第131話 魔界の事情
前を歩くミーコが止まった。
オレは背後を注意しながらも、アンナとレイラの前衛にいるミーコの様子を見に行く。
「なにかあったか」
ミーコは“しっ”と指を口にあてて耳を澄ましている。
目を瞑りはじめ、感覚を研ぎ澄ましているのが解かる。
オレはアンナとレイラでミーコの周りを囲むように位置し、機を伺った。
「おにいちゃん…… 叫び声が聞こえる、すごくたくさんの」
「叫び声?」
オレは反射的にアンナとレイラを見たが、彼女たちはそこまでの聴力を持っていないようだ。
「叫び声って…… リロメラの声も聞こえたとか?」
「ううん、リロメラじゃなくて、多分魔物や魔獣の」
オレは一瞬考えて、リロメラに通信した。
“……リロメラ、大丈夫か?”
“おぅ、俺はなんともねぇ。
お前らを呼ぶべきか、ちょっと考えてたんだけどよ。
あの後ずっとあのクソ下等を追い詰めてたらな、海みたいなもんがある所にでた。
クソ下等の海が魔獣を喰ってんだ”
オレは一呼吸おいて、リロメラの言葉の意味が入ってこなかった部分を想像力で補った。
ネクロノイドが海のように広がり、それが魔獣を捕食している……
恐らくこのあたりなのではないか。
“……その、ネクロノイドが魔獣を吸収している、そんな場所の近くにいるんだな?”
“そ、そぅだよ、すげぇな一洸!”
オレはほんの少し、たまった息を吐きだしてリラックスした。
“リロメラ、その場所ってオレたちが行っても大丈夫そうか?”
“まともに見るのは無理かもしんねぇけど、多分大丈夫だ”
オレたちは、そのまま跡を伝って前に進んだ。
そこは崖の隙間を抜け突如広がった湖畔のような場所で、リロメラの見つめる先には断崖が続いている。
魔素効果で夕暮れ時のような明るさは、ここが地底であることを忘れさせた。
視線の先、遠く崖がそびえる場所から何かが落ちているのが見えた。
オレは目を凝らしてそれを確かめる。
蠢く何かが崖の上から落とされ、それは下にある海、ネクロノイドに飲まれて消えていた。
オレは目の前の湖畔を見た。
これが全てネクロノイドなのか。
波の全く立たない、死んだような海。
オレは大きく深呼吸をして、みんなを見た。
「まず戻ろう、それから対策だ。
オレは魔界に行ってこの状況を伝えてくる」
“魔界か……” リロメラが独り言のように呟いているのが聞こえた。
外世界の時間では数週間前の出来事だったが、もう随分前のような気がしてならない。
保管域での時間間隔と、現実世界でのそれがズレ始めているのだろうか。
保管域に入ったオレは魔界の入り口に打った魂意鋲を呼び出そうとしたが、ネフィラの心配そうな顔を見て、軽く頷いて見せた。
魔素の発散に関してはまだ不十分だったのだろうが、この状況は急ぎ共有する必要があるだろう。
オレは魔界へ転移した。
魔界での最初の接見場所にオレは出現した。
何も伝えずにやってきたので、当然誰もいない。
オレはバラムに通信した。
“バラムさん一洸です、突然すいません、今魔界の入り口のところにいます、急ぎ伝える要件がありまして。
こちらから伺いますよ”
“……承知いたしました、カミラに案内させます”
近くにいてくれたようで助かった。
この期にオレの影を常駐させて、魔界の状況把握も申し出ておくか。
そんなことを考えながらオレはカミラに導かれて、魔動車でバラムのいる場所に向かった。
これはなんだ。
市内はまるで市民運動のような様相で、プラカードを持った魔族がメインストリートを練り歩き、何かを主張しているようである。
その様子は、いつかみた何処かの世界の光景と全くといっていいほど変わらない。
オレはカミラに聞いた。
「……これは、どういうことですか?
前来たときは、こんな状態ではなかったはずです。
何かの反対運動か何かですか?」
カミラは一瞬考えたような仕草をしたが、答えてくれた。
「……反乱、というわけではないのですが、以前より上がっていた要望が強くなったといった感じです」
「要望?」
「ええ、魔族の中にはこの魔界を離れて元いた地上界へ回帰しようという動きがありました。
それは大魔王陛下がこの魔界を開いた当初からあり、地上の生活を忘れられない一部の者が常に声をあげておりました」
地上への回帰、魔族国家プルートニアへの移住要望といったあたりか。
仮にそうだとして、何か不都合でもあるのだろうか。
魔動車の乗り心地はなかなかであり、ほどなくして王都の中心部にある公安本部へ到着。
正門にはバラム、そして公安担当の幹部らしきメンバーが揃って出迎えている。
「一洸様、わざわざお出向きいただきまして恐縮です」
バラム一同、警備兵とともに敬礼。
突然やってきて密かに要件を済ませて帰ろうと思っていたオレは、恐ろしく統率された兵を見せつけられ、かなりビビってしまった。
「すいません、突然やってきてしまって」
そういうオレに、一同はさらに深く礼をしてくれた。
はっきり言って苦手だ。
この様子を見ているネフィラは、クスっと笑っていることだろう。
オレはバラムの執務スペースに通され、ダンジョンの中でみた事情を説明した。
彼女は相槌を打ちながらオレの話を聞いていたが、それまでの思いつめたような表情をさらに深めてしまう。
「……一洸様は、まだこの魔界の開かれた事情をご存じないと思います。
こちらに来るまでに、市内の様子をご覧いただいてお分かりかと思いますが、この魔界は…… 魔界を維持していく力が、弱まっているのです」
弱まっている?
確かにこの情報は初めて聞かされる。
魔界の始まり、大魔王の存在……
ネフィラからも聞いていないその内容が、バラムの口から語られ始めた。
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