第130話 海のように広がる
“なんだぁこいつ…… いつものクソ下等より動きが早ぇ”
ネクロノイドは体長の大きさからであろうか、リロメラが見知っていたものよりずっと機敏であった。
ピストンを押すように両手で光弾を撃ちだすリロメラ、直撃を素早く避けるネクロノイド。
まるで敵の考えを察知し、予め移動するかのような狡猾さと敏捷な動作。
巧みに躱されるリロメラの攻撃能力は絶大で、人間サイズの身体を削りながら逃げおおせている。
“クソ下等がぁ、俺様から逃げられるとでも思ってんのかよ!”
粘体の体躯を転げながら移動するネクロノイドを追うリロメラの姿は、元いた場所からは伺うことが出来ない程の深層へと降りて行った。
◇ ◇ ◇
“一洸さん、わたしたち戻ります”
アンナが伝えてきた。
果たしてここに戻すべきだろうか、正直迷っている。
リロメラがここにいない今、オレとミーコの戦力よりもアンナとレイラがいた方がいいに決まっている。
だが先ほど感じた本能的な危険は信じたい。
随分前からだが、直感には従うことにしている自分がいた。
“……あの、一洸さん、戻らせてください、私、戦えます”
レイラ……
オレはアンナとレイラを保管域から出すと、作戦を考えた。
ここは新しいダンジョンの入り口から3階層ほど降りた洞窟付近で、あの魔界への転移陣からもそう離れてはいない。
そうか、ここは魔界の入り口へも近いんだった。
オレはリロメラに通信すべきか迷っている。
戦闘中に気を散らすようなことがあって、それが原因で動作のミスとなってしまっては元も子もない。
状況を確認すべきだろう。
「まず現場に戻ろう、リロメラの後を追って動くことにする。
縦列体系を維持して進行、ミーコが先頭でオレは後衛につく。
ここからは本当に危険だから、みんな気を引き締めていこう」
「「「了解!」」」
トロールと戦っていたのは人間サイズのネクロノイドだ。
あのトロールの攻撃は、全くと言っていいほどネクロノイドには効いていなかった。
それで魔獣が出てこないわけか。
移動している間、魔素の変動も魔獣の気配も感じていない。
この間発散するために来た時はそこそこの出現頻度だったものが、今日はどういうことか全く気配がない。
「一洸さんおかしいですね、魔獣の反応がありません」
アンナがすぐ前からオレに言ってきた。
「……あ、あの、私わかるんです。
魔獣が出てくるとき、ピリピリとした、いやな感じが周りに満ちてくるんですけど、今全く感じません」
続いてレイラも。
亜人ならではの感覚なのだろうか、オレはそれを信じるつもりだ。
先頭を歩くミーコはネクロノイドが転がったであろう跡を辿って、深層へと歩みを進めている。
救いがあったのは、特段嫌な予感がしなかったことだ。
予感は、現実に直面した時に感じる本能的な危機感とはまた別のもの。
なんとなくだが、リロメラに危機が及んでいるとも思えなかった。
オレは自分の持ちうるささやかな感覚全てを動員し、最大限警戒しながらミーコたち亜人の勘も頼りに、リロメラの後を追った。
◇ ◇ ◇
“けっ、笑わせやがるぜクソ下等がよ!
あれで俺様をまいてるつもりだぜ、下等のやらかすことはどの世界でも変わらねぇな”
独り言ちながらリロメラは、ダンジョンの深層へと降りて行った。
ネクロノイドの転がった後はリロメラの目で追うには容易いようだ、まるで道案内に導かれるようにそこへたどり着いた。
“……なんだここは、こんな地底に海があんのか”
海と思われるほど広大な水平線の手前にある崖から、何かが大量に落ちていた。
それは岩ではない、何か。
リロメラは目を凝らして見定めようとするが、遠すぎて視認できない。
“くそっ、遠すぎて見えねぇ。
近くまでいくか。
でもありゃなんだ…… 一洸呼んだ方がいいかな。
ま、あいつを呼ぶまでもねぇ、何がでてきても片付けりゃいいだけだ”
リロメラは自らが発する光を抑えて、目立たないよう岩場にそって飛行した。
崖から落ちていたもの、それは岩ではなかった。
魔獣だ。
蟻のように崖の上に埋め尽くされた様々な魔獣が何かに突き落とされ、海に飲まれている。
近くに寄ってみるまでもない恐ろしい事実が、リロメラへ認知された。
どこまでも続く海原、海のように広がるネクロノイド……
“クソ下等…… 気持ち悪ぃなんてもんじゃねぇな。
あの魔獣を突き落としてるのはよぉ…… あの小せぇ下等か。
まさか…… まさか喰わせてるのか、この海に”
リロメラは一洸に連絡することも忘れて、しばし呆然としてしまった。
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