第148話 保管域の行使者
あれは…… あれはとんでもねぇもんだ。
あのなんとも言えない、底の知れない深い感じは、俺が無理やり閉じ込められた時、否応なしに押さえつけられた力に近い。
“クソ神”と同じもんじゃないだろうが、あの嫌な感じ、前に感じた波動に似てる。
俺はここじゃ他にやることもねぇし一洸に付き合うけどよ、あのバカでかい手をぶっ殺すのは俺やミーコたちやアール、一洸の力を合わせても難儀するぞ……
ネフィラの説明じゃ、バカでかい腕がクソ下等の親玉で、魂を持った本体だってよ。
なまじ形がない姿しか見せなかったが、もし形を持って力を放ってきたとしたら、俺もマジになんないとな。
だが、どうやっても倒さなけりゃならないんだとしたら、あのクソ神をぶつけるってのも一つの手だ。
もちろんそんなことは出来そうもないし、やりようもないさ。
でもあのクソ神なら、あるいはな。
◇ ◇ ◇
オレはバラムが掴んだ腕を握り返しながら、彼女を落ち着かせた。
「ネフィラさん、あれが古のものの本体だとすると……
この世界にいる魔族は、全て捕食されてしまうんでしょうか」
ネフィラの表情は少し前に比べると普段のそれに近かったが、険しさの部分はそのままだった。
「……そうね、そうなるかもしれないわ。
それは魔族だけではなく、人間も同じよ。
捕食というより、地上にあるもの全てが踏みつけられるでしょう」
“アール、あの“腕”は今どうなってるかわかるか?”
“機械惑星の軌道を変えた状態から、全く動いていない”
“そのまま監視を続けて欲しい、動きがあったら知らせてくれ”
“わかった”
“エイミーさん、今大丈夫ですか?”
“一洸、大丈夫だったの? あたし……”
エイミーは泣き続けたからだろうか少し鼻声だったが、声の調子はしっかりしている。
“見えていると思いますが…… この星に眠っていた管理者的な存在が、あの機械惑星をはじき返しました。
機械惑星の動向はどうですか?”
“落下軌道を外れてこの星から離れようとしているわ。
このまま監視は続けるけど、また制御を戻されるかもしれない”
そうだろうな。
その場合、古のものどもの出現は腕だけでは済まないだろう。
オレはネフィラとバラムに向かって言った。
「バルバルスさんに会って、対策を伺ってみます。
状況が変わったら知らせてください、あの場所でもこれは通じます」
窓を閉める寸前ネフィラの顔が見えたが、今にも泣きだしそうな顔だ。
オレは“守護者の間”に転移した。
守護者の間へ手を伸ばしたオレを、バルバルスは引き上げてくれた。
「大変だったね……」
バルバルスの雰囲気は、それほどの大事ではないかのように思わせる。
「あれが古のものの本体なんでしょうか……
もう再び眠りにつかせることは出来ないんですよね?」
バルバルスはオレを促しながら先に立って歩き、砦の地下に続く回廊を降り始めた。
「見せたいものがある」
砦の地下深くにある巨大な空洞。
回廊を降り続けてたどり着いたそこには、中心に固定された魔換炉、マナジェネレーターの10倍はあるかと思われるものが据えられている。
取り込み口に接続されている10メートルはあろうかというパイプは、地下から伸びて静かに鳴動しているようだ。
まさかとは思った。
このエネルギー、まさか……
「きみなら気づくと思ったよ。
なぜ眠ってもらっているのか、そうしなければならない最大の理由はこれだ」
覚醒していない状態で体力を奪われ続ける。
そうしている状態こそが、未覚醒の状態を維持し続ける唯一の方法であり、供給元の力ともなり得ている。
「……眠りながら、自分自身を抑え込むためだけに体力を使われ続けているわけですか」
「そうだ。
これしか、殺すことのできない対象を眠らせたままにしておく方法はないんだ。
現在、まだこれは動いている。
腕だけ動かした状態…… まだ完全な覚醒には至っていない。
寝ぼけ眼で顔にふりかかる虫を払った状態、かな」
彼はまるで大したことのない風であるように、あっさりと言ってのけた。
「この事実を知っているのは…… 大魔王、あなただけなのですよね」
「今一人増えたよ、魔元帥一洸」
大魔王バルバルスはそれまでの笑みに加え、さらに爽やかさを増しておれに答えた。
「これでも私を連れ出そう、魔界に戻そうとまだ思うかい?」
「……」
「私はここを出るわけにはいかないんだ。
権能者である私がここを出た場合、ほどなくしてこれを維持するエネルギーバランスが崩れるだろう、と予想している。
もちろんやったことがあるわけではないから、予想だけどね」
オレは守護者の間、異跳界と保管域の決定的な違いをここで知った。
「オレの保管域、これは自由に場所を動くことが出来ます。
この権能と、今のように接続することができれば、バルバルスさんも外にでられるのでは?」
バルバルスはフッと笑った。
「そうだね、きっとそうだろう。
私には体内に全く魔素がないんだ、術式を用いても使用できない。
これは召喚元の世界が、魔素に完全に依存しない世界だったからもある。
研究者である私が言うのだから、そうだよ。
きみの属性である闇魔法、まさに奇跡のマッチングだったんだ。
外から見ていた私も、かなり羨ましく思ったね」
「では……」
「きみは選ばれるべくして、もたらされるべくして与えらえた“保管域”の行使者ということになるな」
◇ ◇ ◇
「高位知性種のデバイス惑星、進路を変えました……
制御が復活したようです」
ホワイト大佐の表情は、これまでにないほど険しく変化した。
その顔を見つめるエイミー少尉もまた同様に。
【 恐れ入ります、下記お願いいたします 】
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