第147話 変わりゆく季節
大陸の南側に位置するアルデローン帝国の沿岸。
そこで暮らす猟師アリステアは、本日の仕事を終えて港に戻るところであった。
海は凪いでおり、まずまずの収穫。
今日は大きい魚は獲れなかったが、中型の数が多かった。
ここのところ順調に収益が上がっている。
内陸の方では化け物が暴れているなんて話がでているが、この海沿いの街まで被害はとどいていない。
もうすぐ結婚記念日だな、少し奮発して女房にドレスでも買ってやろう。
アリステアは見えてくる母港を見据えて、そんなことを考えていた。
急に空が暗くなる。
何が起こった?
振り返るアリステアの後ろにあったのは、見たこともないほど高くカールした、山ほどもある巨大な波であった。
アリステアはただ口を開けて、自分と、自分の船と、妻への思いが飲みこまれていくのを黙って受け入れるしかなかった。
◇ ◇ ◇
“……一洸さん、戻って!!”
叫ぶようなネフィラの声が、バトラー内に響き渡る。
大気圏すれすれに位置した機械惑星を押し返した、大地そのものが隆起した腕。 まるで筒状の壁が立ちはだかるように、沸き出でる海原から津波を発生させ続けている。
水しぶきが嵐のようになり、前方視界はまるで存在しなかった。
上を見上げ、微かに空が見えたのを確認した後、オレはバトラーごと保管域に戻った。
保管域に入ると、バトラーのハッチを開けた状態のままふわりと地表へ降り立つ。
ネフィラとバラムがオレを受け止めるように迎えてくれた。
ネフィラの表情は怒りと、安堵と、そして喜びが混じった不思議な顔だ。
オレはバラムに何と言っていいかわからず、ただ頭を下げるしかなかった。
「……バラムさん、すいません。
ベリアルさんを、ベリアルさんを失ってしまいました。
彼に現状を伝えたオレの責任です、事後策を講じられなかったオレの責任です。
本当に」
そこまで言ったオレの両手をバラムはしっかりつかんで言った。
「一洸様! ベリアルの、ベリアルの願いを、どうか!」
彼女は目を真っ赤に腫らせてオレにそう言い、頭を預けてきた。
バラムの角に当たらないよう、気をつけながら彼女ごと肩を抱き寄せる。
泣き崩れるバラム。
オレは彼女の肩をしっかりとつかみ、その思いに応える。
ネフィラはそんなオレとバラムを、まるで慈しむような眼差しをかけながら言った。
「……あれが、恐らく古のもの、心のある化け物の本体よ」
◇ ◇ ◇
一洸さん、あの魔族の人、バラムさんを抱きしめてあげてる……
全部聞いていたわけじゃないけど、一洸さんが飛び出した後、私とレイラ、ミーコちゃんたちで準備は万全に整えた。
あんな急な出来事に対処するなんて、誰がやっても無理なのに、あの人は一人で抱え込もうとしてる……
私だったら、私がもっといつもそばにいてあげて、あの人のサポートをしてあげられれば、もっと上手くやれると思う。
でも、あの人は私やレイラたちを出来るだけ危ない局面から避けよう、避けようと考えてる。
この保管域にいる限りは、外敵が襲ってこようもないけど、私をもっと上手く使ってくれれば、きっと役に立つのに。
レイラよりもずっと…… あの子には悪いけど…… ミーコちゃんよりもずっと…… ネフィラさんはここからでられないし、私はきっとあなたの役に立つよ、一洸さん……
でもきっと、あの人はわからないんだろうなぁ……
◇ ◇ ◇
一洸さん、よかった……
また無事な姿を見れました、私はそれだけでも嬉しいです。
でも…… バラムさんから離れて欲しい、無駄に優しすぎます一洸さん。
あなたに要らないもの、誰にでも優しすぎること、だから誤解されるし、されてほしくないし……
早く離れてください、私見てるんですから。
お願い、そんな姿見たくない、私、もう……
お願いです、一洸さん……
◇ ◇ ◇
おにいちゃん……
ネフィラさんの言うことは聞くんだね。
あのままあの化け物のところに居続けるつもりだったんだろうか……
おにいちゃんには、ちゃんと危ない場面で、“それはだめ”って言ってくれる人が必要なんだよ。
それがネフィラ先生なの?
おにいちゃん、あたしじゃだめなの?
あたしは、おにいちゃんの、なんなの?
なんか…… おにいちゃんが離れていくような気がして、すごく辛いよ……
あたしは、アンナちゃんやレイラちゃんみたいに、冷静でいられない。
おにいちゃん、あたしはおにいちゃんに連れられて部屋で大きくなったミーコのまんまなんだ……
今は言葉もわかるし、計算もできるし、本も読めるけど、おにいちゃんを大好きだったミーコは変わってないんだよ……
だから、もっと頼ってほしいのに……
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