第136話 伝えたいこと
“封印の儀。
復活させてはいけない古の者どもを永遠に封じ込めるべく太古よりエルフに伝わりし秘儀で、行使者は魔力を出し続けなければならない。
大魔王バルバルスが身を挺して実行し続けている。
封印の間へ入るには、魔王の資格を持ったもののみが許されているとされているが、実質的には、権能による空間の維持が魔王以外には不可能である所以からである。
有史以来その秘儀を実行したものは、バルバルス以外にはいない。
術者とのコンタクトは、術者が定めた解呪の法によってのみ、一時的に可能だとされている”
「以上が、この氷の地獄にある異空間の先で行われている、“封印の儀”の内容よ」
ネフィラは、オレたちの前で厳かに説明してくれた。
「この封印の儀は、内側で行使している術者以外は解除できないと言われてるわ。
バラムさんが行った解呪の法は、異空間に少しだけ裂け目を作るという荒業のようなものなの」
魔法に集中している間は、絶好の攻撃タイミングだな。
空中からの術式展開なので、まさか攻撃しようもないだろうなどという甘い読み故だ。
これは、結果を急ぐオレのミスでもある。
「ネフィラ様…… 私が解呪の法で開けた隙間へ、エルフに伝わる意思疎通の術を行うことは…… やはり、ネフィラ様でなければ無理なのでしょうか?」
「エルフ以外が実行するのは不可能ではないわ、ただし相当な負担がかかるのよ。
他の魔族や亜人、もちろん人間とも違って、私のようなエルフは神経構造が独特な
の。
基本的にエルフ特有の身体的特徴から成り立つ固有魔法であり、エルフ以外の種族が使うことは出来ないとされてるわ。
いわゆるテレパシーに近いことができるんだけど、思い浮かべた映像や記憶を伝え合う術よ。
解呪の法との同時展開は…… バラムさんでも難しいと思うわ」
「オレがやりますよ」
オレは躊躇わず立候補した。
「……一洸さん、嬉しい申し出なんだけど、この“意通解”は、脳神経に大変な負担と痛みを伴うのよ。
エルフがやってもそうなの、人間のあなたがどうなってしまうか……」
ネフィラの困惑した顔、ひょっとして初めて見るかもしれない。
本当にやってほしくないんだろうな。
「大分前の文献だけど、痛みを避ける魔法を同時に使用することで、ごく短時間であるが使用することが出来たという記録が残っているだけ。
私はあなたにやってほしくないわ」
「あたし、おにいちゃんに光を充て続けてみる、それならやれるかもよ先生!
痛みとか、かなり違うと思う……」
少し自信なげな言い方であったが、ミーコが言った。
「……あ、あの、私も、一洸さんの機体に絶対に何も近づかないように、します」
「全開で守ります、大丈夫です」
レイラとアンナが続けて言ってくれた。
ありがとうみんな。
今のところ解呪の法で一時的に隙間をあけたとしても、中の大魔王と意思疎通できるという保証はどこにもない。
なら、その開いた異空間への裂け目へテレパシーで思いを受け取り合うしかない。
オレはネフィラの顔を再び見た。
彼女は決意を汲んでくれたのだろうか、少し力を抜いた表情になってくれた。
まず練習してみるか。
お願いします、ネフィラ先生。
外界の時間停止を行ったオレは、ネフィラから術式を教えてもらった。
その術式をバトラーのAIに読み取らせ、スクリーンに直接映し出して行使すべく準備を整える。
オレはこの“意通解”の内容を理解するうち、ひょっとしたらと思うことがあって、試したくて仕方がなかった。
これはまだ誰にも言っていないが、ネフィラは気づいているのではあるまいか。
珍しくバラムが心配そうな表情でオレを見ている。
そんな顔をしている時の彼女は、とても魔族の筆頭魔神将とは思えない。
「……一洸様、ご面倒をおかけします」
「いえ、これも魔元帥の仕事のうちです。
その、もし意思のやり取りが出来たら、バラムさんから大魔王に伝えることはありますか?」
「一洸様……」
バラムは言葉を詰まらせてしまった。
本音で何か言おうとしたのだろうが、恐らく言いづらくなったのか、俯いてしまった。
「考えといてください」
オレは、今の彼女にそれしか言えなかった。
“封印の儀”が行われている異空間のポイント、その前に浮遊するオレの新しい愛機。
その周りには、アンナ、レイラ、リロメラのバトラーが、それまでにないほどの警戒で、控えてくれていた。
サブシートに掛けるバラム、少し窮屈そうなミーコが背後からオレを抱きしめるようにしている。
「いつでもいいよおにいちゃん」
バラムが後ろを振り返った。
オレは彼女に微笑んで、頷いた。
“バトラーを開ける、みんな頼む”
““はい!””
“おぅ!”
ハッチを開けたバトラー、冷気がなだれ込んでくる。
バラムが先ほどと同じ“解呪の法”を展開、魔法陣が空中に展開され、空間が歪み始める。
オレは深呼吸をして、ミーコに言った。
「始めるよ…… 頼む」
オレの肩に触れたミーコの握る手が強くなった。
それが合図だ。
“意通解”を発動した。
頭を刺すような激痛が始まる。
鏡があるわけではないが、見せたくはない苦悶の表情になっているだろう。
……これは、すぐに決めないと死ぬな。
ミーコの光りがオレを包んでいるのがわかるが、それでもこの激痛である。
補助の光魔法が癒していない場合は、本当に死ぬ場合もあるだろう。
何もないポイント、氷の壁面に黒い亀裂が入り、中から光が溢れ始める。
あれだ。
オレは痛みに耐えながら、意識を集中した。
眩い光の中、一人の男が立っている。
その男は柔らかい笑みをたたえて、優雅に佇んでいた。
“あなたがバルバルス様ですか?”
そう言うオレに、男はこの上ない余裕を見せて頷いた。
オレは、すぐさま男の足元の床に“魂意鋲”を打つ。
その動きがまるでわかっているかのように、男の表情は満面の笑みに変わった。
あまりの痛みに耐えきれず、オレはそのまま気絶した。
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