大丈夫だろうが…… 気をつけてくれ”
“ありがとう”
オレは“0”に引き上げてもらい、保管域に戻ってすぐ機械惑星の“鋲”に引き出してもらった。
機械惑星の中に照明はないが、ノーマルスーツに装備された各種赤外線やセンサーのおかげで視界の不自由は全くない。
ここは中心部にほど近い、例の小型マナジェネレーターが置かれていた場所のようだ。
あの形状の機器がたくさん据え付けられている。
この空間だけでかなりの大きさだ。
オレの前には、小さなドローンがちょこんと立っている。
子犬ほどの大きさだが、これのおかげでオレはこの場所に立っていられるわけだ。
オレは深呼吸をした。
スーツ内の酸素流動は申し分ない。
では、始めるとしよう。
“聞こえるか高位知性種、オレは連邦の一洸。
話したいことがあってわざわざやってきた”
オレは誰もいない機械惑星の中心部近くで声を張り上げた。
反応はない。
聞こえてはいるはずだ、だが無視することはもちろんありうる。
下等生物がいくら吠えようが関係ない、それも想定済みだ。
“アール、外郭方向を教えてくれ”
アールがバイザーで示した方向、機械惑星の外郭に向けてオレは直径10メートルほどの次元窓を開け、力を放った。
“量子魚雷グレード2、発射!”
アールが放ったグレード2は機械惑星の内部から放たれ、それは半壊状態であった機体をさらに散開させていく。
威力の甲斐あってか、爆散は全壊しない程度で済んでいる。
“今、肩慣らしをさせてもらったよ知性種さん。
今度はお仲間の3機も同時に片付けようと思うけどいいかな?”
オレは厭味ったらしく言ったつもりだったが、伝わっただろうか。
不快な超音波のような振動が流れ始めた。
来たな。
機械惑星全体がブゥーンという小刻みな振動をして、何かに変わろうとしているかのようである。
“お前たちを殲滅する、これは決定事項だ”
高位知性種は、確かにそう返してきた。
その声は連邦のネクスターナルも聞いているはずである、前回の時と同じ感じだ。
“この量子兵器、あんたたち高位知性種のデバイスを応用して放っているんだけど、わかっているのかな?
なんでネクスターナルを取り込む必要があるのかも、こちらはわかっている。
そんなやり方では、いい進化なんて望みようもないと思うんだけど、そんなこともわからないのかい?”
強烈な音波というか、電磁波だろうか、身体がバラバラになってしまうような振動波が襲ってきた。
ズシィーン、と何かがつぶれる音、振動とともに、いやな破壊音が響き渡る。
“騒がしいのはお前たちか…… なぜ私の休息の邪魔をする”
何?
何の声だ?…… これはコミュニケーターからの声ではない。
直接意識に語りかけるような、テレパシックな声。
まさか……
“一洸、戻れ! そこから出るんだー!”
今まで聞いたこともないほどの声で叫んだのは、アールだった。
その瞬間、機械惑星はもの凄い早さで圧壊を始める。
周囲の施設が、とんでもない早さでオレに迫ってきた。
オレは反射的に素早く目の前のドローンを抱えると、“0”に引き上げてもらう。
保管域に戻る寸前、背後で機械惑星の潰れる叫び声が聞こえたような気がした。
【 恐れ入ります、下記お願いいたします 】
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